第56話「装備品」


 結局、日が落ちるまで洋服屋で時間を潰した後、俺と黒崎さんは慌てて装備屋に駆けこんでいた。


 場所はすすきのと札幌駅の間にある店が立ち並ぶ900mの『狸小路商店街』の2丁目の地下区画だった。


 普段からここは学生や会社員、その他大勢の観光客で賑わう商店街だと思っていたのだが意外と探索者用の店も立ち並んでいるのだ。


 特に2丁目の地下には装備品や武器の専門店がびっしりとつまっている。


 というわけで、俺達がまずやってきたのは総合的な装備品が売っている探索者装備店。


「三木谷さん、こんばんはっ」


「ん!?」


 階段を下りて、店内に入ると探索者が使う装備品、防具やポーション、そして武器がずらりと並んでいて、その中を進むと一人のおじさんが出てきた。


 日の丸の鉢巻きを頭捲いて、剣を拭いている気前のよさそうな堀の深いおじさん。


 そんな人に颯爽と声を掛ける黒崎さんに気づくや否や嬉しそうに近づいてきた。


「うぉ!!! クロサキちゃん~~、待ってたよぉ! もう来ないと思ったぜ!」


「すみません、色々と買い物してたら遅くなってしまって。でも三木谷さんだったら許してくれるかなって」


「たははは!!! おいおい、おじさんが嬉しくなっちゃうこと言ってよぉ~~。それに、男なんかひっかけてきたのか!? こりゃ浮気だな~~。ほら、彼、ブスッとしてるぞ?」


 普段よりも親し気に話す黒崎さんを見つめているとどうやらバレていたようで、おじさんは俺の方を指さして笑う。


 それに驚いて振り返る黒崎さんの表情と言えば慌てていたが、別に俺はブスッとなんてしてない。


 なんだよ、ブスって!

 俺がブスだって言いたいのかじいさんよぉ!


「——別に嫉妬してないですけど」


「え、え……その、私変なことしてたかしらっ??」


「いや、別に黒崎さんは悪くないです……ていうか、おじさん。俺達付き合ってないので変なこと言わないでくださいよ!」


「あははははぁ!!!! そうかそうか! まだ途中ってわけだなぁ?」


 否定すると今度は腹を抱えて馬鹿にしてくる。いつもなら大して気に障らないのに、久々に馬鹿にされたからなのか今回は少しイラっとした。


「違いますよ。それに、あの、装備品を買いに来たんですからそっちの話をしてくださいよ」


「へいへい~~それじゃ、そこに座って待ってなよ」


 切り裂くように言うとつまらなさそうな顔をしておじさんはぶつくさと呟きながら、後ろのスタッフルームへと歩いて行った。

 

「ったく、今どきの若者は世間話も出来ないんかぁ~~」


「貶し話だろうが~~!」


「ぶははははは!!!!! いじりがいがあるのぉ~~!」


 どこの爺さんも一緒だが、ほんと、どうして俺の周りにいるじじいたちはこうもハイテンションな人ばっかりなのだろうか。

 





 やがて戻ってきて、風呂敷に入った装備品をずらりと大きなテーブルに広げた。


「んとな、こっちがクロサキちゃんの装備で、こっちがそこのブス男の装備品だな。ほれ、みてみぃ」


「おい、誰がブス男だ!」


「ぶはははっ‼‼‼ ブス男じゃろがい~~、なんか卑屈そうな顔してるしな? 服装だけお洒落でも中身が抜け切れてないっていうかな~~! だろ、そう思わんかクロサキちゃん?」


 渾身のツッコミも全く歯が立たず、腹を抱えながら俺への攻撃を強める。挙句の果てには隣で装備品を取ろうとしている黒崎さんに話を振った。


 まぁ、黒崎さんは俺の事をそんな風に言ったりはしない……



「——っ」


 

 ……こともなかった。

 なんか、後ろ向いてこっちに顔を向けてくれない。


 ていうか、肩がさっきから小刻みに揺れてないか?


「っふ」


「え、黒崎さん!?」


「ぶはははは!!! やっぱりそう思うよなぁ!?」


 店内に響く笑い声、黒崎さんもやがて振り向いたと思えば口元がややニヤついていた。


「あ、あの黒崎さん……笑ってませんよね!」

「ん、んん~~、わ、わらってなひっ……」


「ブス男、怒るのは男として情けないぞ~」


「誰がブス男だよ!!」


「っふふ」


 どうやら、思いっきり彼女は笑っていたらしい。

 普通に面白くて笑っているその顔にやや悲しくなりながらも、普段からあまり見せない笑顔が胸に刺さる。


 ふつうに笑う、それだけで凄い世界に足を踏み込んだものとしては、悲しくても犠牲になったと思えばいいかもしれない。


「も、もう……いいですよっ」


 ただ、やはり――ブスって言われるのは傷つくよ!





「——それで、こっちがポーションだな。一応回復が5つと状態異常用が2つって感じだな」


 というわけで、笑うに笑った二人が正気に戻ると渡された装備品の解説をし始めた。


 まずは黒崎さんが買っていた装備品一式。


 回復用のポーション5つ、状態異常用ポーション2つ。

 戦闘用ナイフ(新)1本に、腰に巻き付けるポーション用ポーチ。

 戦闘用の分厚いのタイツに、体の前後に取り付けるチタン合金プレート。


 の計11点。

 総額18万円だが、もちろん支払いはギルド。


 ただ、あまりにも高い金額に喉がなる。


 にしても、こう見ると軍隊のような装備品に見えてくる。


 ただきっとそれは、そう思う俺の方がおかしいとのことらしい。


 俺が普段から持ち歩いていたのはそれこそリュックサックと学ランと拳だけ。


 もっと万全な格好に行くのが迷宮区では普通とのことだ。


「んで、お前のはこっちだな」


 そう言って指さされた装備品一式。


 俺のは黒崎さんの物よりも2倍ほど大きい風呂敷に入っていた。


 おじさんが気前よく風呂敷を解くとガチャガチャと金属音を鳴らして飛び出した。


 入っていたのは——


 戦闘用ナイフ:10本

 ハンドガン:1丁、マガジン3つ

 回復用ポーション:5つ

 状態異常用ポーション:2つ

 戦闘服(岩柄):2着

 戦闘用ブーツ:2足

 4次元ポーチ:1つ


 の総額38万円の一式。


 正直、見た瞬間色々とあるツッコミどころある装備品に目を疑った。


「あ、え……?」


「ははははっ! あまりの高さにびっくりかな?」


 それはそうだ。

 破格すぎる額にも驚いたが正直目が行ったのはそこじゃなかった。


「ま、まぁ、それもそうですけど……どうしてナイフと銃が?」


 そう、武術家の職業で銃というのは少しよくわからない。


 ただ訊ねるも三木谷のおじさんも顔を歪ませる。


「うーん。それは俺も知らんねぇ~~。ただ、あの城ちゃんが言うんだから意味があると思うぞ?」


「え、ぇぇ……」


 何も知らない答えに思わず飛び出る感嘆符。

 黒崎さんの方を向くともちろん首を振られて、分からずじまいだった。


 結局、その日はそこでしまいになり追い出されて家に帰ることになり、家に着くとそうそう電話越しにこう告げられた。



「よし、買ったかぁ?? それじゃあ2人、いや3人に任務を与えるから明日学校終わったら直帰してねぇ~~!!」


 ギルド長からの電話。

 三人目、そして任務とは。


 色々とある疑問を抱えながら床につく俺であった。




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