第21話 新年のお客さん
正月が明けて、世間ではもう節分の用意だとか気の早いことを言っている。おせちを食べたんだから恵方巻のことを考えるのはもう少し後でもいいでしょうに。俺はおせち食べてないけど。
地元に帰省していた人たちもそろそろ帰ってくる時期でもある。そして、実はお土産のお裾分けなんかを楽しみにしているわけだが。
「まぁ、帰ってくるなら今日だし、明日辺りからかな」
我ながらなんとも図々しいことだ。
ちなみに、今日は一月の四日。三が日を地元で過ごし、今日戻ってくるというのが一般的だろう。
暇ではあるが、家でゆっくりとごろごろすることにする。白田先輩を遊びに誘おうとも思ったけど、さすがに家族との時間を邪魔するわけにはいかないからね。
てなわけで、ベッドの上でタブレット持ってお菓子とジュース、そしてお昼時になるとご飯が食べれるように小さな机を持ってきて給湯器とカップ麺という無敵の要塞を建築した。今日はお風呂とトイレ以外はぐーたらしよう。
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と、思っていたけど再生ボタンを押した瞬間に家の呼び鈴が鳴った。
「……荷物、頼んでたっけ?」
お酒を飲んで酔っぱらい、加えて深夜テンションでよく分からない物を注文しているときがあるからちょっと恐ろしい。この間なんて何をとち狂ったのかローションとか買ってたことだし。
だから、また訳の分からない物でもいつの間にか買ってしまっていたかと考えるが、それよりも先に応答する。配達員さんだったらさすがに申し訳ない。
軽く上に一枚羽織り、返事をしてドアを開けた。
すると、そこにいたのは……。
「あ、結翔くん。あけましておめでとう」
「瀬利奈? どうしたんだよ」
紙袋を持って瀬利奈が立っていた。
その袋を差し出してきたから、とりあえず受け取る。
「これ、お土産持ってきたの。……上がってもいい?」
「ああ。寒いし、ほら」
「お邪魔します」
瀬利奈を家に上げ、素早く片付けをしてから紅茶を淹れる。
静かに座った瀬利奈は、軽く部屋を見渡して小さく微笑んだ。
「懐かしい気がする。よくこうして遊びに来てた」
「……まだ、二ヶ月も経ってないぞ」
「そうだね。まだそれくらいしか経ってなかった」
少しの間無言の時間が続く。
さすがに気まずくなって何か話そうとしたら、その前に瀬利奈が紙袋から買ってきてくれたお土産を取りだした。
箱物が二つも出てきてちょっと驚いた。それもサイズも大きめの物だったから、無理したんじゃないかと心配になってくる。
「なまはげ饅頭ときりたんぽ。結翔くんって甘い物好きだったよね?」
「ああ。和菓子とか安かったら買ってるくらいだし」
「だよね。で、一人暮らしだしきりたんぽならご飯になるかなって思って迷っちゃって……それでどっちも買ってきちゃった」
「そっか。ありがと」
さすがというか、瀬利奈は俺のことを分かっている。
確かに饅頭みたいな甘い物は好きだ。お土産といえばこういうお菓子を期待していた自分がいる。
けど、自炊するのが面倒だな、出前頼むのもお金がかかるな、と思う日も週に何回かある。そのためにカップ麺やらインスタント食品やら備蓄しているわけだけど、きりたんぽみたいにしっかりとお腹に溜まるものは俺のような生活をしている人には助かることだろう。
ありがたくもらったきりたんぽを保存食を片付けている棚に仕舞い、饅頭はパンの隣に置く。
瀬利奈は紅茶を一口飲むと、コップを置いて立ち上がった。
「あれ、もう帰るの?」
「帰るなら鞄も一緒に持つよ。……それとも、もう帰った方がよかったかな?」
「いやいや違う! 早いなって思ったからさ」
「そっか。お昼も近いし、台所を借りたいって思って」
「もしかしてお昼ご飯作ってくれる感じ?」
「うん。いい、かな?」
「ありがたいけど……今、マジで何もないぞ」
今苦笑いしていると自覚しながら、冷蔵庫を開けて中を見せてやる。
まぁなんということでしょう。冷蔵庫の中には麦茶とマヨネーズ、ケチャップ、お砂糖が入っていました。これではお腹が膨れません。
続きまして冷凍庫を開けますと、こちらには保冷剤とバニラアイスのカップが一つだけ入っていました。
野菜室は言うまでもありません。使いかけのカットキャベツがほんの少し残っていました。
お正月は外に出ていないから仕方ないこと。俺だって今日の夕方にはちゃんと買い物に行く予定だったから!
この有様にはさすがの瀬利奈も唖然としていた。
そして、ふふっ、と笑うと、優しく俺の方に手を置く。
「今からお買い物に行こうか。お昼、どうせあれで済ませるつもりだったんでしょ?」
半開きになっていた寝室のドアの向こうに置いてある机の上の、だらだらセットを指さされては何も言えない。あれでお昼を済ませるつもりでした。
半笑いで返すしかなく、コートを持ってきて瀬利奈と一緒に近所のスーパーに出かけることにする。
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