第35話 UMA

 拓真が宿題を完遂した次の日、達也が朝早くに電話してきた。


「ふぁい」

「クマちゃん、宿題終わったか?」

「おー」

「さすがだな! じゃあ約束どおり遊ぼうぜー」

「後でなー」

「何言ってんだ。今からだよ、今から!」

「えー、今から? 眠い……」

「今何時だと思ってんだよ」

「まだ8時でしょ」

「もう8時だろ」

「もうって……何時に起きたの?」

「6時」

「はや」

「夏休みを1ミリも無駄にしたくないからな」

「・・・・・・」

「おーい、聞いてるかー」

「悪い、寝てた。昨日の夜ゲームやりすぎたんだよ」

「宿題の反動?」

「いや、ストーリーが佳境に入って止まらなかった」

「ふーん。じゃあ何時からだったらいい?」

「んー、10時とか」

「オッケー。じゃあ10時になったらまた連絡するわ」

「ほい」


 達也とのやり取りが終わった後、拓真は9時半まで二度寝した。


「やべ、電話10時だった。支度しなきゃ」


 拓真は洗面所で歯を磨いて顔を洗った。


「あれ、何して遊ぶんだろ……」


 ボソボソ言いながら部屋に戻り、パジャマを脱ぐ。

 そして着替えている最中に達也から電話が掛かってきた。


「はい」

「準備できてるかー?」

「あー、大丈夫。てか今日何すんの?」

「あ、決めてないわ」

「おいおい……」

「じゃあさ、俺の家オレんちでゲームやらない?」

「こんな天気いいのに?」

「ダメか?」

「いや最高」

「クマちゃんならそう言うと思ったわw」

「じゃあ今から行くわ」

「着いたら電話して」

「おけ」


 達也の家は拓真の家から自転車で10分ほど離れたところに位置している。

 外の気温は30度を超えていて、肌が焼けるような感覚になる。


「あっちーな。マジでベーコンの気分だわ」


 拓真は家を出てから約10分で達也の家に到着した。


「着いたぞー」

「今開ける」


 ——ガチャ。


「こんな暑いのによく来たな」

「お前が誘ったんだろ(笑)」

「そうでした(笑)」

「お邪魔します」

「今日は誰もいないから叫べるぞ」

「叫ばないよ」


 *


「うわっ! やったなクマちゃん!」

「これで終わりだ! くらえ!!」


 2人は叫びながら格闘ゲームをやっている。

 実力は五分と五分。

 一方的にならないので飽きるまで終わらない。


 ——30分後。


「ちょっとトイレ行ってくるわ」


 達也がトイレに行ったので拓真は座りながら部屋の中を見渡した。


「ん、なんだあれ」


 本棚に小さな謎の生命体のフィギュアが飾ってあった。


「お待たー」

「ねぇ、あの謎の生き物何?」

「え、どれ?」

「本棚のとこ」

「うわっ、やべ!」

「え?」

「忘れてくれ!」


 達也は慌ててフィギュアを隠した。


「え、もしかして輸入禁止動物の剥製はくせいとか?」

「んなわけあるかー!」

「じゃあなんだったの?」

「ユ、UMAユーマのフィギュアだよ」

「なんだフィギュアか」

「え、何その反応」

「いや慌てて隠すもんだからヤバいやつなのかと思って」

「俺をなんだと思ってんだw」

「てか隠す必要ある?」

「いや、まぁ……」


 ハッキリしない達也を見て拓真は不思議そうな顔をしている。


「誰にも言うなよ?」

「うん」

「前に海誠かいせいがUFO見たって言った時に宇宙人の話したの覚えてるか?」

「あー、あったな」

「その時に俺がさ、宇宙人はいないだろって言ったのも覚えてる?」

「あー、うん」

「それが理由だよ」

「え?」

「宇宙人信じてないやつがUMAのフィギュア飾ってるなんて変だろ? だからだよ」

「あー、そういうことね」

「別にUMAも信じてるわけじゃないぞ? 単純に見た目が面白いから趣味で集めてるだけ」

「ふーん」

「やっぱ変だよな……」


 達也が恥ずかしさと悲しさを合わせたような複雑な顔をしていたのを見て、拓真が言った。


「別に変じゃないよ」

「え?」

「てかなんとも思わない」

「……え!?」

「誰が何を好きになるかなんてその人の勝手だし」

「まぁそうだけど……」

「それより早くゲームの続きやろうぜ」

「そ、そうだな!」


 達也は気にしていたのが馬鹿だったと思い、格闘家に戻った。


 *


 2人は夕方になるまで色々なゲームをして遊んだ。


「もうこんな時間か。そろそろ帰るわ」

「うわ本当だ。下まで送るよ」

「いやー、ゲームの数が多くて楽しかったわ」

「そりゃ良かった」

「じゃあまた今度な」

「おう! 気をつけろよー」


 拓真は右手を挙げて帰っていった。


「よし、戻すか」


 達也は笑みを浮かべながら、数十個ある未確認動物のフィギュアを元の位置に戻した。

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