第35話 お揃いのカチューシャ

 ゲートを潜ると、早速マスコットキャラクターのワンダーくんが小さい子供たちに風船を配ってるのが見えた。

 他にも、お土産物店やポップコーン販売の屋台、レストランなどが並んでいて、大阪にある某テーマパークを彷彿とさせた。


「わぁ! 結翔くんはここ初めてだったっけ?」

「小さい頃に来たことがあるはずです。……多分」


 覚えがあるようなないような。

 ワンダーくんは見たことあるし、小さいときに来たとは思うんだけど、テレビの紹介とかで見たのを来たと勘違いしているかもしれないし。

 真上をジェットコースターが通過していく光景に先輩が目を輝かせ、そして腕を引いて走り出した。


「早く早く! 行こう!」

「おっと。待ってくださいよ先輩!」


 最初に連れて行かれたのは……ショップ?

 先輩は、ワンダーくんのお友だち的立ち位置の猫耳キャラとお揃いの猫耳カチューシャを二つ手にして戻ってきた。

 えっとまさか……着けるつもりか?


「こういうの着けてる人羨ましいなって思ってて。結翔くんさえよければその……ダメ、かな?」


 んんっ! 可愛い!

 拒否するという選択肢など一瞬で吹き飛び、カチューシャを受け取ってレジへと持っていく。

 あ、なんとお金は先輩が出してくれました。嬉しい。

 二人でカチューシャを着けて歩くというまるで恋人みたいなシチュエーション。

 先輩はかなり美人な人だから、周囲の人たちの視線も集めてしまう。カップルで来ていて彼氏さんが先輩に見惚れて彼女さんに怒られているのも見えてしまったけど、そのお二人には是非とも関係が悪化しないようにと願うばかりだ。

 先輩について行き、たどり着いたのは水上アトラクションがある場所だった。

 船でコースを一周回る間にワニやらアナコンダやらいろんな生き物が襲ってきて、爆発オチまであるという何でもあり感が半端ないと噂のものだ。

 アメリカのサメ映画を参考に日本で作られた映画の世界観を再現しているらしいけど、実際にその映画は見てないから知らないが案外面白くて結構ヒットしたらしい。解せぬ。

 映画の製作会社が、このワンダーランドを運営する会社の子会社ということでアトラクションが作られているが、果たしてどんなものなのやら。

 アトラクション施設の前には、アナコンダに巻き付かれているワニのモニュメントがあって、写真撮影はここで、ということだろう。


「どうです? 一枚撮っておきます?」

「あ、いいね!」

「――では! 私が記念に一枚!」


 女の子の声が聞こえて、そちらを向くと、そこには怪しい変装をしているけど一発で先輩の妹さんだって分かる子が笑顔で立っていた。


「綾香、何してるの?」

「私は綾香ではありません。写真撮影をする人です」


 先輩の問いかけにあくまで他人を装った返事が返される。

 よく分からないけど、そういうことにしておこう。

 先輩がスマホを彼女に渡し、二人並んで記念撮影をする。

 映画のポスターと同じ構図で撮影できるようにモニュメントは作られているらしく、主人公が彼女をワニたちから守るような構図が人気なんだとか。

 先輩の提案でその構図をしてみるわけなんだけど……


「……あるぅえ~?」


 なぜか、俺が先輩に守られている構図で撮影した。

 でも、なんというか、頼りがいのある先輩も格好いい。


「撮れたよお姉ちゃん! あ! 美愛さん」

「ありがと綾香」

「私は綾香ではないです。では、アトラクション楽しんでね!」


 彼女、もう将来ここで就職したらいいと思う。

 先輩にスマホを返し、颯爽と去っていく妹さんを見ながらそんなことを思う。

 記念撮影も終わり、アトラクションに乗るために列へと並んだ。


「結翔くんはこの映画見たことあるの?」

「いえ、ないですね。先輩はあるんですか?」

「これの続編はテレビでね。それで、一作目はネット配信で見たよ」


 続編とかあるんだこの映画……。


「そうなんですね。面白かったですか?」

「面白かったよ、一作目は。続編はクソだったね」


 先輩のお口からクソという単語が出てきて危うく噴きそうになってしまった。

 これも先輩が吐く毒……かな? ずいぶんと辛辣だ。


「これはちゃんと一作目の世界観らしいから面白いと思うよ。続編なんてワニとアナコンダの戦いに途中からサイボーグメガロドンと空飛ぶクジラが出てきて意味が分からなかったもん」


 それをアトラクションで再現するのは無理だと思うけど、話を聞く限りあまりのクソ映画っぷりに逆に興味が出てきてしまった。

 今度、レンタルビデオショップでも覗いてみよう。

 運がよかったのか、日曜だというのに大して並ばずに順番が巡ってきた。

 あまりの早さに実は一作目もクソで、このアトラクションも人気がないのではと疑っていたけど、俺たちの後ろにはながーい列ができあがっているからそうでもないっぽい。

 係員のお兄さんに誘導されて船に乗り込む。一度に二十人近くが乗ったら出航だ。

 アトラクションが始まり、キャストのお姉さんとナレーションの世界観説明を聞きながら船は進んでいく。

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