「月・森・時・夢・雨」~5つの物語の詰め合わせ~
リエミ
月のライン
1章
1-1
フェリーに乗って30分、本土から16キロと、さほど離れていないその島は、観光地として人気があった。
島、といっても南の楽園ではなくて、船が上陸する港には、たしょう砂浜がある程度で、島を支える地面には、そのほとんどに硬い石畳が敷き詰められていた。
上に建つのは、中世の面影を残した建物。
太い木枠が入り交じり、みな同じような朱色の屋根に、白い壁。
花を飾った出窓に揺れる、レースのカーテン。
ドアには飾り窓がつき、そのすぐそばに、小さなポストが立っていた。
今日もまた、手紙を差し込む音がする。
花から花へ、飛び回る蝶のように、家々を回っては、手紙を投函する郵便屋。
この町の人と心を繋ぐ、大切なライフライン。
23歳の彼には、メルという名前があった。
けれども島の住民たちは、手紙の運び屋である彼のことを、メールボーイと呼んでいる。
もう何年も前から顔見知りなのにかかわらず、メルという本当の名前を知らない。
ごく親しいメルの友達をのぞいては。
友達はメルが本土から、1日100通ほどの手紙を、フェリーに乗って運んでくることを知っている。
また、人口1500人あまりのこの島を、徒歩で駆け巡っていることも知っている。
もし島をまっすぐ横断したとしても、1時間とかからないのだ。
通い慣れた彼の足には、ちょうどよいジョギングコースのようなものだ。
小さな島には昔から、ちゃんとした病院や警察署、そして郵便局が1つもなかった。
メルが勤める本土の局で、今も変わらず、島への配達、そして島にある、たった1つのポストに出された、その手紙の収集を行っていた。
今のところ、島はメルの担当だが、その先代も、さらにその先代の担当者も、島のみんなからメールボーイと名付けられていたらしい。
その名残りで、メルも、メールボーイと呼ばれることに誇りを持って、仕事をしている。
ただ、この島のポストから集める手紙はほとんど、この島の風景を描いた絵葉書か、写真のついたポストカードが主だった。
本土から持ってきた、島民に配る手紙は封筒に入った手紙だったが、島の中央、町役場に設置された大きなポストからは、封に入っていない手紙を持ち帰る。
やはり、観光客が旅の記念に、家族や友人に贈るものだろう。
島の住民はあまり手紙を出さないからかもしれない、この島に郵便局がなかったのは。
メルは自分なりに、そんなことを考えていた。
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