体育会系オタク女教師
「ねぇねぇ、そこのねえちゃんさ、名前なんて言うの? 可愛いね? どこ住み? 放課後空いてる?」
「学校で堂々とナンパするな!!!!!!!!!!!!!!!!」
今回の新入り、当たり前のように学校までやってきていた。
女子高生に絡んでいる風真さんをひっぺがし、とりあえず僕の席に座らせる。
「いい年した大人が勝手に学校に来ていいと思ってるんですか!? 非常識ですよ!」
「んん~~~~~~? でも、あの2人はいいの~~~?」
「うっ!」
その言葉に僕は詰まって何も言い返せなかった。
「メイさん、昨日決まらなかった文化祭の出し物についてだけど、女子ではこの案がでていたんだけど、どう思います?」
「いいんじゃないですの? ただ、わたくしならもう少しここを……」
「
「俺の方でも少し考えてみよう」
だって、風真さんと同じように学校に関係ない
いや、あの2人に関してもちゃんと文句は言っているから筋違いではないんだけどさ。
「お、先生じゃ~ん。年齢いくつ? 彼氏はいる? おじさんとかどう――ぶべらっ!!!!!!!!!!!!」
「お~~~~~」
喋っている途中で風真さんは殴り飛ばされ教室の壁に頭をめり込ませていた。
「さ、流石です。夢咲先生」
「最近、騒がしいわね」
今さっき風真さんを蹴り飛ばしたのは夢咲先生だった。あっぱれ、体育教師。
「君さぁ、最近、変なのとツルみ過ぎてない? 大丈夫? いじめられてるの?」
「ある意味ではそうかもしれないですが」
「よし、先生が相談に乗ってあげるわ」
「え、そんな生徒に寄り添うタイプの教師でしたっけ?」
「先生を何だと思っているの?」
「生徒にあまり関心のない、重度のオタクだと思っています」
「確かに昨日までの私はそうだったかもしれないわ。でも、今日からは生徒に慕われる美人教師になるわ!」
「一体、この1日でどんな心境の変化が?」
「昨日の夜ね、生徒に慕われている教師は尊敬するって言われたの」
「彼氏にですか?」
「推し声優に♡」
「そんなこったろうと思いましたよ!」
どうせラジオとかだな。
「大丈夫任せて。これでも体育教師だから!」
「え? だからなに? 体育教師に何の関係が?」
「体育会系は生徒の相談を聞くこと以外じゃ役に立たないから!」
「偏見つよ!」
それに体育教師だからの理由になってないし。
「それで彼らとはどんな関係なの?」
「どんな? どんなって……」
魔王候補のことは言えないし。友達とは違うし。う~~~ん。
「もしかして、黙っちゃうほど言いづらい関係なの!?」
まずい。このままだと先生が暴走して面倒なことになりそうだ。
本当のことを言わなきゃいけない必要はないし、適当に話作っておこう。
「実は母親が父親の出張先に行くことになって、それで家には僕一人だけになっちゃったんですよ。でも、先生も知ってると思うんですけど、うちってシェアハウス用に作られた家だから広いじゃないですか。それと僕が家事出来ないってのもあって、母親が知り合いに家事代行をお願いしたんですよ。それがあの人たちなんです。なんで学校に来ているのかは知らないです。勝手についてきました。僕は毎日止めてます」
「家事……?」
僕の話を最後まで聞いた夢咲先生は壁にめり込んだままの風真さんを見た。
言いたいことは分かります。この人の場合は逆に介護が必要ですよね。
「えっとえっと、家事代行もなんですけど、うちをシェアハウスとして使うことにしたみたいなんですよ。それであの人が来たって言うか。ほら、どう見ても住所不定って感じじゃないですか! それでしょうがなくうちで住まわせているというか、そんな感じです!」
「親が不在……シェアハウス……若い男女が同棲……」
「あの? 先生?」
「なにそれ、めちゃめちゃ面白そうな話じゃない!」
あれーーーーーーー???????? この反応、絶対面倒になりそうなやつ。
「今度、家庭訪問に行かせてもらうわね!」
「え、あ、ちょ」
夢咲先生はそのままご機嫌でスキップしながら教卓の方へ戻っていった。
「どーーーーーーーーっすかなーーーーーーー」
プレミした気がする。
夢咲先生がオタクだということは知っていた。だから、こそこの反応になる可能性を考慮しておく必要があった。
何故なら似たようなのが既に近くにいたのだから。
「あ、委員長がまた鼻血出して倒れてる」
「今日の担当、私だから保健室連れてくね」
委員長の発作に関して、日常茶飯事過ぎてクラスメイト達の対応が早すぎる。
担当って何? 僕も組み込まれてたりしないよね。介護とか嫌だよ?
