主人公気質な友人
バタンと戸を閉め、あくまでいつも学校に行くように俺は右足左足とコンクリを踏みしめ学校へ向かう。
いつも通りの通学路、家から学校がそれなりだけど近くて歩いて帰れる距離だから自転車通学もしてない。
ほら、普通だろ。今日も俺はいつも 通り何も変わらない平凡な毎日を暮らすのだ。あんな幽霊なんかも家に帰ったらいないはず。悪い夢だったんだ。
「痛っっってえええええええええ!!!!」
路地裏から大きな声が聞こえる。俺は一体なんなんだ。大声コンテストのあの声の大きさを測るアレ並に大声を昨日今日と聞かされてる感がある。
まぁ半分以上は俺だが路地裏には荒戸がいた。
生徒会庶務で荒戸は知らないがクラスでもまぁまぁモテてている俺の友達
「お前……なにしてるんだ?」
「え、あ、あぁこれはその……猫と朝飯をかけての決闘というかだな」
「は、はぁ」
荒戸は下宿してるため常に金が無かった。
たまに生徒会長に奢ってもらったりしているから凌いでるとはいえ、食費とは常に格闘を続けている。
まぁどんな不幸かは知らないが大方朝飯を野良猫にでも取られたんだろうということは理解できた。昨日はカラスだったか、下宿ってのは食費だけでなく動物とも格闘しなきゃいけないなんて世の中は厳しい。
「早く行かないと遅刻するぞ」
俺が母から言われたセリフをそのまま荒戸に投げかける。
「ちょっと待て、あっ! お前っ! 覚えとけよ!」
逃げ去る猫に何を話しかけてるんだ。
「はぁ……オレの朝飯……」
「別に会長になんか奢って貰えばいいだろ?」
うちの学校の生徒会長は気前がいい、困ってたらお金を貸してくれるしこんな地味な俺のこともなぜかしっかり覚えてる。そこは少し嬉しい。
「いやでもあの人見返り求めるんだぜ? ちょっと気が引けるっつーか」
「美人で聡明な生徒会長に奢ってもらえるんだ、多少のハンデはありだろ」
「いやーそれなら無理して自分で買ったほうがマシかもな」
荒戸尚生とはこれまた中学からの同級で、俺のコンプレックスだった女みたいな名前仲間というところから仲良くなった。
ただ俺はもともと光 (ひかり)だったけど荒戸は尚生(なおき)になる予定だったらしかったが親の手違いだか市役所の手違いで尚生(なお)になってしまったらしい生まれた時から不幸な男子生徒だ。
まぁ読み方なんてのは別に自由でいいらしいけど正式な呼び方がそれならと荒戸はナオで頑固に受け入れてるらしい。
「ま、いつも通り会長の雑務手伝うんだな」
「勘弁してくれよ」
そんな荒戸は元々というか会ったときから主人公気質だった。
よくある漫画やラノベの主人公のようにごちゃごちゃした何かに巻き込まれることが多かった。
そしてそのごちゃごちゃした何かを受け入れ、解決してしまう。
そいつの人生はそいつのもの、というように人生の主役はその人生の持ち主でその人生を歩んでるやつだ。
そんな哲学を誰しもが持ってると思う。
俺も荒戸に出会うまではそう思っていた。
だが俺は中学の頃……
「おっはよーございまーす!」
会長の挨拶がけたたましくも響き渡る
この人のなんともいえないズカズカとした感じは俺のモノローグにまで割り込むのか。まぁいいか。
校門まで二人で談笑していると俺の通う赤羽学園生徒会長の仲原乃々(なかはらのの)が校門で一人、大きな声で挨拶している。
一人で生徒に声を掛ける姿は外面だけ見ればまさに理想の会長に見える。
「あ、ほら、会長いるじゃん。事情話してこいよ」?
「え、だからいいっ……」
「あー光くんに荒戸くんじゃん! おはよう」?
「おはようございます! 会長! 今日はいい天気ですね! お疲れさまです! それじゃ!」
そう言いながら足早に去ろうとする荒戸だったが
「おはようございます。会長、こいつまた朝飯を猫に奪われたみたいなんでまたなんかお願いしますよ」
「え? また? もー勘弁してよ。あたしの財布が空になっちゃうわよ」
「お前余計なことを……いや、ならいいですよ! うんそうだ。それに会長の財布もそろそろ省エネしなきゃ。ほら! 今ブームでしょ? これでオレも省エネ、庶務の仕事も多いしそれじゃ……」
「ダメよ。なんか買ったげるから、しっかり放課後お仕事よろしくね」
会長がごまかしの笑顔とそんな軽口で荒戸を逃がすわけもなかった。
「いやぁ〜光〜〜〜」
こちらにキラリと眩しいウィンクを飛ばした会長に首根っこを捕まれ購買部へ荒戸は変わり者の生徒会長にいつも通り引っ張り回される。
そんな様子を冷めた目で俺は見守るのだった
「生徒会の挨拶運動よりあいつの朝飯が優先なのか……」
……まぁ何を言いたいかというと、荒戸は実際高校に上がってからも変わり者に引っ張り回されている。主人公特有の不幸体質。 あいつがいる限りは周りの人間は脇役にすぎないんだ。
そう思いながら俺は男子高校生特有の汗と芳香剤の匂いのするロッカーを開き上履きへと履き替える。
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