第177話 再建②
「カミュやウィグル、あとサミュエルも連れていけ。リオンと共に行くほうがいいだろう」
「はい」
カミュは、迷うことなく返事するが、ほかの二人は戸惑っていた。
祖国を離れることに少々思うところがあるようだ。
「あの、アルフレッド陛下にお話が。実はぼく……」
ウィグルは決意を込めて話し始める。
本当は女であること、性別と名前をずっと偽っていた事を。
「ですから、ぼくはこれ以上護衛騎士として働くことは出来ません。ずっと嘘をついていたのですから」
「そうか。ではウィレミナとして帝国で新たに過ごすといい」
「えっ?」
「新天地で丁度いいだろう? ウィグルは怪我なり病気なりで退役という事にして、暫く王都に来なければいずれ皆も忘れるさ」
軽い口調のアルフレッドに拍子抜けする。
「え、えっと?」
「それとも護衛騎士自体を辞めたかったか? リオンやマオを支えてくれはしないのか?」
「ウィグル……」
一人だけ逃げるなんて許さないとマオが恨みがましい目を向けている。
「や、辞めたいなんてないです。ぼくは、マオ様達を支えていきたいと思っています」
ウィグルがぴしっと敬礼をして、帝国に行くことを了承した。
「サミュエルはシフと離れるのが気がかりなのか?」
アルフレッドの問いに顔を赤くしながら頷く。
「気がかりではありますが、ぼ、俺は絶対にリオン様についていきます。シフもきっとわかってくれます」
離れてしまうという事は寂しいが、自分を救ってくれたリオンの元を離れる気はない。
愛情と恩義で板挟みにはなるが、自分の人生を変えてくれた主を裏切ることなど出来ない。
揺れ動く瞳を見ながら、アルフレッドは安心させるようにサミュエルを見た。
「シフと共に行けばいい。今更ここで被り慣れたフードや仮面を外すのも、勇気がいるだろう。帝国ならばサミュエルを知らないもののほうが多いし、心機一転新たな生活を送るのにちょうどいいだろう。サミュエルには向こうで医師として、シフにも魔道具師としてぜひ働いてもらいたい。ロキには話をし、了承を得ている」
サミュエルは安心し、胸を抑える。
「ありがとうございます、アルフレッド様」
ロキが良いというならば、きっとシフも一緒にきてくれる。
それに顔の傷もなくなった、きっとシフは前以上に自分を受け入れてくれるだろう。
まだ会う事は出来ていないが、話せばわかってくれるはず。
「帰ってきてすぐですまないが、リオン達は帝国へ再度いく準備をしていてくれ。必要な人材を確保次第、あちらの復興も行う」
帝国の街中ももともと荒れていたが、今回の戦いで更に荒れてしまった。
せめてトップを早く置いて、民のまとめも行なっていきたい。
「ぜひカイルもお連れください」
宰相であるヒューイがそう進言する。
「このような状況だからこそ、カイルの今後の為になる。危機の中でこそ、本来の実力が発揮される。それに」
ちらりとエリックに目を移す。
「エリック様も愚息がいない方が休めるでしょうから」
「お気遣い感謝する」
確かに体が不自由な今、カイルのようにレナンにちょっかいを出すものが少ない方が、精神の為にもいい。
「いえいえ。こんな時に言うのも何ですが、今いる温い環境よりも厳しい環境にて身の程を弁えて欲しいのです。エリック様が氷の王太子と評されるのは何故か、その重圧を少しは感じて欲しいので」
反発だけではなく、相手の立場をもっと知ろうという気持ちを持って欲しい、という事らしい。
「レナン様が何故献身的に支えているかという意味を、少しは知って欲しいのでね」
この安全な城でただ綺麗ごとを言うのではなく、現状の厳しさを知ってもらいたいという思いだ。
「では有難くお借りしますね。優秀な文官のカイル様が来るならば僕も助かります」
嫌味でもお世辞でもなく、リオンは本心から思っていた。
ここからは腕力ではなく頭脳と、そして言語力が必要になる。
帝国は数々の民と国で成り立っている。
早々に交渉や通達を出し立て直しを図らねば、周辺国から反乱が起こり、新たな火種が生まれるかもしれない。
アドガルムが介入することを示し、牽制に出なくてはならない。
「リオンすまないな」
ティタンが申し訳なさそうに声を掛ける。
「俺はこういう事が不得手で、お前にばかりに負担がかかってしまって」
「そんな事はないです、僕の力が役に立つのは凄く嬉しい事ですから」
嘘ではない。本心だ。
「お前がいてくれて本当に良かった」
エリックもしみじみとそんな事を言う。
「そんなエリック兄様、僕なんか兄様達に比べたら力もないし、度胸もない。役に立つことも少ないのに」
「そんな事はないぞ」
アルフレッドはリオンの手を握った。
「なんか、ではない。お前は立派な男だ。お前がいないとこの国は終わっていた。心から感謝している」
その言葉にリオンの胸は熱くなる。
ずっと子どもとして、年下として、弟としてしか見られていなかったと感じていた。
でも今は違う、一人前の男として認められたような気がして、こそばゆいような照れくさいような気持ちが湧き上がる。
「僕の方こそ、ありがとうございます。必ず帝国を復興させますから」
新たな目標に向け、リオンは誓いを立てる。
「そしてマオに早くお昼寝する時間を作ってあげるからね」
にこにこの笑顔でマオの方を見た。
豊かで皆が手を取り合える、そして愛しい妻がのんびりとしていても大丈夫な国を、再建していくのだ。
リオンの心に火が灯る。
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