第53話・何もない町
ポルティアは牛車が入っていって閉じられた門と、跳ね橋を見つめていた。
なんだろう。
人の気配が……ない。感じられない。
門構えはAランク以上と言っていい。ここはポルティアの知る場所から外れているから、いつの間に出来たかは知らないが、森を切り拓いて作られたばかりと言われれば納得はできる。それだけ新しさがある。
こんな立派な門構えの、新しい町だったら、もっと活気があってもいいのに、静まり返っている。スピティから金と荷物がやってきたのだ、ざわめきや歓声が聞こえてもおかしくないのに。
しかし、これだけの門を作ったのなら、人はいるはず。こんなものを作って誰も居ないなんてことはない。
何とか覗けないか……?
馬を木に繋いで、木に登ってみる。
見えない。塀が高すぎる。
何とか……中を……。
◇ ◇ ◇
「見てるな」
「見てるね」
塀の見張り穴から覗いて、ぼくとサージュは呟いた。
あっちからは見えないけど、こっちからは木に登ろうとしているポルティアの姿が丸見えだ。
「やっぱり追跡されていたか」
「ピーラーが諦めるなんてないと思ったから」
塀に寄りかかってぼくは肩を竦める。
「で、この案は、町長の仮面で思い浮かんだのか?」
「ううん」
ぼくはニヤッとした。
「二つ以上作れるか、試してみる機会だと思ったんだ」
そう言って、ぼくは塀の内側を見渡す。
そこには、何もなかった。
塀でぐるりと囲まれた内側は、のっぺりとした平地があるだけ。
ここは、一応町だ。
何故かというと、ぼくが「まちづくり」で作ったから。
だけど、町民が誰も居ないから、建物も何もない。外から見れば立派な町に見えるけど、内側は空っぽ。
「まちづくり」には町民が絶対必要なわけで、町民なしで町を造ろうとしたらこういうことになる。「町」には見えるけど人の暮らす場所じゃない。
「でも、これだったら、町を二つ以上造ることも可能ってわけだね」
「だが、お前が行ったり来たりしなければならないんじゃ?」
「多分、町に必要だと思ったら、行き来する町スキルが出来るんじゃない?」
「……本当に便利なスキルだな」
尾行者の見張りをサージュに頼み、ぼくは何もない町を見渡す。
牛車がぽつんとあるだけ。
アレに頼んで、ヴァローレを呼びに行ってもらったからだ。
見たところ、追手はあのスピティの門番、ポルティア一人。
だけど、牛車に何かついているかもしれない。ので、アレに頼んでグランディールに「移動」してもらい、連れてくるヴァローレの「鑑定」待ち。ヴァローレの「鑑定」は、スキルの鑑定もできる。誰かの持っているスキルを見抜いたり、何かのスキルに影響下にあるものを見つけたり。本当に、グランディールに来てくれてありがとうだヴァローレ。
「しかし、いつまであそこから町を覗くつもりかな」
「回り込んでみるって考えるのはいつ頃かね」
アレがヴァローレを連れて戻ってくるまで最低一刻。それまであの
わざわざ堀付き跳ね橋付きの門構えにしたのは、ポルティアが入ってくるのを
「取り合えず食事にしよう」
ぼくは座って、携帯食を取り出した。
「そうだな、座って待っていても仕方ない」
ぼくは大きく手を振って、町の敷地の向こう側にある見張り塔に手を振った。
そこにはアパルがいて、他の追跡者がいないかを確認している。
小さく見えるアパルが手を振り返す。何もないって意味。
「……今度行った時、伝令鳥買おうかな」
「いいんじゃないか?」
燻製肉をパンに挟み、たれをかけて食べる。
飲み物は薄いワインにレモンの果汁を混ぜたもの。
スピティでアレが買っておいてくれたものだ。
アレ……本当に気が回るなあ。ぼくが町長の仮面をつけて何事もない顔をしていても心の中では緊張していることを察して、終わった後一息つけるように屋台料理を買っておいてくれる。
「サージュも食べる?」
「ああ、いただく」
穴からポルティアを伺いながら、手だけがこっちに伸びてくる。パンを渡すと手が引っ込み、すぐにサージュの口の中に収まる。
同じものをアパルも持って行っているので、今頃彼も向こうで食べているだろう。
ぼーっとした時間が過ぎる。
「……あとどれくらい?」
「そろそろだな」
その時、空間がねじれたようになって、ねじれた所から人が二人姿を現した。
「ゴメンヴァローレ、呼び出して」
「気にするな」
ヴァローレは軽く手をあげる。アレの胸の辺りまでしか身長がないけれど、そのスキルは低上限レベルの優れた「鑑定」。Bランクになるためにはどんな形でもスキル「鑑定」の人間が一人以上いなければならない。これは「人間鑑定」「家具鑑定」などいろいろあるけれど、ヴァローレのそれはオールマイティ。
「で、これを見てくれって言うのか?」
牛車を見上げてヴァローレが聞く。
「うん。ヴァリエみたいなおまけがついてきたら嫌だし」
「了解、町長」
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