僕のわがまま
「……なんて約束してみたものの、『魔導兵器』は
トイレで用を足しながら、僕は独り言ちる。
ここなら少なくともイルゼや他のヒロイン達にうっかり独り言を聞かれたりすることもないし、他の生徒達は聞いたところで理解できないだろうし、何気に安心。
今度から考え事をする時は、トイレに篭もることにしようかな。
「まあでも、さっきの【ファイアボール】も彼女に搭載されている兵器の一つだし、パートナーの僕としては
ゲームにおけるカレンのキャラ設定として、『魔導兵器』であるがゆえにデメリットが存在する。
それが、
まあ、言葉どおり敵味方見境なく攻撃をしてくるというもので、色々と面倒くさい。
実際にゲームでこの暴走状態になると、周囲八マス以内にいる全てのユニットに対し、その時点で習得済みのスキルからランダムで攻撃を仕掛けるんだから、本当に面倒くさい。
しかも、魔法攻撃力は二倍に跳ね上がって。
オマケに、暴走状態については他の状態異常とは異なり、五ターンは回復不可能ときている。
つまり、この前のようにボルゴニア王国で『吸魔石』を使って石化状態を回復するといった、アイテムによる強制回復ができないということだ。
「……現実に暴走状態になったら、どれくらいで回復するんだろうか」
最悪、カレンがその状態に陥ったら、周囲の生徒達をすぐに避難させないとまずい。
これは、イルゼ達四人にあらかじめその準備をさせておいたほうがいいかも。
僕? 僕は……どうしよう?
一応、オフィーリアにも手放しで褒められるくらい防御は得意だけど、それだってあくまでも物理攻撃に対してだもんなあ。
そうなると。
「あー……残り二試合、開始前に聖女に【ディフレクション】をかけてもらう?」
なんて考えてみたものの、それは反則だし、そんなことがバレたら大勢から何を言われるか分からない。
とはいえ、カレンのパートナーが僕だったのは不幸中の幸いだよ。
だって……これなら、イルゼ達が傷つくことはないから。
「よし!」
僕は両頬をパシン、と叩き、気合いを入れると、手を洗ってトイレから出た。
「ルイ様、お疲れ様です」
イルゼがトイレの前で僕に労いの言葉をくれた。
一体僕が何にお疲れなのか尋ねたいところではあるけれど、そんなことを聞いたらセクハラ案件なのでぐっと
特に、『醜いオークの逆襲』の中ではトイレ内でイルゼと行為に及ぶシーンがあったりするので、そんなことを思い出してしまった僕は自分の中のオークを抑えるのに必死である。
こんなことなら、トイレで賢者になっておくべきだったなあ。
「ありがとう。それで、実技試験のほうはどうなってるかな?」
「生徒のほぼ全員が第一試合を終え、次の第二試合にとりかかるところです」
「そっか」
僕とイルゼは訓練場の中に入ると、ちょうど最後の組の試合が終わったところみたいだ。
そして。
「次の試合! イルゼ・ナタリア組、ルートヴィヒ・カレン組、前へ!」
ええー……よりによって、イルゼ達と対戦するのかあ……。
思わず苦笑いしながらイルゼを見やると、彼女はまるでこの世の終わりだと言わんばかりの、絶望の表情を浮かべていた。
……まあ、従者が主人に対して刃を向けるなんて、普通に無理だよね。
「あはは、大丈夫だよ。それより、試合を楽しもう」
「ル、ルイ様、ですが」
「大丈夫大丈夫」
戸惑うイルゼの背中を押しながら、試合の舞台となる訓練場の中央へ向かう。
聖女とカレンは、先に行って僕達を待っていた。
「やあ、お待たせ」
「ルートヴィヒさん。これは試合ですので、手加減はいたしませんよ?」
聖女は微笑みながら、宣戦布告をする。
おっと、意外とやる気みたいだ。
一方で。
「…………………………」
カレンは表情を変えず、ただボーッとしていた。
おそらく、試合開始まで
こうやって見ると、まさに戦闘マシーンって感じだけど、本当の彼女はちゃんと感情はある。
そのことは、前世でプレイヤーだった僕が誰よりも知っている。
「イルゼ」
「……かしこまりました」
イルゼが、苦しそうな表情を浮かべながらダガーナイフを取り出した。
さすがに
僕も、腰にある双刃桜花を
さあ、始めよう。
僕とイルゼの、初めての戦いを。
といっても。
「はじめ!」
「参りました!」
「「「っ!?」」」
僕は、最初から棄権するつもりだったけどね。
「ル、ルートヴィヒ、ふざけているのか!?」
「まさかですよ、先生。かたやミネルヴァ聖教会の誇る聖女様、もう一人は僕の
「む、むう……」
僕の説明に、教師が
おそらく教師自身も、カレンはともかく僕が二人に敵うとは考えていないんだろう。
「プッ」
「クスクス……」
周囲から、僕に対する
隣にいるカレンも、普段の無表情とは異なり、非難の目を向けていた。
まあ、知ったことじゃないけど。
「ル、ルイ様、どうして……」
困惑した様子で、イルゼが問いかける。
その姿を見る限り、彼女もまた、わざと負けるつもりでいたんだと思う。
それも、こんな極端なやり方じゃなくて、僕が上手く引き立つように。
他の連中は、どうせヤラセだって考えるだろうけどね。
「あはは、決まってるよ。これが期末試験だからって、僕は君とだけは絶対に戦いたくない。そんな、僕の
そう言って、僕はニコリ、と微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます