1-4


 用意周到に長靴を持ち合わせているわけもない。


 ただ、買えそうな店がどこにあるか分かっていたので、メルは急いでそちらに向かった。


 はずむたびに鞄が揺れたが、今は考えないことにした。


 とにかく、濡らさないのが優先だ。


 ミリのカフェを通り過ぎるとき、彼女が太った旦那と一緒に、オープンテラスの椅子や机を片付けて、店の中に押し込んでいる光景を見た。


 これからやってくる大潮のためだ。


 旦那は試食し過ぎたのかもしれないな、とメルは少しおかしく思えた。


 大きな体で、息を切らせて、仕事に取り組んでいた。


 そしてメルは目的の店にたどり着いた。


 海水はじわじわと波打ちながら、すでにメルの足首まで沈めていたが、鞄までは届かない。


 自分は濡れたとしても、大切なものを守らなければならない、とメルは自覚していた。


 ただ、夕方に話した町長は、あの看板の半分は浸かってしまった、と言った。


 そうなれば鞄も水に浸かってしまう。


 早くどこかへ避難しなければ。




「こんばんは」


 メルは屋根から連なる、リボンの絵が浮き彫りにされた看板の店に入った。


 入るとき、木の板が水を店から遮断していたので、足を上げて乗り越えた。


 店の中はこじんまりとしていたが、所狭しといろいろなものが置かれていた。


 鞄、洋服、アクセサリー、ようするに雑貨屋だ。


 天井から吊るされたカラフルなシャンデリアが、商品をよりいっそう際立たせている。


 メルの目の端に、キラリと光るラメ入りの長靴が映った。


「あれ、メルじゃない。どうしたの、こんな時分」


 店の奥から、明るい声が飛んできた。


 彼女はリカといって、メルの友達。


 幼い頃は本土にいたが、就職してこの島の店に、住み込みで働いている。


 たまに手紙を届けると、リカの口から店長の愚痴を聞かされるのだ。


 しかし今、店を見渡しても、その店長はどこへ行ったのか、リカ以外に誰もいない様子だった。


「今日、あれの日でしょ。だから店長、もう店切り上げて、下にある商品、2階へ運べって。今、2階にいるわ。メルも手伝ってくれるの?」


「いや」


 メルは申しわけなさそうにリカに言った。あの長靴を指差して。


「おいくらですか?」


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