第21話 初めての挨拶①

 今日は澪桜の実家へ挨拶に行く日。

 悠は午前7時には起きて支度や簡単な家事をしていた。

 そうでもしないと緊張で落ち着かないから。


「澪桜の家族はどんな人達なんだろう。」


 妹もいると聞いているし、きっと澪桜に似て可愛いのだろう。

 両親だって美男美女で、会社を経営している位だ。

 きっと厳格な感じなのだろうと勝手な想像をしていた。

 

 観葉植物に水やりをしているところで澪桜が起きてきた。


「悠くんおはようございます。日曜日なのに早いですね?」


 可愛くあくびをしながら悠に抱きつく。


「少しだけ朝の充電をさせて下さい〜」


 いつも通りノーブラの澪桜はお構いなしにそのお胸を押し付けてくる。

 胸熱…。

 そして寝起きの澪桜はこれまた可愛い。

 普段のしっかりしたところしか知らない人がこの状態の澪桜を見たらギャップにやられることは間違いないだろう。


「おはよう澪桜。寝起きはいつもに増して甘えん坊だな?」

「いいんです。悠くんの前だけですから〜」


 澪桜はふにゃりと笑いながら悠に引っ付いていた。

 しばらくすると満足したのか澪桜は悠から離れて朝食の準備を始める。

 悠は離れ際少し寂しいと思いながらも言葉には出さない。


「そういえば、澪桜は妹がいるんだよね?」


 付き合ってすぐにお互いに家族の話などをした時、お互いに妹がいることは話題になったので知っていた。


「はい。2つ下の妹がいますよ。仕事は実家の会社を手伝っていますので、今日はお休みですし家にいるはずです。」

「妹さんにも俺のこと話してるんだっけ?」

「もちろんです♪とても素敵な彼氏が出来たと話していますので。いつも羨ましいがっていますよ?」


 悠の知らぬ間にまたハードルが上がっていた。


「羨ましがるということは妹さんは彼氏いないの?」

「どうやら良い人がいないみたいで。最近までは私もそうでしたが、両親はいつまでも独り身でいる妹のことを心配していますね。ただ私と違って誰にでもフレンドリーな感じなのでそのうち良い男性が出来ると思いますけど。」


 澪桜に似ているとしたら、男が放っておくはずがないし確かに彼女のいう通りなのだろう。

 もしかしたら理想が高いのかもしれないし。


「まぁ澪桜の妹なんだし、すぐに彼氏くらい出来るだろ。」

「ふふっ。まあ悠くんよりも素敵な男性は絶対に見つからないと思いますけど。」

「頼むから妹さんにそんなこと言わないようにな?」


 これ以上ハードルを高くされるとしんどいので。

 その後、朝食を終えた二人は出かける準備を始める。


「無難にスーツでいいかな?」

「もっとカジュアルでも良いと思いますが、悠くんのスーツ姿は最高にカッコいいので私は賛成です。」


 澪桜の中で俺は神格化されてるのかな?

