はじめましての魔王候補

「なんなのなんなのなんなのさ!」

「追え! 逃がすな!」

「こっち来ないでええええええええええ!!!!!!!!!!」

 白撫しろなの工場へ赴いたはずの僕は彼女と共に黒服の男たちから逃げていた。

 どうしてこうなったのか。3行で説明しよう。

 

白撫しろなの工場へ。

 黒服たちが待ち伏せしてた。

 そして、追われる。


 ざっくりこんな感じ。

 なんで追われてるのかさっぱり分からないけど、心当たりはある。

 僕が初めて白撫しろなの工場へ訪れた時にやってきた人と同じ服装からして、それ関連だろう。

 白撫しろなが敵判定されてたし、彼女が僕の家に住んでるのも彼らから身を隠すためだったし。

 まぁ、毎日のように工場に行ってたらすぐに見つかるとは思ってたけど。

 それにしても、僕が一緒の時だとは思わなかった。間が悪すぎる。

「はぁはぁ……ってかもう疲れた……走れない……」

「情けないのう。そんなでは捕まってしまうぞ?」

 必死で走る僕の横で白撫しろなは涼しい顔をしていた。

 彼女は意外にも体力があった、というわけではない。

「1人だけズルい。僕にもそのセグウェイみたいなのに乗せて」

「無理じゃ。これは1人乗り用じゃからの。お主こそ、闇の魔力を使ってあやつらを倒せぬのか?」

「あれはプリムラの作った丸薬飲まないと使えないの」

「飲めばよかろう」

「あんなもの毎日持ち歩いてるわけないでしょ。それとあのダークネスモードになった後、めちゃめちゃ疲労感に襲われるからあんまりなりたくない」

「それが命取りにならぬとよいがのう」

「誰のせいだと思ってるのさ。ってそうじゃん。あの人たちの目的は白撫しろななんだから僕が逃げる必要ないじゃん」

「それはどうかのう? あやつらは……」


「撃て! 死なない程度に撃ち殺せ!」


 後ろで黒服の1人が何かを叫んだ瞬間、僕と白撫しろなの間を炎の線が走った。

「うわああああああああああああ!!!! なにいまの!?」

 僕が状況を把握する間もなく、次々とその炎が僕たちに襲い掛かる。

 けどそれはギリギリ僕らには当たらず通り過ぎていった。運が良かった。

「え!? なに!? 銃!? なんか撃ってきた!!」

 一瞬だけ振り返って確認すると、黒服の1人が銃を片手にしているのが見えた。

 さっきから飛んできてるのはあれからっぽいけど、でも銃弾じゃない。

 炎を撃ってきてる。

 火炎放射器のように放射線状ではなく、ビームのように細い線のように飛んでくるからなんとか当たらずに済んでるって感じだ。

 それにしてもあの武器は何? ちょっと欲しい。

「あれはMoT技術を使った量産型の魔法銃じゃな。魔力を流し込みそれを銃弾に変換して放つ。魔力消費も少なく、誰でも簡単に扱えるから魔族との戦争でよく使われておるのう」

 MoTって言うと、確か魔力を用いた機械のことだったよね。

白撫しろな、あれ知ってるの?」

「MoT技術を使った兵器で最もメジャーなものじゃからのう。知らぬ方がおかしい」

「さいですか……」

 さらっと煽られた。

 そうですよ。僕は無知ですよ。

 それにしてもMoT技術ってすごいなぁ。引き金を引くだけで魔法が撃てちゃうんだもん。

「もしかして、あれなら僕でも魔法が使えるのでは?」

「無理じゃな」

「なんで!」

「あれは持ち主の魔力属性に合わせて作ってある。炎属性の魔力なら炎が撃てるように、水属性なら水を、と言った感じになっておる。他の属性を持つ者があれの引き金を引いたところで何も出ぬよ」

「じゃあ、闇属性用のやつ作ってよ!」

「今は無理じゃな。闇属性に関する情報が不足しておる。魔力を受け取ってもそれをコンバート出来ぬ」

「あ、技術的な話なら結構です。どうせ分かんないんで」

「後で体をいじらせてくれれば作ってやれぬこともないがのう」

「遠慮しときます」

 白撫しろなの目がめっちゃキラキラしてたけど、どうせろくなこと考えてない。

「さて、無駄話はここまでじゃ。気が付いておるかの?」

「え? ごめん? 何も分かんないんだけど? なに? なにかある?」

「なら、冷静に周りを見てみい」

 言われた通り辺りを見回してみる。

「あれ? ここって」

 僕たちがいる場所は川越水上公園だった。

 入間川に面した場所に位置し、プールやグラウンドなどがあるレジャー施設だ。

「逃げるのに必死で全然気が付かなかった。もしかして、ここを目指して逃げてた?」

「いいんや、偶然じゃ」

「あんな意味深な感じでセリフ吐いてたのに偶然なんだ……」

「わしが言いたいのは場所のことではないわ。他にも気が付いたことがあるじゃろ?」

「他に? えーっと……あれ?」

 そこでやっと理解した。

「人がいない?」

 後ろで激しく魔法銃ぶっぱなして追い立ててくる黒服たちがいるにもかかわらず、野次馬の1人もいない。

 というか、思い返してもさっきからずっと1つの人影も見ていない気がする。

「そうじゃ、おらぬのじゃ。いつの間にかわしらの周りから人がいなくなっておる。……奴らも含めて」

「え?」

 白撫しろなが急に止まり、後ろを振り返った。

 僕もそれにつられ振り返ると、さっきまで僕たちを追ってきていたはずの黒服たちの姿がなかった。

「神隠し的な?」

「隠されたのはわしらの方かもしれぬがのう」


「いないいないばあっ! って?」


「「!!!!!」」

 不意に空から声が聞こえた。

 そして、ゆっくりと顔を上げるとそこには見覚えのある顔があった。

「プリ、ムラ……?」

 僕はそう呟いたが、彼女が口にしたのは違う名だった。


「私はリリアナ・A・スノーフレーク・トランジェスタ。ハートの魔王候補よ。私の期待に応えてくれたら以後お見知りおきしておいてあげるわ」

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