013 弱者の力。
「アッハッハッハッハッ!! 分かったッ!! ついに分かったぞッ!!」
アスラン魔法学園の試験から数日。
俺はやはりアイツの力が納得できなかった。
だから考えた。
寝る間も惜しんで考え続けた。
あらゆる可能性を模索したんだ。
そして──辿り着いた。
もうこれしか考えられない。
極めて特殊な条件だが、それ以外考えられないのだからこれが答えだ。
まず考えるべきは『魔法許容量』を拡張する手段はあるのか、ということ。
この答えはすでに出ている。
あるんだ。
アベルの存在がその証明だ。
ではその手段は何か。
ここが本当に苦労した。
何せ情報があまりに少ない。
ここで考えるべきは、強化魔法を2回かけられる者がなぜ冒険者に多いのかということ。
それも『英雄』と呼ばれる冒険者に。
最初、俺は魔法許容量は魔法的能力に依存したものだと思った。
だが違うんだ。
魔法許容量は何らかの肉体能力に依存する。
それが様々な可能性を考え抜いて出した結論。
冒険者は魔法使いよりも純粋な戦士の方が圧倒的に多い。
その時点で気づくべきだった。
死を間近に感じる程の修羅場。
自身の限界を超えることを強制される場面。
それを幾重にも経験すること。
これが……これこそが『魔法許容量』を拡張する条件だ。
しかし、まだ疑問が残る。
この条件が正しいと仮定してもだ。
一体、どれだけの修羅場を越えればいい?
どれだけ死を間近に感じる程の経験をすれば『魔法許容量』が拡張できる?
英雄と呼ばれるほどの偉業は簡単になせるものではない。
時間がかかるんだ。
偉大な英雄であれば、それだけ何度も死地は経験しているはず。
それなのに、強化魔法は『2回』が限度。
ここが最も『アベル』が異質である点だ。
この時間的ギャップ。
おかしいんだ。
アイツは俺と同い歳のはず。
毎日どれだけ死を間近に感じる程の努力をしたとしても計算が合わない。
どう考えても合わないんだ。
死にかけられる回数には限度があるはず。
なのに、『英雄』ですら2回しか重複できない強化魔法を5回だぜェ?
「ククク……」
ここで、俺はさらにアベルがいわゆる『虚弱体質』なのではないかと仮定したんだ。
簡単に肉体的限界を迎えてしまうひ弱な身体。
この条件の下でなら、理論上は簡単に何度も肉体を死にかけるまで追い込める。
肉体的に優れているだろう『英雄』の何倍も死にかけることができる。
もっとも、何度も死にかけることをものともしない『イカれた精神力』が必要な訳だが。
「アッハッハッハッハッ」
あぁ、全て分かった。
何も理から外れた力なんかじゃない。
極めて特殊な条件だがありうる力だ。
ひ弱な身体。魔法は使えど魔法の才はない。
そんな何もかも恵まれない『主人公』が、イカれた精神力と努力の果てに手に入れた『理外の魔法許容量』という力。
それは正しく“弱者”の力だッ!! ──ってか?