っと、まぁ、あの人は置いておいて。
下手に詮索されるのは悪い方向にしか行かない気がするし、後でプリムラに相談しておこう。
「ねぇ、彼女何者だい?」
「うお!!! 風真さん! 急に後ろから話しかけないでくださいよ!」
「ごめんごめん」
「てか、無事なんですね」
壁に思いっきり頭突き刺さってたけど。
「平気平気、だってあれ変わり身の術だし」
「へ?」
そう言われて、さっき風真さんが壁に突っ込んだ方を見ると、そこには熊のぬいぐるみがあった。
「マジもんの忍法ですか?」
「マジもんの忍法です」
「すげぇ!」
忍法初めて見たすげぇ! この人、本物だったんだ。
「で、話し戻すんだけど、彼女何者?」
「何者って見ての通り、ただの体育教師ですよ?」
「ただの体育教師? そんなわけないだろう? 見てみ、これ。変わり身で彼女の蹴りを食らったこの子。中がぐしゃぐしゃだ」
「いや、ぬいぐるみの腹裂いてそんなこと言われても、綿だし。元からぐしゃぐしゃですけど」
「あ、それもそうだ」
この人、アホなの?
「で、先生の蹴りが何なんですか?」
「蹴りの威力は当然だが、それ以上に内部へのダメージが大きい。あれを生身の人間が喰らえば内臓は軽く吹き飛んでいただろう」
「何それ怖い。今時の体育教師ってそんなことまで出来るんですか?」
「いや、あれは勇者軍の暗殺部隊で開発された技だね。だからこそ、一般人があれを使うこと、いや知っていること自体おかしなことなんだよ」
「え? それって夢咲先生が元勇者軍ってことですか?」
「それはないと思う。彼女のような子がいればおじさんはすぐに声をかけている」
「あ、はい……そうですね」
「でも、軍で彼女を見たことがない。おじさんは20年以上前から所属している。おじさんが入隊する以前にいたというのは年齢的にも考えにくい」
「はぁ、じゃあ、気のせいじゃないですか?」
あの体育会系オタク女教師に過去に何かあったとは考えにくいし。
それから、この風真さんが言っているということが一番胡散臭い。
「おじさんはしばらく、彼女について探ってみようと思う」
「あの、警察沙汰は止めてくださいね」
「かっかっかっ! 信用ないねぇ~~~~。けど、心配はいらないよ」
「ん」
なんかいつもより真面目な顔をするから少し言葉に詰まってしまった。
「おじさんはもう少年の幹部だからね。うちのボスに危機が及びそうな可能性が少しでもあるなら消しておきたい。それがおじさんの仕事だ」
「…………」
なんだろう。少し頼もしく見える。なんだろう。ちょっとモヤモヤするけど。
でも、うん、この人が勇者軍の中で実力者だったという情報はほんの少しだけ信じ見てもいいかなって。
そう思うようになった。
そう、少しだけ。
ほんの少し。
いや、ノミくらい。
いや、1マイクロナノメートルくらい。
うん、そうだね。そのくらいなら認めてもいいかもしれない。
「お! いいお尻してるじゃ~~ん。今夜とかどう?」
やっぱり前言撤回で!
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