 まぁ澪桜が言うなら間違いないのだろう。


「じゃあ他所行きの時のスーツにするか。」

「いつも仕事で来ているスーツとは違うのですか?」

「うん。子会社とか会社の外に行く時はいつもより良いスーツ着てくんだよね。個人的なこだわりというか。まあ身だしなみ大切だしな。」


 悠はクローゼットからいつと違うスーツを出して着替える。

 ピシっとスーツを着た悠は様になっている。

 そこには会社で敏腕を振るう一条主任の姿があった。

 澪桜は悠のそんな姿に目が♡になっていた。


「はうぅ〜。やっぱり悠くんかっこいいです…そんなにかっこよくて良いのですか?スーツ姿の悠くんもしゅき…♡」


 澪桜は、はぁはぁしながら悠を見つめていた。

 そんなやりとりをしているとあっという間に家を出る時間となっていた。

 二人は準備を済ませて、デートの時に買った手土産を持ってから車に乗る。

 少し車を走らせて大通りから住宅街への道に入ると、何度か見た大きな一戸建てが見えてきた。


「悠くん、車は空いている駐車場に停めて良いとのことでしたのでお願いします。」

「確認しといてくれたのね。ありがと。」


 立派な門のシャッターは開いてあり、車を停めると澪桜の案内で家の玄関まで向かう。

 庭は広く、良く手入れされていた。

 洋風というか、天使の置物や小さな噴水まである。

 やはりお金持ちなんだろうなどと悠は考えていた。


「やっぱ少し緊張するな。」

「悠くん。大丈夫です。私がついていますから。」


 澪桜はそう言うと悠の腕にそっと手を添えながら、インターホンを鳴らす。

 ピンポン♪

 インターホンの音が聞こえた後、すぐに玄関が開く。

 玄関から出てきたのは、見た目は30歳後半くらい?と澪桜とそっくりな女性だった。

 澪桜をセミロングにして髪を茶色にしたらこうなりそうなイメージ。

 背は澪桜よりも少し高く、160センチくらいだろうか。

 全体的に細めではあるが、胸の方は…うん。血は争えない。

 澪桜までは行かないまでもかなり大きな物をお持ちで…。


「ただいまお母さん。悠くんと一緒に帰りました。」

「あらあら〜。初めまして。澪桜の母の沙百合さゆりと申します。いつもこの子がお世話になっております。」

「初めまして。挨拶が遅くなり申し訳ございません。澪桜さんとお付き合いさせて頂いております一条悠と申します。いつも澪桜さんにはお世話になっています。今日はせっかくお休みの所、時間を取って頂きありがとうございます。」


 悠は丁寧にお辞儀をして澪桜の母に頭を下げる。


「まぁまぁ〜。ご丁寧にすみません。早く上がって下さいな。」


 沙百合は玄関を開けて中へ入るよう促す。


「お邪魔します。」


 悠は靴を揃えてスリッパを拝借。

 ここまでの動きに無駄なものは無く堂々としていた。


「澪桜ちゃん。いい男捕まえたわね?真面目そうだし丁寧でお顔もかっこいいじゃない。」

「うん…。とってもかっこいいんです。なのにたまに可愛くて…。でも頼りになって…。」


 澪桜は赤くなった頬に両手を当てながらもじもじしている。


「ふふっ。もう彼に夢中なのね♪」


 二人は何やら話している。

 澪桜のお母さんはとても人当たりが良く、温和で優しそうな感じで少し安心した。

 それにしても母親にしてはかなり若い。

 姉と言われても違和感がないくらいだった。


「リビングはこちらですのでどうぞ。」


 沙百合の案内でリビングに入ると、かなり広めなリビングにテーブルがあり、そこには中年の男性ともう一人女の子が座っていた。

 何やら夢中になって話し込んでいるようだ。


「ねえ、パパ!もうお姉ちゃんの彼氏さん来たよ!大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だよ。いや何を話せばいいだろう?やっぱり最初は威厳を見せる感じで…」

「パパに威厳なんて元々ないんだからすぐバレちゃうよ…?いつも通りに…」


 あの…全部聞こえてます…。

 二人はリビングに入ってきた悠と澪桜に気づいていないのか、打ち合わせをしているようだった。

 悠はいつ声をかければいいのか悩んでいると沙百合が声を発した。


「お父さん?美華?澪桜ちゃん帰ってきたわよ?」


 突然の声に驚くようにこちらを見る。


「お邪魔しています。はじめまして。私、澪桜さんとお付き合いさせて頂いてます一条悠と申します。本日はお時間を作って頂きありがとうございます。」


 悠は沙百合にしたときと同じように、洗練された動作でお辞儀をして頭を下げる。


「あ、ああ!初めまして。澪桜の父の正徳まさのりです!今日はわざわざ来てくれてありがとう!」


 澪桜パパは先ほどのやり取りが聴かれていたと思うと恥ずかしそうにしながらも悠に挨拶した。

 もう一人は妹さんだろう。

 なにやらこちらを見ながら口をぱくぱくさせながら固まっている。


「こちらは妹さんですね?初めまして。澪桜から話は聞いてます。可愛らしいお嬢さんで。」


 悠はニコッと妹さんに笑いかける。

 妹はやっと声を出す。


「は、初めましてっ!綾瀬美華あやせみかです。お姉ちゃんの妹やってます!彼氏は募集中ですっ。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。よろしくお願いします。彼氏募集中なんだ…」


