舞踏会のお誘い
「これからあなた達の担任を務めます、“マチルダ=ナウマン”です」
教壇に立った妖艶な雰囲気を醸し出す女性が、そう名乗った。
なお、この担任となるナウマン先生は攻略ヒロインではないけど、僕は知っている。
だって、髪型といいスタイルといい、モブユニットである『鞭兵』のドットキャラそのものだし。
そんなことより。
うわー……このクラス、攻略ヒロインがイルゼを除いて二人もいるし……って、いやいや、なんで聖女がこっちを見ながら笑顔で手を振ってるの?
ま、まあ、あのソフィアがいないだけ
「……ルイ様、
「イルゼ、そういうことはやめようね」
聖女を睨みつけながら物騒なことを言い出すイルゼをなだめつつ、僕は残るもう一人のヒロインを見やる。
聖女と並んでひときわ目立つ黄金の髪と黄金の瞳の持ち主、“オフィーリア=オブ=ブリント”。
彼女は“ブリント連合王国”の第四王女で、『醜いオークの逆襲』の後半に登場するヒロインの一人だ。
力と攻撃力に関してはヒロイン中随一で、“狂乱の姫騎士”の二つ名のとおりラスボスを除けば最大火力を誇る。
とはいえ、一度攻略してしまえばイルゼ並……いや、それ以上に従順な
なので、ストーリー後半での戦略パートにおける侵攻先の選択肢では、プレイヤーはその後の展開を楽にするために、真っ先にブリント連合王国を攻略するのが定石だ。
でも、少なくとも僕は彼女を攻略するどころか、関わりを持ったりするようなこともないだろうなあ……。
だって彼女、攻略するためには
いや、もちろんゲームのルートヴィヒが一騎討ちで勝てるわけないよ?
だから、ルートヴィヒの代理を一人だけ立てて一騎討ちするんだよ。
その時は、大体が魔法特化のヒロインを選択して、デバフかけたり遠距離からちょっとずつ削ったりして倒すんだけど、あいにく今の僕にはイルゼしかいないからその戦法は使えない。
聖女は魔法特化のヒロインだけど……攻略する気はないから、数になんて入れないぞ。
まあ、ここはゲームじゃなくて
そういうことなので、二年に進級してクラス替えになるまでは、大人しくしておこう。
などと考えていると。
「……では、本日はこれで終わりです。明日からは本格的に授業が始まりますので、今日はゆっくりと休んで明日に備えてください」
そう言うと、ナウマン先生は教室を出て行った。
「さて……イルゼ、僕達も寄宿舎に向かおう」
「はい」
この帝立学院は寄宿舎制で、それは皇太子である僕も入寮しないといけない決まりだ。
とはいえ、王侯貴族のみが通うような学校でもあるので、生徒は従者を一人つけることができる。
「イルゼも同じ生徒なのに、僕の従者なんてさせてごめんね……」
「何をおっしゃいますか。ルイ様のお世話をする
彼女はそんな嬉しいことを言ってくれるけど、普通はこんな“醜いオーク”の従者なんて罰ゲームもいいところだよ。
いくら取り潰し寸前のヒルデブラント子爵家を救うためとはいえ、一年以上も前からこんな僕のために尽くしてくれるイルゼには、本当に感謝しかない。
……もし僕がバッドエンドを回避して、オットー皇帝の跡を継いで次の皇帝になったあかつきには、絶対にイルゼの実家を全面支援して復興させてあげよう。
あとは……うん、彼女のために良縁を用意してあげないとね。こんな僕に仕えたんだから、次はイケメンで優しくてお金持ちが相手のほうが絶対にいいし。
「イルゼ……僕が絶対に、君を幸せにしてあげるからね」
「っ! そ、その……ありがとうございます……っ」
僕は決意を込めて隣を歩くイルゼにそう告げると、彼女は顔を真っ赤にし、藍色の瞳に涙を浮かべながら頷いた。
そうして僕達は寄宿舎に入る、んだけど……。
「え、ええと……これは?」
「こちらは新入生を歓迎する、舞踏会の招待状です。皇太子殿下には、是非とも出席いただきたく……」
そう言って
名前は……モブなので知らないや。
だけど、どうするかなあ。
エレオノーラと言えば、帝国を転覆させようと画策するヒロインだし、この舞踏会も裏があるようにしか思えないんだけど。
「代々、皇室の方々が帝立学院に在学中は、このような行事には必ずご出席いただいております」
「あ、そ、そう」
しまった……迷ってる間に、逃げ道を塞がれてしまった。
「わ、分かりました。では今夜、どうぞよろしくお願いします」
「エレオノーラ様も、お喜びになるかと存じます」
そう言い残し、エレオノーラの従者はこの場を去っていった。
さて……。
「……イルゼ、僕はダンスなんて踊ったことがないんだけど」
「ご安心ください。ダンスのお相手は全てこの私が務めますので、ルイ様はただ私にその身を預けてくだされば……」
「そ、そう?」
「はい」
本当にイルゼは強いしメイドとしても完璧だし、ダンスだって踊れるんだからすごいよなあ。
「だけど、君だって他の人とその……踊りたかったりするんじゃないの?」
「いいえ。私はルイ様とご一緒するだけで充分です」
有無を言わせないとばかりにそう告げられ、せっかくの厚意を無駄にするわけにもいかないので、とりあえず頷くことにした。
ま、まあいいか……他にもこんな機会があるだろうし、ね。
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