Ⅲ
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そんなよってたかってボコボコにしたような建物は、テレビや雑誌で見た感じを遥かに越える残酷さを感じた。戦争なんて! いったい誰が始めたんだ。国が違うと言うだけで、同じように暮らしている善良な人々を震撼させ、第一同じ生活をしている人間と人間が殺しあうなんて、狂ってるんだ。倫理の有る人間が戦後ノイローゼになるのも当たり前の事だな。人を殺したくなくて、戦い無くて自殺した人も沢山いたはずだ。責任者は地獄行きだ。原爆ドームの周囲を歩いていると、キット誰でも感じる感情だろう。起こってしまったことはもとに戻りはしないのだから、同じ過ちを繰り返さないことが大事なことなんだな。
今日は平日なので観光客も少なく、心行くまでゆっくりと考え、感じることが出来た。そして、原爆が落ちた後は焼死体で一杯だったと言う元安川にかかった橋を渡ると、原爆の子の像がたつ平和記念公園を歩いて回った。三々五々と人々が歩いているが、皆がみんな思案顔で歩いている。親子や恋人たちだろうか若いカップルたちも散策していた。今、みんな平和の有りがたさを。実感していることだろ。俺は一体何なのだろう? ただ生きているだけの人間さ。少し寂しさを感じた。公園の周囲を歩いていると、ふと、古い建物の民宿を見つけた。
「そうだ、ここは安いし今夜はここに泊まろう」と思い、その民衆によって今夜の宿泊の予約をした。建物のなかに入ると、中井さんだろうか、中年のおばちゃんが出てきて、
「はい、お泊まりですか?」と言って尋ねてきた。
「そうだよ、今晩一晩頼みます」と言って手続きをした。そして
「まだ、見たいところがあるから、夕方帰ってくるね」と言って、荷物を置いて、また観光パンフレットを手に民宿を出て、歩き始めた。平和記念公園に戻ると何か天に向かって聳える塔の前で何十人かの人々が礼拝している。俺もそこに言ってみると、原爆被害者の慰霊搭であった。俺も同じく礼拝をして、公園に来てる人や町を歩いている人に尋ねながら、広島電鉄2号線に載って、宮島口駅までたどり着いた。約二時間弱ほどかかった。隣には宮島ボートレース場があった。宮島口まで歩いていって、乗船を待った。そして渡船に載って座っていると、何だか見た覚えの有る顔を見かけた。中年のおばちゃんと一緒だったか、きっと彼女のお母さんだろう。え~と誰だっけ? 一生懸命に無い頭を絞って考えると、そうだ!思い出した。「佐久間淳子だ!」俺は近づいていって思いきって声をかけた。
「あのー、失礼ですが、貴方は佐久間淳子さんじゃ有りませんか? 俺だよ安倍川勇二だよ!」
「えっ、勇二君! 久し振り何年ぶりよ!」と、一寸ビックリしたかおで言った。
「デッキに出て話そうぜ」回りに観光客も多かったので、聞かれないよう渡船のデッキに誘った。
「そうね、海の風も気持ちいいし」淳子もそう言って、俺の後について来て、デッキに並んで立った。
「十二年ぶりかな、淳子も色っぽくなったな。連れの人は君のお母さんかい?」
「そうよ、二人で旅行に来たの。お父さんは留守番」
「留守番か! 男は可哀想だね。それはそうと、淳子、お前今なにやってンの? 結婚はしたのか?」
「余計なお世話よ! 大阪の病院で、保健師をやってるわ。まだ独身よ。縁がないのね」
「へー、そうなのか。あの頃に比べると随分綺麗になったのにな」
「十二年も経てば、変わるものよ特に女はね。実をいうとね、私、中学生の頃は、勇二のこと好きだったのよ」
――チェッ、馬鹿野郎! そんなことは、その時に言うもんだろ――
と、俺は心の中で舌打ちをした。そうして、話している内に宮島の発着所が見えてきた。淳子は慌てて、母親の所に戻っていった。港に着くと俺もテクテクと、島に上陸した。建物を出ると、すぐに鹿がたくさん依ってきた。人がエサをくれることを学習しているのだろうな、俺は危うく着ていたポロシャツを食べられてしまうところだった。俺は慌てて逃げて、被害を受けずにすんだ。そのまま直進して、宮島神社を見て歩いた。宮島神社の赤くて大きな鳥居は、写真で見た通り海のなかに立っていた。しかし、改修をするためなのか、鳥居に足場がたくさん建てられていた。なお、更に細い通路を歩いていくと、能舞台なのかな? そんな類いの舞台があった。俺は何もないそんな舞台を見て、下らねえなと、思った。後は、別に見るべきものはない。つまんねえなと、その先を歩き進めると、階段上の上り坂があり、そこを上りきると、島唯一の商店街に出た。お土産物や、食堂等が立ち並び牡蠣を焼く臭いや、穴子を焼く匂いに包まれた。いい匂いだった。腹が減る促進剤になっている。俺もつられて、食堂に入り、穴子の蒲焼きと、酒を頼んで、ご相伴となった。旨かったな~、穴子も大したものだ。しかし、後は見所もないし、観光客の中をテクテクと、観光船の発着所に向かった。船に乗って、宮島の観光船に乗って、宮島口まで戻った。此処まで来た道のりを逆走して、平和公園まで戻っていった。予約した民宿まで戻ろうとして、相変わらず沢山の人が散策している。平和公園の広さや敬虔な雰囲気を味わいながら、スローなテンポで歩いた。予約した民宿までたどり着くと、
「帰ってきました!」と、民宿の扉を開けながら声をかけると、予約をしたおばさんが出てきて、
「お帰りなさいませ」と俺を出迎えてくれた。良く聞いたら、この人がこの民宿の女将さんらしい。
「あっ、おばちゃんがこの民宿の女将さんだったの」
「はい、私と夫の二人でやっております。何せ人を雇う余裕なんて有りませんからね」
「まぁ、それもそうか」と、納得した。そして、女将さんは俺を二階にある客間に案内してくれた。
「お客さん、夕食は何時からにいたしましょうか?」と問われたので、
「そうだな-、六時半からにしてくれる」
「はい、承知しました。まだ一寸時間がありますけど」
「そうだね、ビールと灰皿を持ってきてくれる」
「はい、承知いたしました」と言うと、階下に降りていった。俺は木製の窓を開け、景色を楽しんだ。それにしても広い部屋だな。いいのかなこんなに広い部屋に止まっても。等と考えていると、女将さんがビールと灰皿をもって部屋に入ってきた。
「ねぇ、こんなに広い部屋を俺一人で使っていいの?」
「はい、他にお客様は居りませんから、遠慮なくお使いください」そんなことならと、女将さんが用意してくれた座椅子に背を持たせ書け、俺はビールを注いで、タバコに火をつけながら、リモコンで部屋にあるテレビをつけ、テーブルに座って、ニュースを見ていた。
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