拗らせた愛の結末
フローラはまず、スフォリア家での仕事を選択させてもらった。
生活費を稼ぐのと、昔エリックが払ってくれた代金を返すために。
いつか返そうとコツコツと貯めていたものを渡そうとしたのだが、
「あれはライカの給与から差し引いた。返すならライカに」
と戻されたのだ。
ライカに払おうとしたら、
「あれは夫婦の共同資産だ、返す必要はない」
と受け取ってもらえなかった。
それどころかライカに滅茶苦茶怒られてしまう。
「そんな事なんかで貯めるよりも、自分の為に使えば良かったんだ! それで生活出来ないんじゃ意味ねぇだろうが!」
と、怒鳴られた。
ティタンとエリックには街での生活に慣れた頃に、護衛騎士としての仕事をさせてもらいたいと話をする。
「受けた恩を返したいの」
ずっと皆には世話になってきた。
これからは守られるだけの存在ではなく、誰かを守れるくらい強くなりたい。
そして自分を大事にしてくれたスフォリア家と王家に貢献する。
「試験は厳しいけれど、きっとフローラ様なら大丈夫です」
ライカの言葉にフローラは咎める。
「様は止めてと言ったでしょう、ライカ」
「わかった……フローラ」
慣れない呼び捨てにライカは戸惑う。
「お願いしますよ、ライカ」
フローラは満足そうだ。
「護衛騎士の仕事は難しいが、ギルドでのあなたの仕事ぶりはとても良かったと話には聞いていた。だからきっと大丈夫」
ギルドでの話なんて、彼にはしていない。
「どこでそのような話を?」
この街にいた彼まで一介の冒険者であるフローラの話なんて普通来ない。
「バイスから度々話を聞いていたんだ、あなたの前には顔をだせなかったから、陰ながら応援してもらってたんだよ。おかしな奴らに騙されないようにとかな」
バイスとはライカの知り合いの冒険者だ。
確かに変な者とかに話しかけられた時もあったが、さりげなく周囲が助けてくれた。
あれはバイスがしてくれたのか。
「彼がそんな事を?」
「あぁ。あなたに詫びたいと申し訳無さそうだった。だが、仲間がした事は許されるものではないからと、会うことはしなかったようだ」
バイスはライカを裏切り、ローズマリー侯爵に密告したのではないのか。
「仲間って事は、バイスさんは何もしていないのね」
「ロミって女だ。金欲しさで情報を売ったらしい」
ライカは吐き捨てるように言った。
「俺が誑かされてて心配だとか言ってたが、そんな言い訳信じるかよ。裏切るような奴の言うことなんて何一つ信じられるわけがねぇ」
「……」
あちらからしたら、急にライカが貴族の見知らぬ女と一緒にいたのだ。
本当に心配してなのかもしれない。
だが、ライカは裏切りというものが嫌いだ。
もしもロミがローズマリー侯爵ではなく、ライカと話していたのならば、未来は違ったかもしれない。
「今度バイスさんにお礼が言いたいわ」
「俺と共に行こう。ギルドに行けば会えるだろう。何なら一緒に依頼でも受けてみるか? お互いの実力でも見せあおう」
「あなたに適う訳はないわ」
「別に張り合うわけじゃない。フローラの強さも見たいし、俺の強さも見せたい」
ライカは剣を握る手に力を込めた。
「ローズマリー侯爵はあれから度々ギルドに顔を出している。道中の護衛をギルドに頼んでいるようだ」
「えっ?」
父がギルドに来ているなんて。
あんなに毛嫌いしていたのに。
「残念ながら反省してるわけではないようでな。安く人を使いたいだけのようだ。あわよくば娘であるあなたを指名して格安でこき使おうとしたみたいだが、根回しさせてもらった」
あれだけフローラの為だと言ってたのに、尚も利用しようとしていた事が、腹立たしい。
「それでも会いたい気持ちがあるならば会う事は出来るが、どうする?」
ライカの問いにフローラは首を横に振る。
「あなたの気遣いをそのまま有り難く受け取ります。会っても良いことにはならなそうですから」
下手に繋がりを作ることはない。
家族と言っても最早違う道を歩む者だ、好んで会うことはないだろう。
「では今後式典に参加する際はそれなりの対応でいかせてもらう。まぁエリック様の不況を買った時点でロクな目には合わないんだけどな」
エリックは有能な者は好きだが、身内を傷つけるモノには容赦しない。
フローラがライカの配偶者となったからには尚更きびしい目を向けるだろう。
「あの時偶然あなた方に会えて、こんなに人生が変わるとは思ってなかったわ」
故郷を懐かしみ、街に来てミューズ達と出会いここまで変化した。
飢えることもないし、生活に困ることもない。
護衛と称して街に連れてかれ、一緒に美味しいものを食べて帰ってきたり、ドレスのプレゼントをされるのもしばしばだ。
嬉しそうなフローラを見て、ライカはただ微笑んでいる。
バイスからの情報でフローラの動向は筒抜けだ。
マオというミューズ想いでライカをからかいたい従者がいるのが、運の尽きだ。
バイスにお金を渡し、情報を受け取り、街に買い物ということでフローラとミューズを引き合わせた。
友人思いのミューズが善意で動くのも見越してそっと口添えし、あとはライカを焚きつけてフローラを拐かした。
今更言うわけにもいかず、ライカはその件について口を閉ざす。
「これから夫婦としてよろしくお願い致します」
フローラは改めての挨拶をした。
綺麗な角度の礼とはにかんだ笑顔にライカの頬も緩む
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ライカもピシッとした姿勢で礼をする。
交際0日。
憧れと敬愛、そしてすれ違いはあったものの縁あって夫婦になった二人。
剣の道という共通のもので親密になることが出来た。
これからは同僚としても夫婦としても支え合えるようにと努力を惜しむことはない。
ライカがひっそりと義姉と同僚に苦しめられるのはいつもの話で。
赤髪騎士の拗らせ愛 しろねこ。 @sironeko0704
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