 美華は、顔は雰囲気は澪桜に似ていたが父親似なのだろう。身長は澪桜よりも少し高いか。

 沙百合と澪桜の中間くらい。

 黒髪のショートヘアに、色白なのは澪桜と似ている。

 目はくりっと二重というよりは少し切長で整った形。

 可愛い系よりも綺麗系だろう。

 細めのスタイルに胸は平均くらいだろうか。

 そこは遺伝しないんかいっ!とつっこんではいけない。

 沙百合や澪桜と比べてはいけないのだ。


 美華はいきなり立ち上がると、澪桜を連れてリビングの奥の方にコソコソ移動する。

 

「み、美華?いきなりどうしたの??」

「えっ?お姉ちゃん?彼氏さんこんなイケメンなんて聞いてないんだけど…。お姉ちゃんの妄想フィルターじゃなかったの?」

「な、なによ妄想フィルターって?ずっと言ってたでしょ?悠くんはかっこいいって。」


 美華は羨ましい〜と黄色い声で盛り上がっていた。


「悠くん。騒がしい子ですまないね。改めていらっしゃい。娘が世話になっているようで。」

「いえいえ。とんでもないです。お世話になっているのは私の方ですので。後、これ。ご家族でどうぞ。もう一つの方は澪桜さんのお父さんにと日本酒をお待ちしました。お口に合うと良いのですが。」


 悠は澪桜ママに手土産を渡して、あらかじめ好きと聞いていた日本酒を取り出すと澪桜パパに手渡した。


「おお!これは良いやつじゃないか!とても嬉しいよ。ありがとう。早速今夜いただくとするよ。」


 悠は喜んでもらえてホッと胸を撫でる。

 

