第22話・取引
ぼくは、動揺しているのを悟られないようにとチラリとサージュとアパルを見た。
「任せる」と目線で送る。
了解、と二人が頷いて、まだ揉め始める二人の商会長に向き直った。
「こちらとしては、正直どちらでもいいのですよ。ただ、取引に条件があるのです」
「何だろうか」
トラトーレもデレカートも表情を戻してサージュを見る。
「こちらの家具は、町スキルで作ったもの。故に大量生産はできません」
「まあ……確かに」
デレカートの方がしげしげとテーブルと机を見る。
「これだけの商品、時間がかかるだろう……。……そうだな、設計図を作って、町民全員の町スキルで作って二ヶ月に一つ。全く同じデザイン同じ大きさの椅子であっても一度にせいぜい五脚。そんなものではないかね?」
「さすがデレカート商会長、話が早い」
褒められてデレカートが少し胸を張る。トラトーレが悔しそうに唇をかむ。
「大きくても小さくても二ヶ月に一つ。それだけしか納品できません。豪華でも地味でも、大きくても小さくてもです。ただし、設計図通りの物が必ずできます。複雑な彫刻なども、何処にどんなものを入れて欲しいかご注文いただければ必ずや望み通りの物ができます」
「ふむ」
「見本のテーブルとタンスの設計図はこちらに」
アパルが、前に作る時に参考用にと作った設計図を差し出した。サイズは細かいが装飾なんかはシエルがオリジナルでデザインしたので設計図以上の物ができている。
トラトーレとデレカートが設計図を穴が空くほどに見る。
「この設計図で、この仕上がり……ありえん……だが実際にできている……」
「装飾などはデザイン担当のオリジナルなのかね?」
「ええ」
笑って頷くサージュ。
「装飾はイメージを伝えてデザイン担当に任せても大丈夫そうだな」
「このデザインを気に入って下さったなら」
「ああ、ああ、このデザインは担当のセンスの良さを示している。豪華すぎず派手過ぎず、しかし地味とは思わせないこの上品さ!」
「このデザインは我がトラトーレ商会に向いている! 若き町長よ、どうか、どうか我がトラトーレ商会にお任せを!」
ふーむ、とサージュとアパルが顔を見合わせた。
「では、この二つをそれぞれの商会に預け、様子を見ていただく、と言うことでは」
「それならば!」
デレカートが身を乗り出す。
「今、設計図を書き上げた家具がある! うちの職人にそれを作らせているが、それをグランディールでも作っていただくことはできるかね?」
「デレカート!」
「もちろん。二ヶ月間が開くので別の家具を作ろうと思っていましたが、注文があるのならお引き受けいたします」
一歩先を越されたトラトーレが歯噛みする。そしてこっちもずずいっと身を乗り出す。
「う、うちは、買い取らせてもらう! 見本で構わない、こんな品物を扱えるというだけで名声になる!」
「もちろん、うちも買い取らせていただく」
デレカートは一歩前へ出た余裕でゆったりと微笑む。
「どちらがよろしいですか? タンスとテーブルと」
「ではうちはタンスを」
トラトーレが言って、デレカートは頷く。
「うちはテーブルを」
トラトーレは紙に何やら書いてお付きの人に渡した。
「代金は今すぐ持ってこさせるので、少々お待ちいただきたい」
少しして、お付きの人が数人がかりで袋を持ってきた。
「五十万テラ。こちらでいいだろうか」
契約書にトラトーレ商会の印を押してサージュに渡し、金袋をアパルに渡す。
「はい。ではタンスをお引き渡し致します」
アパルが袋の中身を確かめて頷く。
「契約書に印を」
ぼくはそこで初めて牛車から降りた。ざわりと周りが動揺する。この家具を扱う町長がこんな幼い……というヤツだろう。
「印を」
ぼくはゆっくりと頷いて、印を押した。
「……素晴らしい印ですな」
印を褒めて、どうだ、と笑うトラトーレに、デレカートは微笑み返してこっちを見る。
「……いくらくらいがよろしいか?」
トラトーレはそれまでと一転、「しまった!」と言う顔をした。
好印象を持ってもらうには値段を高くするのが一番。五十万テラが家具で高いのかどうかは分からないけど、先に金を出させられればそれ以上の値をつけばいい。赤くなったり青くなったりするトラトーレを見て、アパルは微笑む。
「では、同じ五十万で」
「よろしいのか?」
「ええ」
デレカートはちょっと残念そうな表情をした。高値を付けて優位に立とうとしたのが見抜かれた、と思ったのかな? しかしすぐ笑顔で頷いた。
「では五十万で。設計図はこちらで」
にっこりと微笑んでデレカートは金と契約書を渡した。そして、設計図と材料費、それを預けるという契約書。
「では町長、こちらに印を」
ぼくは頷いて、二つの契約書に印を押した。
「これからどうするので?」
「町に必要なものを買って帰りま」
「食糧商会に繋ぎを取りましょう」
トラトーレが身を乗り出して言った。
「若い町が必要なのは食料でしょう。野菜の種などもいるでしょう」
「ああ、そうしていただけると助かります」
ぼくが頷くのを確認してサージュさんが笑った。
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