彼女は僕を主人公に

「ここに人が来るなんて珍しいわね。高校生?」


 二人で、手紙の余韻に浸りながら踏切を見つめると後ろから花を持った一人の女の人に話しかけられた。


「「はい」」

「あらそう、わたしもね、高校生の娘がいたんだけど事故でね。私や夫だけでも忘れないように花をまた変えようと思って」


 ……高校生、事故、まさか。


「光くん……この人……」

「知ってますよ。怜さんですよね」


 光くんはその人に向かって笑顔を向ける。


「あら、友達? あ、でも怜が事故にあったのは五年前だけど……年、離れてない?」


「私たち友達です! 年が離れても、距離が離れてても、私たちは怜ちゃんの友達なんです! これからもずっと!」


 訝しむ様子のその人に私がそう言うと目の前で花を持った女性は笑った。

 微笑ましい笑顔は怜ちゃんに似ている。彼女はお母さん似だったんだ。


「そう言ってくれると嬉しいわ。あの子、勉強ばかりしてたから暗かったけど、年の離れた友達がいたのね」


 その人は肩を揺らして本当に嬉しそうにふふふと笑う。


「はい。僕が五年早く生まれていたら、この踏切がなかったら、僕らは三人で、いやもっといっぱい出来た友達と今も笑ってたのかなって思います」


「あの怜が友達を作ってたなんてね……ねぇ? 怜は、生きてる時、なにかしてあげられたかしら?」


「怜さんはずっと生きてますよ。僕たちや、あなた、関わった人の心の中で」


 光くんは、きっと怜ちゃんに会わなければそんなかっこいいことを言わなかったと思う。


「彼女は、僕を主人公にしてくれました」


 そんな小説の主人公みたいな光くんは暖かく、感謝をするように笑ってそう言った。

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五年早く生まれたら、この踏切がなかったら、君に出会えたのだろうか。 安藤勇気 @Andou_to_Yuki

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