幽霊との日常
それから何日か経ち、俺は取り憑いてる幽霊とうまいこと共存しつつある。住めば都、暮らせば家族、そんな感じで慣れてしまった。
ペットが最初に家に来たら鳴き声とかで少し戸惑うが一週間経ったらもう慣れてる。まさにそんな感じに近い。
「ふう、ここでいいか、ほらよ」
誰もいない俺だけが知ってる秘密の抜け道、少し気分を変えたいときとか一人になりたいとき、いつも通る。
「やったー! いっただっきまーす!」
俺が渡した母さんの作ったサンドイッチを美味しそうに食べる。
そうするとこいつを餌付けしてるみたいでちょっといい気分になる。動物園の動物にエサをあげるとなんか嬉しい、そんな感覚。
まぁこいつの場合感情がはっきりしててわかりやすくていいんだけど。
「なんか餌付けみたいだな」
「ん? まぁ仕方ないかな。実際そうだし、あ、今日はハムサンドだ」
むしゃむしゃと食べながら俺と会話を続けようとする。
よく考えると側から見たらハムサンドが浮いてるように見えるのか?
咀嚼された ハムサンドが浮いてるように見え……そんなわけないか。
たぶんこいつがなにかしらすると消えるんだろう。たぶん手に持つハムサンド自体は浮いてるように見えるが食べたら消えるんだろう。
こいつが前俺のシャーペンをポッケに入れた時に誰も浮いてるなんて騒ぎにならなかったし。
てかそうじゃなきゃこいつの着ている制服が周りから浮いてる状況に見えるはずだ。 それに幽霊は汚れないし汗をかかないらしい。
まぁ無機物だし当然だ。だからいつも同じ格好でもへっちゃらなんだそう。
今日までの日々でいろいろ学んだ。でも不思議なものなことは変わらない。
「まぁいいわ、それにしてもこの秘密の抜け道をお前に教えるとはなぁ」
「秘密の抜け道って小学校以来だよあたし。あ、言わないから別に気にしないでいいよ。二人の秘密ね」
ハムサンドを口にくわえながら俺に話しかける。
「幽霊が憑いてるってこともな。まぁ二人だけの秘密みたいなんは悪くない」
「なんかその言い方だといろいろ含みがあるように聞こえるんだけど」
「別にねえよ。でも秘密を共有するとなんかいろいろ深まるみたいだぞ」
「いろいろって何が深まるのかね」
「さぁ?」
仲が深まるというけれども深めるなら青葉にしたいから言わなかった。
「分かんないんだね」
そう呆れ顔で言う彼女ははまだハムサンドを口に含んでいた。
「俺は穏やかに平和に過ごすつもりだったのになぁ」
そうだぞ。平和に穏やかにモブになるように過ごすつもりだ。
平和に暗く……悲しくなるけど こんな幽霊に餌付けをするような人生を過ごすなんてことは想像だにしてない。
「そんな悲しい顔しなくたって、また脇役云々のこと考えてたでしょ」
「いやいや、だって俺主人公じゃないし、主人公になれるわけでもないんだぞ。そういうイベント的なものすら起きな……」
そう言って裏路地を抜けて大通りに出るととんでもない光景が目に入る。
「あぶねえっ!」
その光景を見て自然と声が出た。
ボールを持った少年が公演を飛び出し道路の真ん中に飛び出している。
こんなシチュエーションで「危ない」って声かけをしているということは。
もうおわかりだろうがトラックが来ている。
トラックは急には止まらない。あの距離と速度でブレーキが間に合うのか? それは分からない。
けど少年は気づいていないんだ。そっちがまずい。
「あ、あの子……」
「ちょちょちょちょっ! まずいだろあれ!」
体が自然と動いた。少年に向かって走り出す。急いで助けないと!
ヒーロー感覚とかそういう綺麗な感情ではない。人間としての道徳的な感情から俺は急に走り出した。
「おい! あぶねえって……あれ?」
俺の手には何も残らない。残らないわけじゃくて、何もなかった。
トラックがくる。その瞬間視界がコマ送りになるように進んだ。
漫画とアニメでみるようなあの感じだ。ただそこで頭に浮かぶことというのはその少年の手をつかもうとした。でも全然掴めなかった。そのことだ。
「まさか……幽れっ!」
そしてブレーキ音とともに強めの衝撃が体に走った。
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