これが、『本当の僕』だよ
「フフ……ルートヴィヒ殿下、私とは踊ってくださいませんの?」
よりによってソフィアが、僕をダンスに誘ってきたよ……。
いやいや、僕のことを“醜いオーク”だと散々
微笑みすら浮かべるソフィアに、怒りに任せて言ってやりたい。
僕が “醜いオーク”から少し見た目が
でも……僕の身体が震えて、言うことを聞かないんだ。
前世の人格を取り戻すまでのルートヴィヒの記憶が、トラウマが、この僕を縛りつけて、動けなくしていて。
「さあ、次の曲が始まってしまいますわ」
ソフィアは僕の手を取ろうとして歩み寄った、その時。
「申し訳ありません。今夜のルイ様の……ルートヴィヒ皇太子殿下のお相手を務めるのは、この私のみです」
イルゼが一歩前に出て、ソフィアを
繋いだ手を、強く握りしめながら。
「あら……あなた、確かルートヴィヒ殿下の従者よね?」
「はい。イルゼ=ヒルデブラントと申します」
ジロリ、と見やるソフィアに、イルゼは彼女を見据えながら名乗った。
だけど、完璧な普段の彼女なら優雅にカーテシーをするし、決して礼儀に反するようなことはしない。
でも、彼女の取った態度は仮にも隣国の姫君に向けるものじゃない。
それだけ、イルゼも怒っているということだ。
この、僕のために。
「だったら分かるでしょう? 仮にもルートヴィヒ殿下は皇族。しがない従者でしかないあなたでは、不釣り合いだということが」
「…………………………」
「それに、私も殿下への心無い誹謗中傷には、以前から心を痛めておりましたの。まさか、ただの意見の食い違いで婚約に至らなかっただけで、尾ひれがついてこんなことになるなんて……」
この女、どの口が言っているんだろうか。
オマエが誹謗中傷を流したことくらい、帝国がつかんでいないとでも思っているのか?
だとしたら、どれだけお花畑なんだよ……って、そういえばソフィアはお花畑だったな。
ゲーム内でもイルゼを除き最初に登場するヒロインだけあって、能力値は全ヒロイン中最低。あの“狂乱の姫騎士”オフィーリアよりも、知力のステータスが低い。
うん、それなら何も考えずにこんな行動に出ても、不思議じゃないかも。
だけど、それならなおさら彼女が帝立学院に留学できたことが、不思議で仕方ないんだけど。
あれかな? 前世ではよく問題になった、裏口入学的なアレかな? ……って、それも無理だよなあ。
いずれにせよ、ソフィアの帝立学院への留学に関しては疑問だらけだな。
「まだ分からないの? 取り潰し寸前の貴族令嬢の、ただルートヴィヒ殿下の
ソフィア王女の
あれほど
「ふざけるな」
「な、何をする……って、え……?」
「ふざけるな! 確かに僕は二年前に君が
「な、何を……っ」
「彼女は誰からも馬鹿にされるこんな僕に仕えて、励まして、支えてくれた素晴らしい
キッと睨むソフィアに怯むことなく、僕はただ感情に任せて怒鳴っていた。
ただでさえ喪男の僕が、こんなに声を荒げるなんて慣れないことをしたせいで、声も、肩も震えて仕方がない。
でも、僕はどうしても許せなかったんだ。
こんなにも一生懸命支えてくれて、仕えてくれるイルゼを侮辱されたことが。
しかもこの女は、ご丁寧にイルゼの素性まで調査して
ゲームシナリオのルートヴィヒとは違うけど、僕は絶対にこの女を許さない。
すると。
「ルートヴィヒ殿下、もうそのくらいにしてください」
「……エレオノーラ会長」
「見なさい。殿下が場所も考えずに女性に対してジュースを浴びせるばかりか、大声で怒鳴る始末……」
……それを言われると、僕も返す言葉がない。
確かに、バルトベルク帝国の皇太子の振る舞いとしては、相応しいものじゃないだろうな。
「そもそも、やり取りを一部始終見ておりましたが、身分も弁えずにソフィア殿下に不敬を働いたのは、その女です。でしたら、無礼を働いた部下に罰を与えることこそが、上に立つ者の役目でしょう」
「…………………………」
僕は正論を吐くエレオノーラとうつむくイルゼを、交互に見やる。
イルゼ……。
「ハア……あなたが入学式で生徒全員に言った、『
額に手を当て、溜息を吐きながらかぶりを振るエレオノーラ。
そうか……そうだね。
僕は、『本当の僕』を見てもらうって、確かに言ったんだ。
だったら。
「……そうだよ」
「はい……?」
「そうだ、これが『本当の僕』だ。僕は、僕の大切な
イルゼの手をギュ、と握りしめ、僕ははっきりと告げた。
そうだとも……こんなたった一人だけ僕のために尽くしてくれるヒロインも守れなくて、どうやってバッドエンドを回避するっていうんだ。
それこそ、何のための“醜いオーク”の皇太子だよ。
「……
「「…………………………」」
「イルゼ、行こう」
「あ……」
僕はイルゼの手を引き、足早に会場を出て行く。
多くの生徒達がそんな僕達を忌々しげに見ていたけど、知ったことか。
だけど。
「……あーあ、やっちゃったなあ……」
イルゼにも聞こえないような声で、僕はポツリ、と呟いた。
でも、僕の気分は晴れやかだった。
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