プリムラの秘密Ⅱ

「っ!」

 何となく分かっていた。話の流れからそうなんじゃないかと。

 でも、確信はなかった。だから、まだ別の可能性もあるんじゃないかと期待していた。それ以上先は聞きたくなかった。聞いてしまったらもう彼女を人として見ることは出来なくなるから。

 心がざわつく。

 別にプリムラのことが好きなわけではない。彼女が来てから面倒事ばかりで、会えてよかったなんて思ったこともないし、出会わなければよかったとすら思う。

 それでも何故かその事実だけは知りたくなかったと、そう思う。

「私が生まれるまでに作られたホムンクルスは2万体。当然、その作られたホムンクルス全員を育てる金は国にはない。だから、失敗作は全て廃棄処分された。その中で唯一生き残っているのがNH-10032、いえ今はプリムラだったわね。まぁ、私からしたらどれも同じ劣化品だけれど」

 プリムラと同じように生まれ同じ顔をしている、それはまるで姉妹のようであるが彼女にはそう言った認識がないように思える。

「さて、私の話は以上よ。ってことで、さっさと戦おう!」

「!」

 瞬間、一気に周囲の気温が下がった。

 いや、違う。これは寒気だ。

 彼女の発する闇の魔力に充てられ、死を直感させられる。

 僕は白撫しろなの白衣をさらにギュッと掴んだ。

 すると、僕の手の上にそっと白撫しろなの手が重ねられる。

「まったく、しょうがない奴じゃのう。少々離れておれ、危険じゃからのう」

 そう言って白撫しろなは白衣のポケットから何かのリモコンを取り出しスイッチを押す。

「人間相手に向けられぬ兵器じゃが、魔女のホムンクルスであれば問題なかろう」

「君が戦うの? あんまり強そうには見えないけど?」

「見た目が重要か? なら、安心せい。これからその期待に応えてやろう」

 白撫しろなが上空を指さす。

 すると、空から1台のコンテナが降ってきた。

起動スイッチオン、インペリアルドラグーン」

 白撫しろながそう叫ぶとそれに反応して、コンテナが開き中のものが飛び出す。

 そして、それらは白撫しろなの両手足と背中に装着された。

「なっ! こ、これは!」

「まさか、パワードスーツ!?」

 右腕はブレード、左腕はリボルバー、腰に小口径の大砲が2門、肩に大口径の大砲が2門装備されている。装甲は黒塗りのメタリック。

 装着してるのがスク水のロリであることを差し引いてもバカ格好いい。

 僕もあれ欲しい。作ってくれないかな。

「あはっ! いいじゃん! こういうのを待ってたのよ!」

「気に入ってもらって何よりじゃ。それと、バイバイなのじゃ」

 白撫しろなは左腕のリボルバーをリリアナに向け、エネルギー弾を放つ。

「“デスペラードブラスター”」

 よし! ナイス! 先手必勝!

 しかし、それはリリアナに届く前に、見えない壁によって阻まれた。

「お待ちください。リリアナ様」

 リリアナの隣に青い髪の女性が現れた。

「システィ、どうして邪魔したの?」

「リリアナ様の目的はクローバーの魔王候補です。ですから、他の雑兵はこちらで処理します」

「え~~~~、あの子面白そうだから私がやりたい」

「加えてもう1つ。彼女は利用価値がありますので生け捕りにしたいのです。彼女の脳は魔界でも有名です。ここで死なすのは世界の損失です」

「ふ~ん、でも生け捕りくらい私だって……」

「手加減、出来るのですか」

「…………ムリ」

「では、手出しは無用でお願いしますね」

 なに? 選手交代? ここに来て1人追加とかよくなくない?

 1対2とかズルじゃん。

 ここはプリムラに連絡を……。

 スマホを取り出したが、すぐに通話ボタンを押すことが出来なかった。

 いいのか? プリムラに伝えて。

 彼女ならホムンクルスとか気にしなさそうではあるけれど。そこら辺の事情を話さなかったのも聞かれなかったから言わなかったみたいなことだろうし。

 どっちかっていうと、僕の方がこの事実を消化しきれてないし、プリムラにちょっと会いづらい。

 というか、なんで僕はこんなに気にしてるんだ?

 別にプリムラが人間じゃないのは前から知ってたじゃないか。

 人間離れした身体能力に、人間離れした食欲。

 そもそも人間である要素がほとんどないし。

 だから、うん。気にしなくていいや。うん。…………うん。

 僕はそう自分に言い聞かせて、プリムラに電話をかけようと通話アプリを開く。

「お仲間に助けを求めるのですか?」

 スマホをいじる僕を見て、システィと呼ばれた女性はそう声をかけてきた。

「無駄ですよ。あなたたちが別々に行動する瞬間を狙って、こちらは人員を配置していますから」

 それって、みんなのところにも敵が現れてるってこと?

「クローバー側で最も警戒すべきはプリムラただ1人。その彼女もすでに対策済み。さらに念を入れてハートのJジャックを当てています。万が一にもここに来ることはないでしょう」




**************************




「なんだ? 迷子か?」

 梗夜きょうやとメイの前に黒いマントを羽織った少女が現れた。

 見た目10歳前後で長い黒髪を2つ結びにしている可愛らしい少女だ。

「一応警告しておきますけれど、近づかない方があなたのためですわよ」

「はぁ? 俺は別にロリコンじゃねぇ」

「そう言う意味で言ったのではないのですけれど」

 少女に近づこうとする梗夜きょうやを制止したメイだが、彼はその言葉を聞かなかった。

「親は近くにいないのか? 名前は?」

 膝をつき少女と目線を合わせて声をかける梗夜きょうや

 そんな梗夜きょうやを見て、少女はにこっと笑った。

 そして、次の瞬間。

「がっ……!」

 少女の振るった左腕に殴り飛ばされ、梗夜きょうやは民家に突っ込んだ。

「あはっ! よっっっっわ!」

 少女は見下した態度で梗夜きょうやを嘲る。

「ぷーくすくす。これがクローバーの数札スポット? ザコじゃん。ざーこざーこ」

 少女になすすべてなくやられた梗夜きょうやを見て、メイはため息をついた。

「あなたはハートの5シンク、エリザベート・ステュアートですわね。何故ここに?」

「分かってて聞くの? あ、それともお姉さんっておバカなの? 違った、お姉さんじゃなくて、オバさんだった!」

「分かりました。もう喋らなくていいですわ。あなたは、ここで殺す」

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