「立ち話は何ですから座って下さいな?」


 澪桜ママは悠を椅子に座るように言い、お茶の用意を始めた。

 その様子を見た澪桜はテーブルの方に戻ってきて、悠の隣に座る。

 澪桜は母や妹に悠を褒められたことが嬉しかったのかとても上機嫌に見える。


「澪桜。ご家族はみんなとても良い人だね。澪桜が素晴らしい人に育った理由が良く分かるよ。」

「そ、そうですか?ありがとうございます。妹は少しだけ騒がしい子ですが。悪い子では無いので許してあげて下さいね。」


 二人は笑顔で話し込んでいた。

 澪桜パパは悠のことをもっと知りたいと思ったのか色々と質問をしてくる。


「悠くん。今日はゆっくりしていってね。それで、普段はどんなお仕事をしているのかな?」

「ありがとうございます。T社という会社の監査部で仕事をしています。」

「ほ〜。凄いね!大企業じゃないか。しかも監査部なんて。エリートコースだ。」

「そんな大層な者じゃありませんので。恐縮です。」

「いやいや、29歳になる歳だよね?その歳で監査勤めるのは凄いことだよ。私も会社やってるから良く分かるんだよね。」


 澪桜パパからの色々な質問に答えていると澪桜ママと美華がお茶とお菓子を持ってくる。


「澪桜。こんな良い男性はなかなかいないよ?愛想尽かされないようにしないとな。」


 澪桜パパは笑いながら澪桜を見る。


「わ、分かってます!悠くんに嫌われないようにこれからも尽くしていくだけですからっ。」


 澪桜は不本意と言わんばかりに父に言う。


「悠くんは明日は早いのかな?」

「はい。明日は仕事なのであまり遅くならないうちにお暇させて頂く予定です。」

「それは残念だなぁ。せっかくもらった日本酒を一緒にやろうと思ったんだけど。」

「それなら金曜か土曜でしたら、正徳さんにお時間があれば喜んでお酌しますのでお誘い下さい。」


 澪桜パパは嬉しそうに話を聞いていた。


「そうだね!じゃあ早速今週の金曜日仕事が終わったらうちに来るといいよ。その日は泊まっていけばいいんだし。澪桜とうちに来なさい」


 お茶の用意を終わらせて椅子に座る澪桜ママは笑いながら正徳を見る。


「あら。お父さん。随分悠くんを気に入ったみたいですね?昨日は娘に言い寄った男の顔を見てやるとか言ってたのに。」


 澪桜ママはくすくすと笑いながら言った。


「お、おい!やめろよー。こんないい男見たら気も変わるさ。素直だし仕事も優秀。そんで謙虚だしな。娘の彼氏がこんな人で良かったよ。安心して任せられる。」


 どうやら、澪桜の両親からは良く見てもらっているようだ。

 本当に良かった。


「悠くん良かったですね。私の言った通りです。私も両親に悠くんを気にいって貰えて嬉しいです♪」

「ありがとう。澪桜の言う通りだったな。妹さんだけは何故かあまり話してくれないんだけどね?」

「ふふっ。美華は緊張しているようですよ?悠くんがかっこ良すぎて。」


 そんなことあるだろうか。

 美華は24歳にもなるし思春期でもあるまい。

 あれだけフレンドリーなら男性慣れしていないと言う訳でもないだろうし。

 悠は美華に話しかけてみる。


「あの、美華ちゃん。美華ちゃんは普段会社のお手伝いをしていると聞いたけど、どんなお仕事してるの?」

「美華ちゃん…。は、はいっ。普段は経理関係の仕事をしています。」

「経理かー。凄いね。俺数字は苦手な方だから経理やってる人尊敬するよ。」


 悠はその後も美華が緊張しないように和やかに話していく。

 美華もだいぶ慣れてきたのか、顔を見ながら話すようになっていた。

 その横で、澪桜は少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。


「ん?澪桜?どうしたの?何かご機嫌斜めのような…」

「別に何もありませんよ?別に…」


 澪桜はみんながいるからか何か言いたそうにしていたが言葉に出さないような感じだった。

 そんな様子を見ていた澪桜ママはにやにやしながら核心をつく。


「あら。澪桜ちゃんたら。美華に嫉妬しているのね?美華とばかり話して、しかも付けで呼ぶからやきもち妬いちゃったのかしら?」

「そ、そんなんじゃない…ですからっ!悠くんはちゃんと私だけを見てくれるので。そんな心配はしていないですっ。」


 悠はきっと澪桜の家族の前でなかったら彼女を抱きしめていただろう。

 可愛すぎる。

 これは、帰ったらしっかりフォローしなければいけないな。


「いやー。まさか澪桜が彼氏にこんなゾッコンになるとはね。初めて出来た彼氏が悠くんみたいな人で娘は幸せ者だな。」

「お、お父さんまで…。恥ずかしいのでやめて下さい…。」


 澪桜は両親の可愛がりにたじたじになっていた。


「お姉ちゃん、悠さんとはどこで知り合ったの?あたしも今後の参考にしたいし、教えてよ?」

「悠くんとは少しだけ仕事をしていたイタリアンレストランで出会ったの。悠くんはお客さんで来てくれて。それが初めての出会いよ。」

「へぇ〜。人生分からないものね!それでそれで?どっちから声を掛けたの!?」


 澪桜は美華からの質問攻めに恥ずかしそうにしながらも一つ一つ正直に答えていた。

 そのやりとりに両親も興味があるのか聞き入っては会話に参加していた。

  

 そんな感じで楽しく話をしているといつの間にか、時間お昼になっていた。

 

 

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