大切な仲間で、大切な女性(ひと)

「うふ♪ そう……この国の貴族にあてた手紙が、ロレンツォ達の屋敷などから発見されました。もちろん、その反対にボルゴニアの貴族からロレンツォ達にあてた手紙も」


 教皇は、とどめとなる事実を言い放った。

 あー……まさかこの国の貴族が、国民の苦しみもいとわずにロレンツォ達と共謀していたなんて、さすがに思いもよらなかった。


 本当に……本当に、だ……って。


「イルゼ……」

「ルイ様……だからこそ、最後まで見届けましょう。この者達の・・・・・全てが・・・終わる・・・瞬間を・・・

「……うん」


 怒りのあまり唇を噛み過ぎて血が出ているところを、イルゼがハンカチで丁寧に拭ってくれた。

 そうだね……君の言うとおり、最後まで見届けよう。


 この一連の事件に関わった、一人として。


 すると。


「……まさか、側近達がそのような真似をしでかしていたとは……!」

「「「「「っ!?」」」」」


 現れたのは、ディニス国王だった。

 その姿を見た瞬間、側近の連中は目を見開く。


「お主等、何か申し開きはあるか」

「へ、陛下! これは教会の陰謀です! 教会が、バルドベルクやガベロットと手を結んで!」

「そ、そうですぞ! 我々が国民をこのような目に遭わせるなど、あり得ませぬ!」


 この期に及んでこの連中は、まだ言い逃れするんだな。

 本当に、反吐が出る。


「うふ♪ 証拠なら全て取り揃えておりますが……ディニス陛下、ご覧になられます?」

「そうさせていただこう。この者達の罪を全て明らかにするためにも、ゆっくりとな。兵達よ、この者達を全て捕らえ、王都まで連行せよ!」

「お、お待ちください陛下!」

「どうか……どうかお慈悲を!」


 ディニス国王に縋りつこうとする側近の連中を、兵達は全員捕らえ、連行する。

 こんな真似をしでかしたんだ。おそらく、一族郎党含め極刑は免れないだろう。


「教皇猊下げいか……此度こたびは助かった。誠に感謝する」

「まあまあ、礼には及びませんわ。この悪魔に・・・憑り・・つかれた・・・・愚か者達・・・・がご迷惑をおかけしたことが発端ですし、お互い様ということで」

「うむ……」


 教皇とディニス国王のやり取りを見て、僕は違和感を覚える。

 あれ? ひょっとしてこの二人、最初から……。


「それよりも、ナタリア……ごめんなさいね? まさか、あなたまで巻き込まれるなんて思いもよらなかったから……」

「うふふ、大丈夫です。私はルートヴィヒさんに救っていただきましたから」

「まあまあ、それは何よりね」


 聖女と教皇が、微笑み合う。

 ほんわかしているようにも言えるけど、この二人の腹黒さを知っている僕からすれば恐怖でしかない。


 絶対に、ろくでもないことを考えているんだろうなあ……。


「ルートヴィヒ殿下……改めて、ナタリアを救ってくださり、ありがとうございました」

「へ!? あ、ああいえ……ナタリアさんは大切な仲間・・・・・ですから当然ですよ」


 教皇から突然話を振られ、慌てた僕は頭を掻きながら謙遜してみる。


「まあまあ……ナタリア、これは・・・手強いわね・・・・・

「うふふ、そうですね」

「?」


 二人の会話の意味が分からず、僕は首を傾げた。

 ま、まあ、二人共笑顔だし、悪いことは……って、この二人の笑顔ほど怖いものはないんだった。気をつけよう。


「ルートヴィヒ殿下……このたびは、本当に感謝する。また改めて、ボルゴニア王国は帝国に対して正式に感謝の意を表するつもりだ」

「い、いえ! そんな、お気になさらず!」


 ディニス国王が頭を下げるのを、僕は慌てて止める。

 というかこの人、国王なのに随分と腰が低いなあ。やっぱり、あんな連中のせいで気苦労が絶えないんだろうな。大変だ。


「では、これで失礼する」


 ディニス国王は、兵達を連れて王都へと引き上げていく。

 僕達はそれを見送っていると。


「むー……ルー君、街のみんなも救って全て片付いたんだし、早く帰って慰労会しようよ」


 口を尖らせ、ジル先輩が僕の手を引く。

 まるで子どもみたいな反応に、僕は思わず苦笑した。


「うむ。ここから先は、ボルゴニア王国とミネルヴァ聖教会の問題。私達にできることはもうないのだからな」

「そうですね」


 オフィーリアとクラリスさんが頷く。

 確かに、いつまでもここにいても仕方ないしなあ。


「では、すぐに馬車を用意いたします」

「う、うん、ありがとう」


 お礼を言い終える前に、イルゼが僕達の目の前から文字どおり消えた。

 あれかな? 彼女も早く帰りたかったのかな? きっとそうだな。


「それで、ナタリアさんはどうする? 教皇猊下げいかとお会いするのは久しぶりだろうし、別々に……」

「うふふ、まさか。皆さんと一緒に帝立学院に帰りますよ」

「そっか」


 まあ、聖女がそうしたいなら僕に否やはない。

 それじゃ、この六人で帰ることにしよう。


「教皇猊下げいか、ありがとうございました。そして、このように慌ただしいご挨拶で申し訳ありません」

「うふ♪ 構いませんよ。それより、ナタリアをよろしくお願いしますね?」

「は、はい!」


 教皇にギュ、と手を握られ、僕は思わず声が裏返ってしまった。

 アレだよ? 決して僕は、教皇に篭絡されたわけじゃないからね? 何とも思ってないから。いや、本当。


「ルイ様、お待たせしました」

「あ! イルゼ、ありがとう!」


 馬車を連れてきたイルゼに駆け寄り、僕は労をねぎらう。

 あはは……結局このボルゴニアでも、イルゼにはお世話になりっぱなしだったなあ。


「まあまあ……やはりそちらの従者の方も、ルートヴィヒ殿下の大切な仲間・・・・・なのですね?」


 みんなをエスコートして馬車に乗せた後、最後に乗り込もうとした僕に教皇が尋ねる。


 大切な仲間……そう、でもある。

 だけど、イルゼは間違いなく、僕の……。


「はい! 僕の、大切な女性ひとです!」


 僕は、満面の笑みで答えた。

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