第45話 神様

 中華屋で昼食を済ませた3人は、そこから車で10分ほどのところに位置している霊園に到着した。


「ここに来るのも久々だな」

「転勤続きで今年やっと地元に戻れたもんね〜」

「今まで来れなかった分、ご先祖様のお墓を綺麗にしないとな」

「そうね〜」

「そういえば、拓真はここのこと覚えてるか?」

「全く」

「だよな(笑) 小学校に入学する前の話だもんな」

「懐かしいわね〜」

「おっ、見えたぞ」


 ご先祖様のお墓の前に着いた3人は、墓石に水を掛けたり周りのゴミを拾ったりして、数年分の気持ちを込めて掃除をした。


「こんなもんかな」

「うん、さっきよりだいぶ綺麗になったよ」

「じゃあ、お祈りして帰りましょうか〜」


 *


 車に戻った3人は、そのまま帰るかどこかに寄るか相談していた。


「せっかくだからどこかに寄ってから帰るか?」

「うーん、今日はゆっくりしたいからな〜。拓真はどう?」

「コンビニとかでいいんじゃない?」

「コンビニか……他はないのか?」

「特に」

「私も大丈夫」

「じゃあ、コンビニでいいか」


 次の目的地はコンビニに決定した。



 ——十数分後。


《目的地に到着しました》


「着いたぞー」

「結構遠かったわね〜」

「高速に入る直前のほうがいいかと思ってな」

「あっ、確かにそうね〜」

「じゃあ俺は車で待ってるから」

「はーい」


 冬馬を車に残し、拓真と由麻の2人はコンビニに入った。


「栃木のコンビニも埼玉のと変わらないね」

「そうりゃそうよ、全国チェーンなんだから」

「それもそうか」


 2人は数分間コンビニ内を見て回り、飲み物やお菓子などをいくつかカゴに入れてレジに並んだ。

 前にいた数人がお会計を済ませ、あと1人となったところで問題が発生することとなる。


「すまんけど、これ返品してくれんかぁ〜」

「どうしましたか?」

「どうしたもこうしたもねぇべ! 全然美味くねぇだろこれぇ!」

「申し訳ございません。しかし、一度開封されていますし、お客様のご都合では返品しかねます」

「あんだとぉー? お客様は神様だっぺよぉ〜!」

「すみません! でもできないものはできないです!」

「オンメェは話が分がらんのぉ!」


 2人の目の前で、50代ぐらいの男性客が店員に怒鳴り散らかしていた。

 それを見た拓真は、由麻が止めるよりも早くその男性客に声を掛けた。


「あのー、すみません」

「なんだオメェ! 関係ねぇやつぁすっごんどげぇ」

「そのジュースって、不味いんですか?」

「あぁん?」

「いや、僕も今買おうと思っていたので」

「とんでもなぐ不味いっぺぇ! うっちゃろうがと思ったげど、やっぱごの店で金けぇしてもらおうと思っでなぁ」

「そうなんですね。でもおじさんが言ってることってメチャクチャですよ?」

「あんだとぉ!? もっぺん言ってみろぉ!」

「ちょっと拓真!」

「不味いから返品しろって、この世のもの全てが自分に合わなきゃダメってことですよね? 何様なんですか?」

「おらぁ客だぁ! 客は神様だって知らんのげぇ?」

「それは客が思うことじゃなくて、お店側が思うことですよ」

「さっぎがら言わせておげば!!」

「こ、これ以上騒ぐと警察呼びますよ?!」

「チッ! こんな店二度と来るがぁ!」


 店員が電話を掛けるフリをしたことで、男性客は逃げるようにコンビニから出ていった。


「申し訳ございませんでした!」

「いえ、私たちは大丈夫です」

「最後のは良かったですね(笑)」

「いやー、上手くいって良かったよ。それにしても君、すごかったねー」

「この子、思ったことはすぐ言っちゃうから恐ろしくて(笑)」

「でも助けられましたよー。本当にありがとう!」

「いえ」


 買い物を済ませてコンビニを出た2人は、冬馬の待つ車へと戻った。


「やけに遅かったな」

「もう聞いてよ! 拓真が知らないおじさんと言い合いになって、本当怖かったんだからー」

「あのおっさんがおかしなこと言ってるからだよ」

「はっはっは! やるなー!」

「笑いごとじゃないわよ〜」

「すまん。でも拓真の言ってることが正しかったんだろ?」

「まぁそうだけど……」

「ならいいじゃないか。子どもに言われたらさすがに改心するだろ?」

「ああいう人は誰に言われたってそう簡単に変わらないよ」

辛辣しんらつだなー(笑)」

「もう早く帰りましょー」

「分かったから、そんな泣きそうな顔するなって!」

「だってー」

「でも拓真、次からはちゃんと母さんのこと考えて行動しろよ?」

「……うん。ごめん」

「よし、じゃあ帰るかー」


 *


 高速道路に入った後、由麻は疲れてすぐに寝てしまった。

 拓真はおじさんが不味いと言っていたジュースを気になって買っていたので、一口飲んでみた。


 ——ゴクッ。


「フンッ」


 あまりの不味さに、拓真は鼻で笑った。

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