第57話・躾は成功?

 門の所に降下円を作り、下へ降りようとしたところに、後ろから走ってくる音と声が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


「我が……町長!」


 振り向くと、必死で走ってくるアナイナとヴァリエ。


 ……なんで?


 その答えは、後ろからやってきたフレディが教えてくれた。


「随分反省も後悔もしたようですから、試しに外に出したらどうなるかの実験中なんです」


「で? 様子は?」


「今のところボロは出していませんね」


 うん、他の人にボロがでなければそれでいいんだよ。この二人、周りを気にせずの動向だから。


「お兄ちゃんは下に降りるの?」


「うん」


 ソルダートとリュー、ヴァローレ、アレ、シートスを後ろに従えて降下円を作ってるんだから、まあ降りるとしか思えないよな。


「わたしたちもついてっちゃ……ダメ?」


 久しぶりだな、アナイナのおねだり。


 それに、アナイナが少し変わったのがわかる。


 アナイナは、「わたしも」と言った。つまり、ヴァリエやフレディの同行もお願いしてきている。


 いつもだったら「わたしも連れてくよね?」だったのに。


「フレディ」


 二人の後ろにいるフレディは、今は子供を連れていない。誰かに預けたのか。


「……苦労させたね」


「少しはマシになったようですから、無駄な努力ではなかったでしょう。同じ町に住んでいても二度と会えなくなるかもですよ! がお約束の言葉でしたね」


「ご苦労さんだったな、フレディ」


 ソルダートがフレディの肩を叩く。


「子供の相手は慣れてますよ。ついでに言えばしつけも」


 さすがは二人の子供のお母さん。強いなあ。


「で、町長はどうして下へ?」


 フレディに聞かれ、ぼくはちょっと苦笑い。


「ちょっと下に気になることがあってね」


「あ、それでソルダートが一緒なの?」


 お。前だったら「ソルダートが一緒ならわたしも!」とか言い出すところなのに。


「……やっぱり行ったらダメかな」


「そうですよアナイナ、町長は町長の用事で行くんですから、わたくしたちは邪魔になるかもですわ」


 お。これも変わったな。前だったら「我が君の御身はわたくしが守ります!」とか食いついてきてただろうに。アナイナをけん制しているだけかもしれないけど、それでも前から見たらすっごく大人しくなった。


「……シートスの監視付き、かつ、ソルダートの言うことを聞けるなら」


「よろしいんですか?」


 フレディが小首を傾げる。


「シートスの監視もあるし、フレディもしばらく子供たちの相手しばらくできてなかったろ」


 フレディは笑顔で微笑んで、シートスによろしくと頭を下げて去っていく。


「えっと、……結局、どうなったのかな?」


「だから、ソルダートの言うことを聞くようにってこと」


「わぁい」


「ありがとうございます、わ……町長っ!」



 ということで、ぼくたちが降下円を使って降り、「移動」したのは、この間塀と門を作って門番ポルティアを置いてけぼりにした場所。


 あれ。跳ね橋降りてる。


 ぼくは近付いて、跳ね橋を見る。


 跳ね橋を留めていた金属を混ぜ込んだ綱がすっぱり切れている。


 ポルティアはぼくたちを追いかけるのに跳ね橋を渡れなかった。つまり、別の誰かがスキルか何かですっぱり切ったと思う。


 でも、跳ね橋が降りていれば、中に誰かいる、ということがわかる。


 ここで出番だ。


「リュー。ポルティアの特定、できる?」


「んー」


 リューは目を細めて中空を見る。


「塀の中、っすね」


「間違いない?」


「間違いないっす。隠し部屋みたいな場所に、男と女が一人ずつ。その片方は、間違いなく町長が言ってた男っす」


「もう一人、女がいる?」


 こくりとリューが頷く。


「誰だろ」


「直接聞いてみればいいんじゃ?」


 確かに。ここで悩んでても仕方ない。


「ソルダート、先に行ってくれる?」


 隠し部屋というのは、恐らく見張り番のこもる隠し部屋だろう。あそこなら魔獣も来ないし外も見える。


 そこで何をしているかは分からないけれど。



 ソルダートが槍を片手に前を進む。


 門から一番離れた場所にある、番人が外を見る時に使う隠し部屋にいるんだろう。


 魔獣なんかが襲ってくる可能性は一番低いから安全。ただ……食糧とか水とかが、ないんだよなあ。


「誰だ!」


 からからに乾いた声が届いた。


 ソルダートが槍を構え、声の方向を見据える。


「ポルティア?」


 ぼくが声をかける。


「…………」


 しばらく、沈黙。


 その後、何か絶叫みたいな怒声が聞こえた。


「下がってください!」


 ヴァリエが腰に下げていた剣を構えてぼくの前に出る。


「ヴァリエ――」


「大丈夫です。無茶はしませんし町長の意向にも逆らいません」


 ヴァリエは緊張した声で言う。


「ただ、あなたをお守りすることだけをお許しください」


「身を守るためにソルダートを連れてきたけど、喧嘩したいわけじゃない。傷付けちゃダメだよ」


「分かりました!」


 その返事を聞いて、ぼくは声を張り上げる。


「ポルティア! ぼくです!」


 怒声が一瞬収まる。


「グランディールの町長、クレーです!」


 また怒声。


 ……ぼくを尾行して失敗してここに取り残されたんだから、多分何も持ってないんだろうなあ。食事とか水とか、持ってるとは思えないし……。

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