07

 街の中には剣術を教えるための道場がある。これは魔物と戦うために剣と取り戦う手段を得るために作られたものだ。街の住人はこういった道場に通って戦い方を学ぶものも多い。


ガラガラ


 そんな木で作られた建物のドアを開けた男性は、道場の中をキョロキョロと見渡す。


「お。珍しいやつが来たもんだ」


「師匠(センセイ)」


「久しぶりだな」


 アーサーの剣術の先生は、彼の師匠である剣術道場の主を訪ねた。彼もまたこの道場で学び巣立っていった人間の一人だ。道場の木の懐かしい香りと、師匠の懐かしい声に少しだけ歳をとったことを実感する。


「どうしたダー坊、なんか困りごとか?」


「坊はよしてくださいよ師匠、僕はもう30歳ですよ……」


 幼いころからずっと道場で指導をしてもらっており、そのころから呼び方が変わらない。少しだけ恥ずかしさを感じながら、その呼び方は辞めて欲しいことを伝える。


「はは! おめぇはいつまでも坊だよ。悔しかったら『剣豪』にでもなりな」


「……」


 剣術の認定で、彼がとっている『達人』。それは世界の30%だと言われており、決して弱くはない。そして今、彼の師匠が言っている1つ上の『剣豪』は世界の20%の強者とされている。そこを目指せと。まるで何もかも見透かされたようなその会話に、相変わらず敵わないなと感じる。


「実は、本日はその件で伺いました」


「お?」


 指導者になり弟子の成長を見守る中で、自分自身も成長をしないといけないと感じた。だからこそ俺は。


「僕は、1年で『剣豪』の称号を手に入れようと思っています」


「ほう、どういった心境の変化だ?」


「……『達人』になった時、僕は師匠の指示を無視して基礎を疎かにしました。結局、技術は伸び悩み『剣豪』にはなれず年齢の衰えと共に剣豪になることを諦めていました」


「お前には『剣豪』になれるだけの才能があった。あれは俺の指導ミスだから気にするなといったはずだったが?」


「いえ、あの時期は調子に乗っていました。同年代には負けず、助長していたんだと思います」


「……そんなお前の心を変える出来事があったのか?」


「はい。実は今、貴族の子供に剣術を教えています」


「ああ、聞いているよ。領主の息子だったな。表には出てこないと聞いていたが……」


「はい。アーサーの剣術の才能はとても高く、恐らく順調に育てば『剣聖』にも手が届くかもしれません」


「なに! そこまでか……」


(彼の才能はとても高く、段々と俺では教えられることが少なくなってきた。だからこそ今がいい機会だ)


「だから僕はもう1度『剣豪』を目指してみようと思います」


「ふむ……だがお前もいい歳だ。別に称号に拘る必要はないんじゃないのか?」


「剣士なら……いえ男なら一度は憧れるものでしょう。今の自分より更に強い明日の自分に――。」


大人になって初めて気づいた。


男はいつまで経っても子供だということに。


だからそんな小さな見栄を張り続けるために努力する。


「なにより師匠が弟子より弱いのは恰好がつかないでしょ?」


「――ぷはっ! はははは! いい理由じゃねーか! 気に入ったよ、もう一度俺がお前を鍛えなおしてやるよ」


「ありがとうございます!」

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