これは目に毒……いえ、ご褒美です
「ル、ルイ様、申し訳ありませんでした……」
馬車に乗り込むなり、イルゼが深々と頭を下げて謝罪する。
その表情は青ざめていて、このまま自殺でもしてしまうんじゃないだろうかと心配してしまうほど、落ち込んでいた。
「や、やめてよ! イルゼは何も悪くないから! それよりも……僕のせいで君に嫌な思いをさせてしまって……その、ごめん……」
「っ! お、おやめください! それこそ、ルイ様は何一つ悪くないではないですか! それどころか、こんな私のためにお立場を悪くしてしまうようなことを……」
僕達はお互いに自分のせいだと言い合いながら、目を伏せてしまった。
だけど。
「……ぷっ」
「ル、ルイ様……?」
「あはははは! なんで僕達、こんなふうに謝罪し合ってるんだろうね!」
そのことが可笑しくなり、僕は吹き出してしまった。
うん……確かに反省すべきところはたくさんあるかもだけど、僕もイルゼも、決してこうやって謝るようなことじゃない。
それよりも、もっと大事なことを言うべきじゃないか。
「イルゼ……君がソフィア王女から僕を
「あ……」
そうだよ、謝ることなんかより、ちゃんとお礼を言うことのほうが先だよ。
それに、このほうがイルゼだって嬉しいに決まっているから。
「わ、私も、ルイ様にあのように
「あ、あはは……それこそお互い様だよ。だから……これからも、よろしく頼むよ」
「はい……はい……っ」
イルゼに深々とお辞儀をされて、照れ笑いをする僕。
彼女も、肩を震わせながら何度も頷いてくれた。
だけど。
「あー……これで『ヒロイン達に僕の背中を見せつけて、破滅フラグ全折り作戦』は不可能になっちゃったなー……」
寄宿舎の自分の部屋に戻った僕は、ベッドの上でゴロゴロしながら呟いた。
そう……僕は少しでも多くのヒロインの誤解を解き、バッドエンドへと繋がるフラグをへし折る作戦を考えた。
そのために、まずは僕が『醜いオークの逆襲』のような最低最悪醜悪なルートヴィヒとは違うんだとの意思表明として、入学式であのスピーチをしたんだ。
もちろん、あんな言葉だけで僕の評価が変わったりするはずもないし、僕だって一切期待はしてない。
でも、その後の行動でソフィアが流した誹謗中傷のような男じゃないと少しでも理解してもらえれば、そこから色々と認識が変わって、その結果、破滅フラグが折れる……そこに
本当は僕から積極的にヒロインにアプローチしたほうがいいんだろうけど、残念ながら僕は喪男。女子と絡むなんてそんなハードルの高いこと、できるわけがない。
それが、ヒロイン達のような美少女ばかりだとなおさらだ。
「なのに……僕が見せたのは、
何も知らない者からすれば、僕の取った行動は女性を……しかも、一国の姫君を最大限侮辱するような行為。
これでは“醜いオーク”とは違うんだって訴えても、聞いてもらえるはずがない。
もちろん、僕は自分の行動に後悔はしていない。
むしろ、あそこであの行動をしていなかったら、それこそ自分のことを一生許せなかったと思う。
「んー……こうなったら、どれか一つのバッドエンドに向かうように展開を誘導して、狙いを絞るようにしてみる……?」
そうすれば、次にどうすればいいか予測もつきやすいし、対策だって練りやすい。
闇雲にヒロインとの関係改善を狙ってみたものの、そもそもヒロインの一人がソフィア王女の時点で、絶対に相容れないことに今さら気づいたし……って。
「駄目だ……ヒロインごとにバッドエンドの条件が違うから、各個撃破するしかない……」
そのことを思い出し、思わず頭を抱える。
単純に『敗北エンド』しかバッドエンド条件がないようなヒロインならともかく、『反乱エンド』だったり『自殺エンド』だったり、特殊なものも結構存在するんだったよ。
「まあ……死なないためには頑張るしかない、かあ」
僕は両頬をパシン、と叩き、ポキッと折れそうな心を奮い立たせてベッドの中に潜った。
昨日はスピーチの緊張から一睡もしてないし、眠くて仕方ないんだよね……。
「おやすみなさい……」
誰に言うでもなく呟き、僕は静かに目を閉じ……。
――コン、コン。
……ん? こんな時間に誰……って、イルゼ以外に訪ねてくる人なんているわけないか。
ベッドから下り、僕は扉を開けると、案の定イルゼ、だったんだけど……。
「そ、その格好……っ!?」
「夜分遅くに、申し訳ありません」
なんとイルゼは、あろうことか『醜いオークの逆襲』の入手アイテム、シースルーのナイトウェアを身にまとっているんだけど!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます