第10話「Eランク迷宮区④ ※編集済み」


 それから、俺はEランク迷宮区の奥底へ次々に進んでいった。


 進めば進むほど大量に出てくる敵に交戦しては倒しを繰り返し、気がつけば時計の針は一周していた。


 さすがEランクと言ったところで、Fランクの時に戦っていたゴブリンとは魔物の強さが桁違いだったがやはりレベルが上がっているせいなのか、俺の個人的な身体能力が向上しているおかげで出会った魔物は全て倒すことができた。


 戦うたびに調子に乗るなと自分に言い聞かせてきたし、もちろん今もF級だということを忘れていた訳じゃないがこの1時間で感じ方が少し変わった。


 一つは、やっぱり“探索”は楽しいということだ。


 一人の探索者に助けられてから、俺は憧れたんだ。いろんな迷宮区情報誌を買ったり、配信で第一線で活躍する探索者の話を聞いたりして一人の夢を追う少年として歩んできた日があった。


 でも、最近は。

 自分のスキルが迷宮区では到底使えないものだと分かってからはただひたすらに我慢の日だった。


 現実を見ながら、それでも諦めきれなくて……でも無理で。


 その繰り返しだった。


 でも、今は違う。


 黒崎さんの言葉で変わった今の俺は人生で一番、楽しんでいる気がする。


「っ!!!!」


 目の前に現れたのはアックスホーンに乗っているホブゴブリンの群れ。2匹の組み合わせが5つ。


 手には木製の金棒を持っていて、俺の存在に気づいたのか睨みつけるように威嚇してくる。


 1対多の場合はとにかく、流れに乗ることだ。


 コツを掴めば倒せる。

 流れに乗り、相手のリズムを崩してよろけたところを確実に突けば綻びが瓦解に繋がる。


 これまでの1時間で学んできたことをフル活用出来るように俺は突進してくる5匹を躱しながらその合間を塗って背後に回った。


「んがぁ!!!!」


 遅れた一匹目掛けて、あとは殴打を繰り出す。

 その繰り返しでとにかく落ち着けば倒せるのだ。


「っ!!!!!」





「ふぅ……はぁ……っはぁ」


 そんな……初めて“探索”をしていく中で、俺の中の凝り固まっていた考え方はだんだんと崩れていった。


 今まで変に常識に囚われて怯えていた。


 上のランクには勝てないという常識、しかし、俺は今や常識を逸脱している。


 上のランクの迷宮区でコツを掴んで渡り合っているのだ。


 いや、たしかにEなんてまだまだ下位のランクであるのはその通りで、言われたら泣き寝入りすることしかできない。


 ただ、常識というものはいつもそういうことの積み重ねで変わっていくことだってある。


 確かにスキルのランクは圧倒的だ。

 レベルというのは同じランクの中での指標で、ランクの高さによってレベルアップでのステータスの上がり用も大きく変わる。


 例えば、上限が1000の各ステータスでF級スキルを持つ人間なら全て、大体0〜10までしか上がらない。Eなら10〜30、Dなら30〜50、Cなら50〜100、Bなら100〜500、Aなら500〜800、そしてSならそれ以上。


 と、こんな感じで推移していくのが一般的な話だ。


 しかし、今の俺は一般的ではない状況にいる。今までの話はレベルが100まで上がった時の話だ。


 俺のレベルは99,999。

 約1000倍だ。


 そこまでくるとステータスの上がり幅も変わってくる。



 スキルは確かに大事だ。

 FとEでは大きく違うし、それが何段階も違えばその壁はより絶対的なものになる。


 ただ、新たなスキルを何個か手に入れて少し思ったがスキルというのはあくまでも技の一種みたいなところがある。


 言うなれば絶対的な必殺技。

 繰り出されたら確実に急所をつかれる、そんな感じ。


 そこに穴があるのかもしれない。


 そこに、圧倒的なレベル差があれば覆すことができるかもしれないんだ。


 今回、Eランク迷宮区で通用した俺の攻撃力。


 通常のF級スキル持ちの探索者ならレベルが100になったとしてもステータスは10/1000までしか上がらない。


 ただ、今回の俺のようにひたすらレベリングをしていればその上限を突破して他のランクでしかたどり着けないステータスに上がるかもしれないんだ。


 歴史上、誰もなしえなかった下のランクが上のランクを凌駕するという偉業。


 もはや、現代では絵空事、幻想……なんて揶揄されるがここに俺が立っているということはそれが違うということを示している。


 昔、少し見た探索者黎明期時代の論文も間違えじゃなかったんだ。

 

【経験値にカンストという概念はない】


 もちろん、楽観視はしていない。


 だが俺は、これ以上落魄れることがない。

 全てを疑いの目で見なくちゃいけない俺からしていえば楽観視はできるわけもない。


 ただ、急に芽生えた一塁の希望が俺の中の何かを激らせていたのだ。


 ここから、ここから。


 ここまできたなら全力でやって、俺をバカにしてきたやつら全員に「ざまぁ」って言ってやる。


 まずは体の身のこなしと、上がった身体能力の使い方だ。

 闇雲に振るっても意味はない。迷宮区ダンジョンは未知数だ。調子に乗らず、とにかく今は技を磨いていこう。


 俺なりの最適解でいつかSランクの迷宮区ダンジョンも突破してやるさ。


「って……でももう19時か。ひとまず、今日は帰るとするか」



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 新キャラステータス


〇ホブゴブリン(E)

・ステータス

 攻撃力:100/1000

 防御力:50/1000

 魔法力:30/1000

 魔法抵抗力:60/1000

 敏捷力:105/1000

 精神力:67/1000




【スキルリスト】

信託予見ゴッドハイジャック』『知覚向上パーセプションアップ』『魔物特性モンスターブック』『高速移動スピードスターLv.1』






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