「クク、あんま笑わせんなよなァ」
きっと『ルーク』は自惚れるあまり表面しか見てなかったんだろう。
アベルは属性魔法が使えない。
それだけでルークの眼中から消えたんだ。
そして、足を掬われた。
「馬鹿だなァお前は」
ただ向き合えばよかったんだ。
そうすれば気づけた。
実際、俺は自分がすべきことを見失わずに済んだよ。
分かりやすい強者を、分かりやすい弱者が倒していく。
本当にありきたりな物語だ。
「つまらねぇよなァ、それじゃあ」
──壊してやる。
そんなクソみたいな物語は俺が壊す。
どうなろうと知ったことか。
俺は俺の為だけに行動する。
……とは言ったものの。
はぁ……しんどい。
割と頑張ってる感はあった。
ぶっちゃけもう負けないだろうな、とか思っちゃったりしてた。
なのに……普通に強そうじゃんアベル君。
まぁそりゃそうだよなぁ。
主人公だもん。
弱いわけないよ。
色々考えてはみたものの、どんなに根拠並べてもこれは考察の域を出ない。全てはアベル君の特殊能力です、って言われても何も不思議じゃないんだ。
それに、肉体的にも恵まれてしまっている俺はアベル君の真似をしても無意味。きっと下位互換にしかならない。
違うな。
これはアベル君の道。俺には俺の道がある。
何も奇を衒う必要は無い。やるべき事を淡々とやればいい。
それだけでいいんだ。
能力の原理を紐解いたところで、アベル君が極めて特異な能力を持っていることに変わりはない。
どうせ正面から対峙することになるんだろう。
面倒だなぁと思う。
ただまァ──相変わらずどんなに悪く考えても負ける未来は見えない。
++++++++++
アスラン魔法学園から合格通知が届き、父上と母上が狂喜乱舞したのが約1ヶ月前。
全寮制というシステムを変えるために行動を始めそうだった父上を何とか説得し、ついに今日が登校初日である。
「それで、なぜお前は俺と同じ馬車に乗っている?」
「不思議なことを聞くのね。将来を約束された二人が一緒にいることに、果たして理由は必要なのかしら」
「……既視感を覚えるのはなぜだ」
当然のようにアリスが一緒にいる。
一応なぜと聞いてはみたものの、俺自身アリスがいる日常を受けいれ始めている。
あんなにも嫌だったのに。
今では特に何も感じない。
慣れとは恐ろしいな。
「入試の後、なぜ不機嫌だったの?」
それは突然の問いかけだった。
「あぁ、少し気に食わん奴がいた。それだけだ」
「そう。じゃあなぜそれを私にぶつけなかったの? 馬車ではなく私にぶつけて欲しかったわ」
「…………」
そうだ。
コイツはこういう奴だった。
だが……やはりあまり不快感を抱かない。
本当に慣れとは恐ろしい。
「そうだな。──次はお前にぶつけるさ。覚悟しておけ」
だから、ほんの軽い気持ちでこんなことを言ってしまうんだ。
「そ、そう……それは楽しみだわ……ハァハァ」
頬を紅色させ、息が荒くなる。
そして悶えるように体をくねらせる。
相変わらず気色が悪い。
けどまぁ、偶にはいいだろう。
そんなことを話してるうちに馬車が止まる。
窓の外に映るアスラン魔法学園。
ここからだ。
ここから全てが始まる。
「足元にお気をつけ下さい」
馬車をおり、続いてアリスがおりる。
そして、聳え立つその大きく荘厳な門と再び対面した。
「ルーク様」
「なんだアルフレッド」
「王国騎士団の方に私から話を通しております。もし剣の相手をお探しならばどうぞお使い下さい」
「クク、相変わらず気が利くなァ。次お前と剣を交えるとき、俺は今より強くなっている。期待していろ」
「楽しみでございます。──それと、こちらをお受け取り下さい」
「ん、なんだ?」
アルフレッドさんから手渡されたそれは、鞘に収まった一振の短剣だった。派手な装飾はないが、その手触りと重厚感からとても精巧なものだとわかる。
抜いてみた。──本物だ。
「私からの御入学祝い、そして皆伝の証としてお受け取り下さい」
「クク、受け取っておこう」
俺はその短剣を懐にしまった。
アルフレッドさん、本当にありがとう。
ここまでこれたのは貴方のおかげだ。
「それじゃあな。父上と母上によろしく頼む」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、ルーク様」
「あぁ。行くぞアリス」
「えぇ、どこまでも一緒に行きましょう」
「そうだ──は?」
「早く行きましょう。遅れるといけないわ」
「……そうだな」
言いたいことはいろいろとあったが、俺は正門をくぐり学内へと足を踏み入れた。
そのまま校舎へと入る。
2階へと上がればすぐにその教室が見えた。
俺は扉に手をかけ、少しだけ間を置き、そしてゆっくりと開けた──。
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