「初日の出カミサマ☆ロックフェス」その③
3
景虎は
「最近使い過ぎて“祝福”が薄れてきたんで、修理してもらってもいいですか?」
「これは凄い。一体何を殴ったんです? 私が十月頃に施した祝福で後の一年間は有効な計算だったのに」
景虎は十月以降の戦いを回想した。悪霊たちに、黒サンタ・クネヒト・ループレヒト。どれも割と命懸けだった。この『聖なる武器』には何度も助けられたのだ。
「いつもここで話しているとおりさ。とにかく助けられたよ。本当に感謝してる」
「それは何より。私も貴方の仕事の話を聞くのは楽しみですから、無事を守る手助けが出来るなら私も武器を作る甲斐があるというものです」
神父から向けられた意外な言葉に景虎は救われた。ここで酔狂な仕事の話を聞くのが楽しみだったなんて。
「それは、何て言うか、照れるな。
──神父さん、あけましておめでとう。今年もよろしく頼むよ。じゃあさっそく、去年の年末と年明けについての話を聞いてほしい──……」
◯
咲耶は眉間に皺を寄せて、言った。
「明日までに準備をしてバンドをやるというのは、ちょっと難しいですわね。今回はご縁が無かったようです。お引き取りを」
景虎と紫苑は咲耶の腰の引けた態度に驚いた。思わず彼女の顔を見つめてしまったほどだ。なぜなら、依頼を断るのを初めて見たからだ。
「明日までに準備してバンドをやるだなんてそれはまた厄介ね。景虎、紫苑、今回も気合い入れていくわよ!」
……くらいの事はいつも言う。そんな彼女が「難しい」と断言するとは。景虎は不自然に感じた。
「どうしたんだよ咲耶さん。らしくないんじゃないのか?」
「そうですよ、体調がまだ万全ではないのですか?」
景虎と紫苑に心配され、咲耶はばつが悪そうな顔をした。その後は黙っている。
アメノウズメ、雨野はそれを見てやれやれといったふうに口を開いた。
「八咫超常現象研究所さん、もう貴方たちに頼むしかないのです。時間が残されておりませんから。所長さん、貴女が依頼を受けて下さらないのなら……。日本のどこにいるか分からない貴女のお父様にお願いするしかないですわね」
咲耶の父、
咲耶はぴくりと片眉を動かした。彼女はあまり父の事が好きではない。父への対抗心で八咫超常現象研究所を継いだ部分もある。父の名を出され、父に仕事を回すとまで言われれば咲耶はもう引けなくなった。
「いえ、今の発言は忘れてください。失礼致しました。そのご依頼、お受けしましょう。我が八咫超常現象研究所がアマテラス様を天岩戸から引っ張り出してみせます」
咲耶は結果的に依頼を受けた。だが景虎はそんな彼女の態度が気になった。どうして最初は嫌がったのか、「バンド」という言葉に反応したようにも見えた。
もちろん詮索するつもりはないが、仕事に支障がでるなら話は別だ。紫苑も咲耶の事が気になった様で何かを思案する表情をしていた。
◯
バンドを結成したレイと咲耶はまずオリジナルの曲を二曲つくり、加えて既存のアーティスト曲を数曲練習した。しかもただ練習しただけではなく、完全に『もの』にしていた。
これは今となっては意味のない事になってしまったが、咲耶の歌手としての才能は本物だった。その立ち姿、歌声、人を惹きつけるカリスマは天性のものと言えただろう。
咲耶のバンドは最初、街のライブハウスに売り込みに行った。しかし、メンバーもまともにおらずさらに無名の女子高生の歌など全く相手にされる訳がなく、このままではまずいとプロデュースも務めるレイは作戦を考えることにした。
「君の歌をとにかく聴いてもらわないとだね。そうすればきっと評価してもらえるはずだ。しっかりバンドを組むのはその後だ」
まず最初にインターネットを使って咲耶の歌を発信してみた。これならばどこの誰だろうがみんなに歌を聞いてもらえる。だが、このやり方は上手くいかなかった。
流行りを作るには何かきっかけが必要だったし、純粋に“歌”だけだと咲耶のカリスマを表現しきる事ができない。何より、インターネット上の不特定多数の他人に顔を出すのを咲耶が嫌がった。
レイはさっそく頭を抱えた。歌い、それを聞いてもらうという事がこんなに難しいとは……。
だが、チャンスは突然訪れた。
「うちに歌いに来るかレイ。歌える場所を探してるんだろ?」
隣のクラスに丸子という男子生徒がいた。彼は少し柄の悪い生徒で、レイ以外には友達と呼べる人間は殆どいない。
そんな彼の家はスナックを経営していて、他の客が歌い易い空気を作れるように「サクラ」として歌える人材を探しているらしかった。レイはすぐに了承した。
「もちろんだよ、サクラでも何でも構わない。まずは人前で歌わないと。それをきっかけに道が開けるかも知れない」
結果的に、スナックで歌う作戦は大成功であった。偶然かも知れない、だが少なくても上手くいった。
咲耶の歌はスナックに来る客達を魅了した。咲耶がスナックに出勤して歌う日は、他の誰も歌わない。みな彼女が好きに歌うのを聞くか、リクエストをしてそれを聞いて楽しんだ。
そして、そんな日々が数ヶ月続いた後だった。チャンスは再び訪れた。
「君たち、うちのライブハウスに来て歌ってみないか。丁度インディーズのバンドが一組解散して空きが出たんだよ」
なんとスナックの客にかつて断られたライブハウスの責任者がいたのだ。きっと彼は咲耶とレイの事など忘れているだろう。だがそんな事はどうでもいい。このチャンスを絶対ものにしてみせる。
条件はバンドである事。だが今のメンバーはボーカリストの咲耶、後は作曲家のレイのみ。一般的にバンドと呼べる状態ではない。咲耶もレイも楽器ができないからだ。
「どうするのよ、レイ」
「大丈夫、大丈夫。今こそメンバーを集めよう。僕は目星がつけてあるんだ。きっと凄いバンドになるぞ」
レイはとても楽しそうにそう言うのだった。その笑顔に、咲耶はいつも「やられてしまう」。
────その④につづく
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