第11話 過去と未来

 ある日の休み時間、教室の窓辺で女子2人が「過去と未来のどっちに行きたいか」について話していた。


 女子2人というのは、以前「見た目と中身どっちが一番大事か」の話をしていた6人の内の2人で、阿部あべ結愛ゆあ佐野さの莉沙りさだ。2人は背丈がほぼ同じで、髪型も同じミディアムボブ。服の好みまで同じなので、後ろからだと双子にしか見えない。ただ顔と性格は全然似ておらず、そのギャップが面白いとよく言われている。

 ちなみに結愛は丸顔で大きな垂れ目、莉沙はシャープな顔立ちで切れ長のつり目だ。似ているわけではないが、形容するならタヌキとキツネといったところだろう。


 以前いた4人は先生の手伝いをするため職員室に行っており、拓真は鉛筆で汚れた手を廊下にある水道で洗っている。


 話題を持ちかけたのは莉沙だった。


「ねぇ結愛、過去と未来行けるならどっちがいい?」

「未来かなー」

「私も!」

「100年後の猫ちゃんがどうなってるか見てみたい」

「ピンポイントね(笑) でも100年くらいで変わる?」

武装ぶそうしてるかも」

「何と戦うのよw」

「それかチップを埋め込まれて喋れるようになってるかも!」

「いつも思うけど発想がすごい」

「だろ? てか莉沙はどうなの?」

「んー、私も100年後に行ってみたいんだけど、私たちがどうなってるのか見てみたい」

「分かるー」

「まぁ2人とも生きてるか分からないけど」

「でも今より技術も進歩してるだろうから生きてるかも!」

「そうね。でもめっちゃヨボヨボになってるよ」

「若さを保つ薬を飲もう!」

「私たちが若い間に開発されなきゃ保つ若さがないけどね」

「それなーwww」


 拓真は手を洗い終わり教室に戻ってきた。2人はそれに気付き、莉沙が声を掛けて同じ質問をした。


「ねぇ間瀬君、過去と未来行けるならどっちがいい?」

「いきなりだな。まぁ、過去かな」

「なんでー?」

「教科書にってる歴史が本当なのか見てみたい」

「それも面白そうね」

「でも未来がどうなってるか知りたくない?」

「いや別に。何が起こるか分からないほうがRPGっぽくていい」

「ゲームかい! まぁ分からなくもないけど」

「でも少しくらいは未来見たいと思わない?」

「うーん……」


 拓真はあごに手を添えて少し止まり、何か思いついたのか窓の外を見ながら話し始めた。


「でも人間はいつでも少し先の未来は見れると思う」

「「どういうこと?」」

「例えば東京から飛行機で1日かかる国に行って、到着後すぐに1日かけて東京に戻ってきたら、2日間東京にいなかったことになるだろ?」

「そうね」

「確かにー」

「その2日間で東京の情報を得なかったら、2日後の東京に飛んだって感じしない?」

「まぁするけど、なんか言いすぎな気もする」

「タイムマシンではないもんねー」

「飛行機とタイムマシンの違いは、自分が外と同じ時間を過ごすかどうかであって、外で流れる時間は変わらないだろ」

「「むずい〜」」

「飛行機の2日間は自分も2日間過ごしてるでしょ?」

「うん」

「タイムマシンは一瞬で2日後に行くから自分は2日間過ごしてない」

「そうね」

「自分が過ごす時間は違うけど、東京が2日経ってるってのは同じだろ」

「確かに!」

「なら飛行機でも少し先の未来を見れるよね」

「……いつもそんなこと考えてるの?」

「いや聞かれたから考えただけだよ」

「ふーん。前も思ったけど、間瀬君ってなんか変わってるよね」

「そう?」

「うん」


 莉沙が拓真のことを「やっぱり変な人」と感じていた時、結愛が何かひらめいたらしく、笑顔で話し始めた。


「じゃあ、ぶんなぐられて1週間気絶してた人は1週間後の未来に行ってるね!」

「どんな発想してんだ」

「結愛はいつもこうなのよ」

「ふーん」(変なやつだな)

「なにその反応!」

「いやなんでもない」

「絶対変なやつって思ってるでしょー」

「思ってないって!」


 結愛に迫られた拓真は逃げるように席に戻った。

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