「初日の出カミサマ☆ロックフェス」その⑬

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 咲耶たち「ヤタガラス」のアンコールが終わると、天岩戸から出てきたアマテラスはステージに降臨した。アマテラスは咲耶と弘子の間に降り立ったので、思わず二人はたじろいだ。そのあまりに優しい輝きと美しさに驚いたからだ。

 

「ヤタサクヤさん。とても良い歌でした。『ろっく』とは良いものね。そしてヤタガラスの皆さま、最高の演奏をありがとう。私は見てのとおり、出て来ましたよ」

 

アマテラスは振り返って紫苑たちにも礼を述べた。そして今度は観客の方へ向き直る。

 

「本日は私の為にお集まり頂き、誠にありがとうございます。このとおり元気ですよ。私は、初日の出を昇らせる為にすぐに此処を発たねばなりませんが、カミサマ☆ロックフェスはまだまだ続きます。ではどうぞ、日の出まで引き続きお楽しみ下さいね」

 

 すると天照大御神はまた美しい輝きを放ちながら天に昇った。そして再び歓声が上がる。

 アマテラスは天岩戸を出た。八咫超常現象研究所の依頼は今、果たされたのだ。

 

          





          ◯

 アマテラスはまた天岩戸まで昇ってきて着地した。姉の挨拶をここから覗いていた弟のスサノオは、感動したようで男泣きをしていた。

 

「おお、姉上。やっと出てきてくれたか! 俺はもう心配で心配で……!」

 

「もう大袈裟ね、ちょっと外の空気を吸いたくなっただけよ」

 

「うん。姉様、良かったね。手紙が届いて」

 

スサノオには強がっていたが、妹のツクヨミには優しく微笑んで「そうね」と答えていた。この三兄弟のパワーバランスを目の当たりにした気がして、景虎は少しスサノオを気の毒に思った。だが、今の関係性はそもそもヤンチャしていたスサノオの自業自得かもしれないが。

 そんなアマテラスは、今度は景虎に向き直った。その手にはヨキ山村からの感謝状が握られている。

 

「ミナトカゲトラさん。貴方の頑張りには敬意と、そして感謝をお伝えします。本当にありがとう。過去からこの私の元に人々の思いは形として、約束は果たされたのです。私の記録を勝手に閲覧した事は特別に許しましょう」

 

アマテラスのその微笑みは思わず景虎も見惚れてしまうほど美しかった。「太陽」そのものなのだから当然かもな、と景虎は納得した。

 

「お、おう。カミサマに恩を売れる機会なんて今後ないだろうしな」

 

 景虎は照れを誤魔化すように頭をかいた。やれやれ、今回も骨が折れた。咲耶に平手打ちされた甲斐があるというものだ。

 そんな事を考えていると、演奏を終えたばかりの「ヤタガラス」たちがアメノウズメと共に天岩戸まで辿り着いた。景虎は咲耶を見つけて手を振った。

 

「おお、すげえ良かったぜ。咲耶さんの歌」

 

「嘘つきなさいよ、あんた全然聞いてなかったでしょ」

 

咲耶は景虎に言われて照れながらも嬉しそうだった。

 

「ヤタガラス」と景虎は、アメノウズメ、スサノオ、ツクヨミ、そしてアマテラスと向き合った。

 

 アマテラスは、代表して感謝を述べる。

 

「改めて、何度お礼をしても足りないほどに私は救われました。感謝申し上げますわ。どうも、ありがとう。

 ──では皆さま、時計をご覧ください」

 

 アマテラスに言われ、景虎は腕時計を確認した。その時刻は一月一日、六時四十九分を差していた。現世の江ヶ島で初日の出が昇る時間だ。

 その瞬間だった。眩い光が高天原の地平線の彼方から昇ってくる。その眩しいほどの朱い輝きは景虎たち「ヤタガラス」を包んだ。紫苑は驚く、日の光による痛みを感じなかったからだ。これが太陽の真の輝きなのか。

 アマテラスはその「初日の出」の輝きに夢中になる彼らに向けて、とても愛おしそうに微笑みを浮かべているのだった。

 

「この日の本に住む、私の愛する皆様。新年、明けましておめでとうございます」

 

          




          ◯

 初日の出は無事に昇り、アマテラスに約束は果たされ、咲耶の過去にも決着がついた。全ては丸く収まり、虎右衛門の腹鼓で一本締めまでやってしまった。

 こうして初日の出を迎えた面々は、天岩戸を後にしてゆっくりと下山を始めていた。紫苑はというと、彼女は杖をつく必要があり、山の下り道はバランスを崩すと危険だ。景虎は紫苑に肩を貸していた。しばらくそうして下山していると、紫苑は景虎に言った。

 

「今回も大変でしたね」

 

「でも何とかなっただろ? 頑張ったな、紫苑」

 

 景虎に褒められ、紫苑は外出用サングラスの奥にある空色の目を丸くすると、その視線をすぐに彼から逸らした。

 

「いいえ、景虎さんも頑張りましたね。今年もよろしくお願い致します」

 

「そりゃどうも。今年もどうぞよろしく」

 

 景虎と紫苑が並びながら歩いて下山するのを、弘子は少し後ろから眺めていた。あの場所に行きたい。景虎の隣は私の場所であって然るべきなのに。

 

「ならば、電光石火の如き一気呵成にて攻め込むべきですじゃ」

 

虎右衛門がいつの間にか弘子の横に並び立ってそんな無責任な事を言ってきた。弘子は口を尖らせる。

 

「勝手に人の心を読まないでよ」

 

「僕も略奪愛みたいなアクロバット大恋愛をしたから弘子さんの気持ちは分かるのだ。案外、男なんてグイグイ来られればあっさり落とされてしまうものですよ」

 

「え、そうなのかい?」

 

 全員、もうこれで全て終わったと、年が明けてお正月が始まるんだなと確信していた。和気藹々とした穏やかな雰囲気に包まれている。

 だが、一つ忘れている事があった。


 ──突然、荒野の先で爆発が起こった。

 





────その⑭に続く

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