第23話 休日デートはコスプレと共に②
着せ替え人形にされて数十分が経過した気がする。
様々な衣装を試着しては、撮影禁止の為にじっくりと見比べられる。
「詩衣……これ、まだ着替えるのか? いい加減恥ずかしくなってきたんだけど」
「あと一着です! ワンモアッ!」
「さっきも聞いた台詞だと思うんだけど?」
俺が甘かった。
ほんの数着で諦めてくれるなんて悠長に考えていた。
気に入った服を買ったら、すぐに着替えてデートの続きをしようと言い出されてので、恐らく拒否し続ければ永遠に続く服選びとなってしまっている。
詩衣は飽きもせず、この店の在庫も尽きる気配はない……ならば、俺に取れる選択肢は数少ない。
「じゃあ、この服がいいかな……俺は」
「本当ですか! 真琴くんが気に入ったなら、これにしましょう!」
消去法的に、一番地味なものを選んだ。
男性アイドルグループが着ていそうな白くて目立つスーツなんて選びたくないし、比較的地味な衣装を選んだつもりだ……比較的にね。
着る前は法服並みに布地が広くぶかぶかで、とても男性用の服には見えなかった。
が、実際に着てみるとDVしていそうな……地雷系の男っぽくなった。
「うん、やっぱりミステリアスで素敵ですね」
褒めてくれるのは素直に嬉しいけど、どうにも落ち着かないな。
それでも比較的に気にはならないし、魔法使いっぽいなんて考えれば悪くないはずだ。
「それにしても『FUMA』さんの作品を選ぶなんて、真琴くんもお目が高いですな~」
「そうだったのか……デザイナーまでは知らなかった。それなりに高いのか?」
「ぼちぼちじゃないですか。まあお値段なんて気にしていたら、ファッションは楽しめませんよ」
富豪みたいなことを仰る……まあ詩衣の家を考えれば、事実として富豪だった。
なんか遠慮するのも申し訳なさそうだし、言う通り価格は見ないようにした。
しかし、見ることが出来た他の衣装は百万円を超えるものもあり、有名なデザイナーの衣装だと考えただけで、足がすくみそうになった。
「初っ端からお気に入りが見つかるなんて、きっと真琴くんにも素質があるみたいですね」
一体、何の素質なんだろう……何はともあれ詩衣は楽しそうだったので、細かいことは考えないようにした。
地雷系の衣装を着て街中を歩くと、やはり周囲からの視線が気になってくる。
露出はないけど、なんだか恰好付けた感があって恥じらいを覚えてしまうのだ。
「あっ、もうこんな時間ですね」
「服選びで結構時間食ったみたいだな」
「ふぅむ、このまま帰ってから夕食を作ったら時間も遅くなってしまいし、何処か予約して外食しますか!」
「えっ、俺は詩衣の手料理も好きだから、多少遅くなっても気にしないよ」
だから、この羞恥から解放させてほしい。
許嫁になってから俺の食事は詩衣が作ってくれることが多くなっていたが、俺の方から作ってほしいと頼むのはこれが初めてだ。
どうにか催眠の効果を期待するが、詩衣の返答は少し遅かった。
「そっ、その……真琴くんの気持ちはとても嬉しいです。でも――」
「でも?」
何故か彼女は頬を赤らめ、言いたい事があるのに言いにくそうな顔をする。
なんだか告白されるみたいだ。
「折角のデートなんですから最後まで楽しみたいじゃないですか? 真琴くんは違いますか?」
無垢な瞳を向けられ、違うなんて言葉は封じられる。
「いや、俺もそうしたいって思っていたよ。ただ歩き疲れていないかなぁ……とか、そういう心配はある」
「お気遣いありがとうございます。ですが平気です。それにもし疲れたら、真琴くんを頼ることにしますから」
「お、おう。そうか……ならいいけどさ」
ぎこちなくも、精一杯できる笑顔を見せる。
なにも衣装が恥ずかしいだけで早く帰りたいと考えた訳じゃない。
まだ日こそ落ちていないものの、数時間デートをしただけで詩衣の金銭感覚が一般的でないことはわかった。
会計時に黒い輝きを放つカードを見てしまったしな。
外食に態々予約を入れる場所と訊いただけで、庶民的なお店でないことは凡そ察しが付いた。
「では、予約を入れてきますね」
「えっ? 予約って、電話とかじゃダメなのか?」
「そうですね……店はビルの中にあるのですが、受付に行かなければ予約できない会員制の特別なお店なんです」
うん、予想通りとんでもないお店を予約していようとしていたらしい。
これでも平凡な家庭の生まれ故、彼女とのデートはこういう点でドキドキすることが多いみたいだ。
しかし、そこは何となく俺の方が詩衣に合わせないといけない気がする。
早いところ、慣れる必要があるなと思った。
「なので、真琴くんはしばしここでお待ちください」
「ん? ただ予約を入れるだけなら俺も付いていくけど」
「ちょっとサプライズ的な意味も込めたいので……ほんの数分待っていてほしいなぁ」
「わかったよ。って行ってもここじゃ他の人の邪魔になりそうだし、散歩してくるよ」
「了解です! なら次の行先は隣のビルなのですが、窓の外に見える噴水に集合しましょう」
はしゃいだ子供のように詩衣を見送って、暫くは一人行動だ。
それはそれで落ち着かなくて、歩くスピードは段々を早くなっていった。
取り敢えず人の多いところにはいたくなかった為、まずは人目のない通りを探すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます