デートでやっちゃいけないこと

 俺はもらうなんていった覚えはない。だから間違ってもない、女の子と気分良くデートしてんだからここで頬に痣つけて戻れるか。


 そのパンチは運がよくしかちお入ったのかそいつはのけぞりその場に倒れこむ。それと同時に俺は怜のもとへ走ろうと思ったら俺のすぐそばにあいつはいた。


「ちょっと! なにやってんの!」


 そう大きな声で怜が言うもアドレナリンがドバドバ出ちゃってる俺は怜の手を握り走り出した。


「ちょっちょっと!?」


「逃げよう! やっぱダメだ人を殴るのは性に合わん!」

「逃げたら追いかけられるよ!」

「っざけんなてめえぶっとばす!」


 後ろから怒号とともに金髪とそのお付きのダボダボ軍団が走ってきた。


「女子の前で弱い姿見せられるかばーか! 嫌われちゃうだろうが! それに一発って言ったら良いっつっただろ!」


「そんな屁理屈で逃げてんじゃねえぞてめえっ!!」


 あんだけ息巻いたのにもかかわらず尻尾巻いて逃げる羽目になってしまった。必死に後ろを見ずエスカレーターを駆け下りとりあえず撒いてしまおうと必死でジグザグに逃げ回った。


 ただ自分のヒロイックな姿を客観的に浸る間もなく走り続けることは出ず息が切れ、金髪の声が聞こえなくなったところで裏に逃げ込んだ。


「はぁはぁ、死ぬ……本当に、酸欠で」


 怜も息を切らして膝に手を突く


「お前は、はぁもう死んでんだろ。はぁ」

「そうだった。でも運動苦手だから辛いや」


 はははと途切れに途切れに笑う怜はドラマのヒロインみたいだった。


「それで、なんで殴っちゃったの?」

「はぁ、彼氏がやられて帰るのは恥ずかしいだろう? それにあいつらには『窮鼠猫を噛む』って言葉を教えてやらなきゃな。ふぅなんとかうまく撒いた」


「そう……でもさあたしも今気づいたんだけど。前見てみ」

「誰を撒いたって?」


「あ」


 目の前にニヤついた汗だくの金髪がこちらを見ていた。


「てめぇ散々逃げ回りやがって……」


 金髪が胸ぐらを掴み俺に食ってかかる。もう完全に詰みの状態だった。


「あ、あはは、そ、そうですね。なら今度は『あなたが』一発でいいですよ」

「じゃあさっきの分も合わせて『俺が』二発だな。気をつけろよ? タコ!」


 腹と顔、クリティカルヒットだ。俺のライフはもうゼロよ。

 金髪は胸ぐらを掴んだ腕でこちらを押し倒し俺をボロ雑巾のように捨て去っていった。


「大丈夫!? うわあいつ容赦なさすぎ、きっと光なんて地味すぎて目をつけられたこともないどころか喧嘩すらしたことないだろうに」


 地味すぎてという言葉の三発目がうずくまった俺の背中にはいる。


「うっ! おい、地味すぎては余計だ」

「お、返す元気はあるんだね。よかったよかった」


「ふぅ。ま、これで続けられるな」

「裏だったら誰も見てないし、適当に幽霊っぽくおどかして追い返したのに」


 呆れた様子でうずくまる俺に怜は言葉をかけてくれた。


「ばかたれ、男子がデートでやっちゃいけないのは女の子置いて逃げること、女の子にものを押し付けること、あと土下座。この三つだ。 ドン引きされちまうだろ」


「……っへぇ」


 怜はきょとんとして階段にぺたりとお尻をつける。


「お店回ってる時も光は地味に優しくていつもどおりだなーって思ってたんだけど、きっちりそういうの考えてくれてたんだね」


 何かを特に別に特別に意識したわけじゃないが、そういうのって女の子にはわかるのか。 正直どういうことを考えていたのかは俺は頭では理解してなかったが心のどっかではわかってたんだろう。


「当たり前だろ。一応デートだしお前のためなんだから」

「うっ……言うねえ」


 怜の顔が引きつってる。なんか初めて言い勝った感があって満足する。


「今日はデートで一応お前の彼氏想定だろ。もう出よう。時間食っちまった」

「あ、うん。そうだね」

 

 怜はまた笑顔になってこちらを見つめた。

 そんな目で見つめられたからか走ったからか、俺は変なテンションになっていた。


「そうだ。せっかくだから公園戻るまで手でも繋ぐか」

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