僕の忍耐力が試されています

「そ、その格好……っ!?」

「夜分遅くに、申し訳ありません」


 なんとイルゼは、あろうことか『醜いオークの逆襲』の入手アイテム、シースルーのナイトウェアを身にまとっているんだけど!?

 で、でも、そのアイテムは初回アプデ特典で、同人サークルブログのフォロワー限定に配付されたアイテムのはず!


 それを何故イルゼが!? ……って、そうじゃなくて!?


「いいい、いや、そんなことよりも!」

「それより、さすがにこの恰好で通路にいるのは恥ずかしいので、中へ入れていただけると……」

「っ! そそ、そうだね……」


 僕は慌てて招き入れ、とりあえずベッドに座らせた。

 だけど……こんなの目のやり場に困るし、何ならさっきから彼女に背中を向けっぱなしだとも。


「と、ところで、こんな時間にどうしたの?」

「はい……やはり今日の舞踏会のことで、改めてルイ様にお礼を言いたくて……」

「そ、そう……だけど、それはお互い様だって……っ!?」


 ――ぴと。


 イ、イルゼ!? 僕の背中に胸を押しつけている!?


「……私は、ルイ様に……あなた様に、この身体以外差し出せるものがありません。ですから……どうか、この私の身体を思う存分お使いくださいませ……」


 い、いやいや、何言ってるの!?

 そこまでしなきゃいけないようなこと、僕、してないよね!?


「あ、あの……」

「……ルイ様は、私の身体はお気に召しませんか……?」


 そういうことじゃなくて!

 何なら、前世では真っ先に君にお世話になっていますが! というか、チュートリアルで大満足しておりましたが!


 などと叫びたいところだけど、絶対に理解してもらえないので押し黙っておく……って。


「……イルゼ、震えてるじゃないか」

「も、申し訳ございません。私も……初めて・・・、ですから……」


 …………………………ぐはっ。


 思わず色々なものを……何なら魂まで吐き出しそうになったけど、両手で口を押えて踏みとどまる。

 というか、そんな大事なものをなんで僕みたいな“醜いオーク”に……。


 たとえ実家を救うためだとしても……たとえ皇帝の命令だとしても、こんなことをしちゃいけない。

 ちゃんと本当に好きになった人にこういうことをすべきだし、その……喪男は、据え膳を食べられるような器用なことをする度胸はないんです。


 なので。


「あ……」


 僕は彼女から離れ、クローゼットにある上着を手に取ると、彼女にそっとかけた。


「そ、その……」

「イルゼ……お礼・・だとか、そんな理由で君の大切な身体を差し出したりなんかしちゃいけないよ」

「ですが……」

「そうじゃなくて、君が本当に心から大好きな人のためにそうしたいと願った時のために、ちゃんと大切にしないと……ね?」

「…………………………」


 僕はイルゼにそうささやくと、彼女は上着をギュ、と握りしめた。

 うん……やっぱり怖かったよね、不安だったよね。


「さあ、もう夜も遅いし、早く寝たほうが……って」

「で、でしたら、せめてあなたのそばで、眠らせてはくださいませんか……?」


 お、おうふ……そうきたか。

 同じ部屋で寝るっていうだけで身の置き所がなくて困るけど、さすがにイルゼに対してこれ以上無下にはできない。


 僕は天井を見上げ、深呼吸すると。


「う、うん、いいよ。じゃあ、イルゼはこのベッドを使って。僕は向こうのソファーで寝るから……っ!?」

「い、いけません! ルイ様はちゃんとベッドで寝てくださいませんと!」

「あばばばば!?」


 ベッドに強引に引きこまれ、さらには覆いかぶさられて、僕は完全にパニックになってしまった。

 こんなの……こんなの、喪男には無理いいいいいいいいッッッ!


「そ、そういうことですので、このまま私と一緒に寝ましょう。ええ、そうしましょう」

「あうあうあうあうあう……」


 イルゼに言われるまま、されるがまま、僕は彼女と川の字(一本足らないけど)になってベッドに寝る。

 ま、まさか、この僕が女子と同じベッドで寝ているだなんて……ひょっとしたら、僕はまた召されて転生してしまうんじゃないだろうか。


「ル、ルイ様……」

「は、はひ!?」

「ふふ……私、男の人と一緒のベッドで眠るなんて、家族を含めてあなた様が初めてです……」

「そ、そうでしゅか……」


 完全に語彙ごい力が崩壊した僕。

 そんな僕の腕に大きくて柔らかな胸を押しつけながら、イルゼが嬉しそうに微笑んだ。


 ……今夜、僕はこの状況に、耐え抜くことができるだろうか。

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