第60話 酸素を……一滴
ダンジョンの攻略を進めるべく、軽トラの運転席に座ってエンジンをかける。
いつものように、何事もなかったかのように、ダンジョン内では決して動かないはずのエンジンがかかる。
「謎だよなー」
【異質化】した軽トラ。最初に気付いたのは、魔物の攻撃を通さない『結界防御』の能力だった。そして、大量の物品を収納できる『ストレージ』。
さらに、エンジンや電子機器が全く動作しない環境であるダンジョン内で普通に走れる。
「うーん、他のに比べて、
そう、なんというか、「軽トラが動く」という事自体はダンジョンという場所を除けばあまりにも普通の事なので、その特殊性を忘れるというか、現実的というか、リアルというか。
「リアル……か。全部リアルではあるんだけどな……。ガソリンで走るなんて、本来の意味でリアルなんだよな……。ガソリン……ガソリン!?」
やべっ! オレは、今、とんでもないことに気付いてしまった!
ダンジョン内で、ガソリンエンジン。
当然出てくる排気ガス。
ダンジョンとは、地下空間。
酸素より重い二酸化炭素は地下に溜まりやすい。
窒息する!
どうしよう、酸素濃度計でも買うか? いや、あれも電子機器だ。ダンジョン内では動作しない。ならば、酸素ボンベ? いや、あんな重いもの背負って戦闘なんて邪魔でしょうがない。ならばどうする? カナリヤでも連れていくか? いや、あれは鉱山毒を探るもので酸素の欠乏には効果があるのかわからない。ノーマルスーツ? そんなのもは機動戦士の世界にしか存在しない!
どうしよう?!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「大丈夫だと思いますよ?」
オレの心配をばっさりと切るマナミサンの一言。
「だって、海外でなんて、千人単位で攻略している国もあるって言うじゃないですか。それだけの人数が入って、戦って激しい呼吸してるのに、何年も
むう、言われてみれば確かに。
「それに、ダンジョン内ってエンジンはダメでも火は使えるじゃないですか? 野営のご飯の支度とか、火炎放射器での攻略とか、いろいろとたくさん火も使っているところがあるはずですよ。それに比べれば、軽自動車のエンジン一個なんて取るに足りませんよ。」
聞けば聞くほど正論だ。マナミサン、剣道漬けであんまり勉強していたイメージないんだが、実は頭いい?
「というか、ダンジョンは地下にあるように思えて、実は別次元の空間って言われていますからね。謎環境だから、そもそも燃焼で酸素が消費されるとかの地球上の理論が通用しないと思いますよ?」
「はい……」
完膚なきまでに論破されてしまった。
ちょっと悔しかったので、せめてもの抵抗にと、ホームセンターからプランターを買って、最初の玄室にミニトマトを置いた。
ダンジョンの光でも光合成できるかな?
「にゃー、出番がないニャー」
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