見知らぬ少女
もしかしたら青葉が止めてくれたとかそんな都合のいいことをさっきまで考えていた自分が恥ずかしくなってコンクリートから視線を上げてみると、見慣れない制服を着た黒髪をかっちり切りそろえたショートボブの女の子が踏切の真ん中に立っていた。
「うわっ! って、急になんですか! びっくりした。もう、ほっといてくださいよ。いきなり誰だかわかんないけど俺は今こうやって自殺して人生のリセットボタンを押すんです! 邪魔しないでくださいよ」
俺は見知らぬ相手に何を言ってるんだ、そんなこと言ったら
「えっ自殺!? いや、やめたほうがいいよ! 死んじゃったら痛いよ!」
ほらちょっとずれてるけど自殺はやめろってうわべだけで止めにくる。
痛いのはあなただよって言いたいけど、とりあえず俺を止めてるんだろう。
でもだめだ。モブの俺は死んでも世界にそれほどの影響はない
「痛いしって……あなたに何がわかるんすか。それ以前にあなた誰」
「あぁあたし? あたしは岩清水怜っていうんだけど……ご覧の通り幽霊です。はい」
「は?」
意味がわかんなかった。厨二病で自分がヒーローだと錯覚することはよくあるが自分を幽霊だなんて正直言っちゃうとオカルトマニアも度を越すとこんなにもいろいろ痛くなるような人になってしまうのかと少し呆れた。
「だから、幽霊、あなた知らない? 五年前ここで事故にあったっていう」
「え、いや、まぁそれは知ってるけど……」
「そう! その幽霊、ほら! ね!」
「ね!」 とか言われても何が「ね!」なのか。俺には全く分からない
「いやいや幽霊とかないから、そんなん最近の小学生すら信じませんよ」
「えー? うーんどうやったらいいんだろうかなぁ……」
その幽霊と自称する女の子は顎に手を当て悩み続ける。見知らぬ痛い人だ。しかも女、危険だ。何をしでかすかわからんし、とりあえず俺はそれ以上否定せず会話を続ける。
こういう思い込みの強い人は否定するとキレるイメージがある。ドラマで何度か見た。
「はぁまぁわかりました。百歩譲って幽霊だとして俺に何の用ですか」
「譲らなくても幽霊なんだけどな……あ、そう自殺なんてだめだよ! 死ぬって痛いし、悲しむ人もいるでしょ?」
「いや、まぁでも……もう生きてる意味が見つかんないし」
「生きてる意味なんてなくていいじゃん! あたしなんて死んだ意味すらないんだから」
これが幽霊界のブラックジョークなのか? いやまだ幽霊と決まったわけじゃないが俺は今相当クレイジーな女の子に絡まれてる。
この事実だけは変わらない
「あの……あなた頭大丈夫ですか?」
俺はその場にあぐらをかきながら、一発相手にお灸を据えてやる一言をかまそうと画策する。こういう相手にはしっかりお前はおかしいということを伝えてやる必要があるんだ。
昔読んだ漫画にもそんなこと書いてあったぞ。
「いやまぁ死んでる人に大丈夫かって聞いて大丈夫です! なんて答える幽霊はいないと思うけど……心身ともには健康かな。不思議なことに、死んでるんだよ? 死んでるんだけどね」
もう意味がわからない。話の通じる相手ではないのか。日本人じゃなかったかもしれない。
マジで日本語に似てる言語で話す外国人なんじゃないかと思うくらいにはすれ違ってる。
「あのさ、本当に自殺するわけ?」?
すると見兼ねて彼女はまだ俺に話しかけてくる。
「まぁ……」
「本当に? 絶対?」
「あぁもうしつこいな! やめない!」
「あぁそうなんだ……わかったよ……」
やっと話が通じた。
いや死んだ人間と自称してても死にたくなるような俺の気持ちが分かったかと俺が思ったその時、目の前から急に自称幽霊が姿を消した。
「あれっ?」
びっくりして辺りをきょろきょろしていると
「じゃあさぁ……ここで死ぬのはやめてもらえないかなぁ?」
後ろから肩をトントンと叩かれ、真後ろから囁くように言われた。目の前で自称幽霊痛い子ちゃんと話をしていたはずなのに
「うわぁ! な、なんだ!? い、いつの間に!」
ギョッとした。不審者よりも何よりも恐ろしい何かが後ろにいた感覚で俺はその場に倒れこむ。
「はははは! これでやっとわかったかな?」
パッと目の前から踏切のライトのように点滅して、消えたり現れたりするその女の子を見て人間ではないということは確信した。
幽霊だ。きっと生きる俺を妬んで現れた見た目は可愛い悪霊だか死神だかなんかだろう。
最近の死神や閻魔様は可愛いらしいからな、これも漫画で見たことだけど
「自殺じゃなくて私に殺させて」とでもいうつもりか?
「は、ははは、なんだ? 本物なのか……?」
「だから何度も言ってるじゃん。だからやめよ! 自殺なんてしないのが一番だって」
「は、嫌だね。もうリセットボタンに指をかけてるんだ」
「そうかぁー。じゃあ! じゃあだよ?」
「なんだよしつこいな」
「ここで死ぬのはやめてもらっていいかな?
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