プレゼント選び②
「去年は下着だったから、今度は水着を送ろうと考えたんだけど」
「とりあえず死になさい」
「だったら今年も下着を……ッ!」
「どうして布面積の少ないものを求めるんですか!?」
―――なんてやり取りをしているアルヴィン達は現在、とある洋服店へと足を運んでいた。
アルヴィンが必死に語っている下着や水着から、社交界できていくようなドレスまで多種多様。
ショーケースと棚に飾られてある服はどれも高級そうという言葉しか出てこない。
俗に言う貴族御用達のお店であった。
「ですが、私のような人間がこのような場所に入ってもいいんでしょうか……? どれも全てお高そうですし」
ソフィアがきょろきょろと居心地が悪そうに店内を見渡す。
貴族御用達ということもあって客も少ない。こうして見て歩く客は珍しいのだろう。
何せ大抵は店の人間にオーダーを始め、個別に服を見繕うのだから。
しかし今回は『アルヴィンが自ら選ぶ』というところが主であるため、店の人間には一回断りを入れさせてもらって店の中を見て回ることにした。
「いいのいいの、客であればどこにいたって場違いじゃないんだし。なんだったら好きなの買っていいよ」
「ふぇっ!?」
「驚かなくても、僕はこれでも一応公爵家の人間だよ? だから今日のお礼ってことで」
そう言うが、ソフィアは首を必死に大きく横に振って断ろうとする。
平民であるソフィアにとってはこのような高級なものは手にするだけで恐れ多いのだろう。
一着高いものを買った程度でアルヴィンの財布はまったく痛まないのだが、ソフィアはそういう問題ではないみたいだ。
「そういう反応は予想していたよ―――っていうわけで、レイラ」
「任せてちょうだい。ソフィアに似合う服を選んでおくわ」
「そしたら僕が責任を持って購入する」
「責任なんて持たなくてもいいですからね!?」
逆にこれぐらいはさせてほしいと、アルヴィンは胸をポカポカと殴り始めるソフィアを無視するのであった。
「レイラも、好きなの買っていいよ。いつもお世話になってるしね」
「わ、私はその……ありがたいけど、できたらあなたに選んでほしいわ」
ソフィアとは違い、レイラはアルヴィンのお礼を受け取る気があるみたいだ。
とはいえ、頬を赤らめて少しモジモジしている姿を見るからに別の側面も求めているようであるが。
「うーん……僕、あんまりセンスないよ?」
「べ、別にあなたが選んでくれたものならなんでも……」
「下着なら自信があるんだけど」
「流石にそれをプレゼントされたら反応に困るわ」
嫌悪感を示さないだけでも十分偉いと思われる。
「まぁ、二人のプレゼントはあとにするとして……先んじて姉さんのプレゼントだね。アクセサリー類はいっぱい今まであげたし、今年は服ってことに決めたのはいいんだけど……」
服といっても色々種類がある。
それは店内を見渡せば分かるもので、この中からセシルに似合う服を選ぶとなるとかなり骨が折れそうであった。
アルヴィンは近くにあるショーケースを見て「うーん」と一人唸る。
「セシルさんは綺麗ですし、なんでも似合いそうですっ!」
「っていうより、そもそも服を買うのはいいとしてサイズは分かるの? ぶかぶかとか小さかったりしたら困るんじゃない?」
「任せて、姉さんは身長159㎝、体重は49kg、バストは80cm、ウエストは―――」
「どうしてそこまで知ってるのよ?」
「ち、がっ……目は、グーで、なん……ども、潰すもの……じゃ……!」
目は何であっても潰すものではない。
「アルヴィンさん、これなんかいかがでしょうっ!」
アルヴィンが目を殴られている間に、ソフィアが近くにあった白いワンピースを手に取って見せてきた。
「ふむ……姉さんは黙っていれば気品もお淑やかさもある。ならば清楚な一面を惜しみなく発揮するのであれば間違いのない一品だ。綺麗な金髪はさながら月と雪を連想させるぐらい白とよく似合うだろう。手にいっぱいの花束、バックにひまわり畑というシチュエーションが容易に想像がつくぐらい姉さんなら絵になるに違いない」
「あなた、本当にセシル様のことが好きよね」
「そんなことはない」
レイラのジト目が向けられる。
それでもアルヴィンはワンピースを凝視するぐらい吟味に集中していた。
「せっかくなら、ドレスをあしらってみてはどうかしら? セシル様なら社交場でも何度も顔を出すし、パーティー用でもお茶会用でも貴族のご令嬢だったら喜ぶはずよ」
そう言って、今度はレイラが近くに飾ってあった黒く装飾をあしらったドレスを向けてきた。
これもまた、アルヴィンは顎に手を当てて吟味を始める。
「なるほどね、いいチョイスだ。姉さんは普段の明るくて可愛い姿とは裏腹に大人びた容姿をしている。深みのある黒はそれを最大限に活かしてくれるはず。加えて、お茶目心のある装飾もいいポイントだね。これなら普段見せる明るい笑顔と相まっていいギャップが生まれる。さながら美姫にも天使にも生まれ変われる魔法のドレスだ。美しくも可愛い姉さんのためにあるドレスと言っても過言じゃない」
「ふふっ、アルヴィンさんはやっぱりお姉さんのことが大好きなんですね」
「そんなことはない」
口ではそんなことを言いながらも、真剣に選ぶアルヴィン。
その姿はどこからどう見ても姉のことが大好きな弟そのものであり、姉のために一生懸命になっているとしか言えないもの。
本当に好きでないのなら、こんなに考えずとも適当に言えばいい。
そうじゃないのなら、つまり───
((アルヴィン(さん)って、本当に可愛い……))
素直じゃないなと、二人はアルヴィンを微笑ましい瞳で見守るのであった。
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