醜いオーク×狂乱の姫騎士=最強?

「だから……みんな、行けえええええええええッッッ!」


 その合図と共に、僕とオフィーリアは剣を抜き、イルゼ達四人が走り出した。

 さあ……四人が逃げ切るまで、オフィーリアと二人で絶対にここを死守しないとね。


「フフ……稽古ではいつも手合わせばかりだったから、こうして共に戦うのは初めてだな」

「あはは、そうだね」


 迫りくる兵士達を前にして、僕もオフィーリアも微笑んだ。

 うん……こう言っちゃなんだけど、『醜いオークの逆襲』最強の攻撃力を誇るヒロイン、オフィーリア=オブ=ブリントが仲間だということが、こんなにも心強いなんてね。


 今の僕は、誰にも負ける気がしないよ。


「オフィーリア……連中の攻撃は僕が全部引き受ける。君は、思う存分蹴散らしてよ!」

「任せろ!」


 まずはオフィーリアが一歩前に出て、身体を思いきりねじる。


 そして。


「ストーム……ブレイカアアアアアアアアアッッッ!」

「「「「「っ!?」」」」」


 その大剣がうなりを上げ、前列にいた兵士……いや、後方にいる者達も巻き込み、全てを弾き飛ばした。


 元々、『醜いオークの逆襲』はタワーディフェンス型のシミュレーションRPG。オフィーリアの最強スキル【ストームブレイカー】も、本来は拠点防御に特化したものだ。

 だから、敵に極大ダメージを与えつつ十マス分の距離を弾き飛ばせるんだから、こちらの態勢を立て直す意味でも、本当に優れたスキルだと思う。


 とはいえ。


「っ! ルートヴィヒ! 任せたぞ!」

「もちろん!」


 この【ストームブレイカー】は二ターンの間行動不能になってしまうから、オフィーリアが再び動けるようになるまでは、僕が絶対に守り抜く。


「あはは! オマエ達のような雑魚、“醜いオーク”の僕でも楽勝だよ!」

「「「「「なにいッッッ!」」」」」


 あはは、馬鹿だなあ。

 僕の挑発にまんまと乗って、おかげでヘイトが集まったよ。


 兵士達はオフィーリアではなく僕に殺到し、次々と攻撃を仕掛けてくる。


 だけど。


「クソッ! 全部防がれる!」

「“醜いオーク”のくせに、どうなっているんだ!」


 僕だって、イルゼに散々鍛えられ、オフィーリアとの手合わせでも攻撃を全部防いでいるんだ。

 モブで、しかも上位ユニットですらないただの兵士の攻撃なんて、今の僕に通用するもんか!


「よくぞ耐えてくれた!」

「オフィーリア!」


 入れ替わるように、オフィーリアが僕に群がっていた兵士を蹴散らした。

 これなら、イルゼ達が逃げる時間を充分に稼げる。


 オフィーリアの強烈な一撃を受けた兵士は、甲冑がひしゃげ、地面に転がってうめき声を上げる。

 それならまだ幸運なほうで、ピクリとも動かない兵士は、息絶えている可能性が高い。


 でも、僕達だって兵士達から殺気の込められた剣を向けられているんだ。


 だから。


「死にたい奴はかかってこい! 僕達は、絶対に引き下がらないぞ!」

「うむ! 全員、この“カレトブルッフ”の錆にしてくれるッッッ!」


 僕の口上に応えるように、オフィーリアが咆哮した。

 兵士達は怯み、距離を取って膠着状態となる。


「き、貴様等、何をしておるか! 相手はたったの二人だぞ!」


 側近の連中が兵士達に檄を飛ばすけど……あはは、そんなことを言うなら一番後ろに隠れてないで、僕達と剣を交えればいいじゃないか。


「みんな、無事に逃げ切れたかな?」

「そうだな。さすがにこれだけ時間を稼げば、クラリスとイルゼがいれば無事逃げおおせるだろう」

「そうだね」

「うむ」


 じゃあ、あとは僕達がここから離脱するだけなんだけど……。


「そうだ! 囲め! 囲んでしまえ!」


 側近の一人が指示を出し、兵士達が僕達の周囲をぐるり、と取り囲んだ。

 いくら【ストームブレイカー】が全方位に対応できるスキルとはいえ、こうなってしまうと少しきつい。


 何より、僕自身の防御はできても、スキル発動後に硬直したオフィーリアを、守り切る自信がない。


「……オフィーリア、僕が突破口を開くから、君はその隙に逃げて」

「馬鹿を言うな。平凡な攻撃しかできないルートヴィヒでは無理だ。なら、その役目は私が……」

「それこそ駄目だよ。僕は、君に傷一つ負わせるつもりはないんだから」

「ハア……全く、君は頑固だな」

「お互い様だよ」


 状況は思わしくないのに、僕とオフィーリアはつい笑ってしまった。


「なら、二人で切り抜けるというのはどうだ?」

「いいねそれ、乗ったよ」

「うむ!」


 覚悟を決め、僕達は身構える。

 オフィーリア……絶対に、君を守ってみせるから。


「行くぞ!」

「おおおおおおおおおおおおッッッ!」

「「「「「っ!?」」」」」


 僕とオフィーリアはくるり、と反転し、後方の兵士目がけて突撃する。

 彼女が大剣を振り上げた、その時。


「があっ!?」

「ぐふ……っ!?」


 突然、兵士の後方で悲鳴が上がった。


「こ、これは……」


 状況が呑み込めず、僕とオフィーリアは一瞬茫然とする。


 すると。


「ルイ様!」

「っ!? イルゼ!」


 混乱する兵士を縫うようにくぐり抜け、イルゼが僕の目の前にやって来た。


「ど、どうして!? みんなと逃げたんじゃ!?」

「ご安心ください。私達に援軍がまいりました」

「援軍、って……」


 僕は目を凝らして見ると……ボルゴニアの兵士とは違う甲冑をまとった兵士が蹂躙じゅうりんしていく。

 あの甲冑は……バティスタと同じ聖騎士か!?


「まあまあ、間に合って何よりですね」


 どこか気の抜けたような、のんびりした女性の声。

 僕は、この声が誰のものなのか知っている。


 それは。


 ――ミネルヴァ聖教会教皇“アグリタ=マンツィオーネ”、その人だった。

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