文化祭はこれでいこう

「ご主人、大変です!」

「え、急に何?」

「あのババァのせいで、俺たちのクラスの出し物が台無しにされそうです!」

 そう言えば、今は文化祭の出し物についてクラスで話し合ってたんだ。

 風真さんのせいで忘れてたけど。

「それでクラスの出し物って? まだ決まってないって聞いたけど」

「いえ、俺の企画を通すつもりなので、確定しています」

 その自信どこから来るんだろう?

「もう決定事項にもかかわらず、あのババァが突っ掛かってきて、女子たちもそれに同調して話が進まないんですよ」

「なるほど。それで梗夜きょうや君が企画したクラスの出し物って何?」

「バンド組んでライブに出るんです!」

 バンドねぇ。クラスでなく個人の出し物でやればいいのに。って思ったけど、クラス全員が参加できるような出し物じゃないし、仮にこれが通れば僕は何もしなくていいのでは?

 梗夜きょうや君ナイス! それでいこう。

「演奏は全部オリジナル曲で、作詞作曲は俺がやります。そして、もちろんボーカルはご主人です!」


「タイム!」


「どうしました?」

「どうしました? じゃないのよ! ボーカルとか絶対嫌なんだけど! 僕人前で歌えないし!」

「大丈夫です! ご主人ならできます!」

「うっ!」

 なんて曇りなき眼差し! 眩しすぎて目が開けてられない。

 こうなったら、メイさんに期待するしかない!

「メイさんメイさん、女子たちはクラスの出し物何にしようとしてるんですか?」

「あら? 唯野憐太郎ただのれんたろう。わたくしたちの企画が気になりますの?」

「気になるというか、そうですね。少し応援しているというか……」

「それはいい心がけですわね。わたくしたちの企画はファッションショーですわ」

「ファ、ファッションショー?」

 なんだろう。つい最近、うちでも似たようなことをやっていたような気がするけど。

「わたくしたちが自作した衣装を着て、ステージで披露するという企画ですわ」

「ふむふむ」

「それでこの機に乗じて、お姉さまにあーんな服やこーんな服を着てもらいますの! そしてそれをカメラで……ぐへへ」

 私欲にまみれてやがる!

 でも、この様子じゃ、女子たちだけがステージに立つみたいだし、ライブよりはマシかな。

「でも、クラス全員分の衣装を用意するのには時間がかかってしまうのが、問題ですわね」

「へ? クラス全員?」

「ええ、当然ですわ。クラスの出し物なのですから」

「却下!」

 ファッションショーなんか、やりたい人たちだけが集まって個人の演目としてやってください。


 っく、このままではバンドがファッションショーになってしまう。

 今、クラスの勢力はこの2つの出し物で分かれており、僕が今更何かを提案したところで聞き入れてもらえないだろう。

 みんなが納得して、かつ、僕が楽できるものにしなくては。

 何か、何かないか……? 

 僕が楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの楽できるもの……………………………………………………………………………………………。


「あ、」


 その時、教室の隅で1人工作作業に勤しんでいるスク水白衣の女子が見えた。

「これだ!」






 僕は急いで保健室に向かった。

「委員長いる!? 起きて」

「うへへへへへへ……」

「幸せそうな顔で気を失ってる!」

 仕方なく委員長の肩を大きく揺らす。

「起きて! 起きて! 起きて!」

「ぐへへ、これ以上はもうSDカードに入らないぞ……」

「どんな寝言!?」

 全然起きる気配がない。

 それなら最終手段だ。

「あーーーーー!!! 数学の三船先生が英語の吉村先生にプロポーズしてる!!!!!」

「なんだって!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「あ、起きた」

憐太郎れんたろう! どこだ!? 三船先生と吉村先生はどこだ!? 幼稚園の時からの幼馴染なのに30歳になってもお互いに素直な気持ちを伝えられず生徒の前でもお構いなく喧嘩してて険悪だったあの2人がついにくっついたのか!?」

「寝起きからうるさい……。よく見て、ここは保健室だよ」

「へ? ……あれ? プロポーズは?」

「さぁ? 夢でも見てた?」

 とりあえず、適当にはぐらかしておく。だって、あれ嘘だもん。

「そうか……また、夢だったのか……」

 また? またってなに? 前にも似た夢見てたの?

「しかし、何故保健室?」

「いつもと一緒」

「そうか。文化祭の妄想をし過ぎて、倒れてしまったか。文化祭とは何とも恐ろしい行事だな」

 ツッコまないよ? 今それどころじゃないから。

「それより、委員長はクラスの出し物が割れているのは知ってる?」

「ああ、バンドかファッションショーかだろう? ワタシ的にはどちらも捨てがたい。特にバンドなんて最高じゃないか。最初は合わなかった音が練習を経て、段々と合わさっていき、ピタリと重なった瞬間、気づく恋心」

「いや、待った。確かにそれはいいかもしれない。でも、よく考えてみて? 男女混合バンドは恋愛によって解散するんだよ? 色恋が起こる可能性は高いけど、その分ドロドロした展開がこの後に待ってる方が多いんだよ? それでもいいの?」

「む! それはダメだ。いけない。バンドはよくないな、やめよう」

 よし、まずはバンドと言う選択肢を消した。

 いくらクラスでの多数決が多くても、委員長であり生徒会長の彼女が首を縦に振らなければ、文化祭の企画として通らないのだ。

 つまり、先に彼女を説得してしまえば、こちらに都合の悪い出し物を止められる。

「なら、ファッションショーか。女子が男子の服を採寸するときに近づく顔と顔。おぉ……。想像するだけで、ドキドキが止まらないな」

「それも問題があるんだ。メイさんの話ではクラス全員分の服を作ると言っていて、文化祭までの期間を考えると工数がかかりすぎてしまう。そうなるとみんなブラック企業の社畜みたいになって、色恋どころか過労で倒れてしまう人も出て来ちゃう。せっかくの文化祭も当日参加できないって人も出てくるかも」

「過労の可能性か。それは生徒会としても認められないな」

 うし! これでファッションショールートも回避した。

「しかし、そうなるとうちのクラスでやる出し物の案を一から考え直さないといけないな」

「それなんだけど……ごにょごにょ」

「ふむふむ、なるほど。よし、それでいこう」

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