第178話 在るべき場所
ある程度の方針が決まった後、ティタン達は属国を回る事となった。
協力してくれた事へのお礼や、受けた被害を確認しにいくという名目でまずはセラフィム国へと向かう。
リリュシーヌ達を眠らせてあげようというのもあった。
ミューズは父と母との本当の別れが近づいていることに心を痛めたが、
「私達はもう死んでるの。あるべきところに帰るだけよ」
と言うリリュシーヌの言葉に、頷く事しか出来ない。
その前に遺恨を無くさねばとミューズは祖父と叔父に声を掛けた。
家族水入らずの場で、周囲の事を気にすることなくシグルドは涙を流した。
「リリュシーヌ、すまなかった」
シグルドはミューズの中にいるリリュシーヌに頭を下げた。
「ずっと謝りたかった。お前を突き放してしまった事後悔している。挙句の果てに、病気で苦しんでいるお前を助けるどころか、辛い目に合っていることも知らず……本当に申し訳ない」
「いいのですお父様、もう済んだことですから。それに私はディエスにも会えて、ミューズも生まれて、本当に幸せだったの」
「リリュシーヌ……」
溢れる涙は止まらない。
「ディエス殿も、本当に苦労をかけた。俺が余計な意地を張らなければ今頃家族三人で過ごせたかもしれないのに」
「シグルド様、もしもの話はいいのです。それより僕の方こそ謝らせてください。病に倒れ、リリュシーヌを一人にしてしまった。ミューズにも辛い思いをさせてしまった。妻を守ると約束したのに」
ティタンの体を借りているディエスはリリュシーヌを見る。
「今度はもう一人にはしません」
寄り添い手を握る二人の様子にシグルドは感謝を述べる。
「ありがとう、ディエス殿」
娘を大事にしてくれて、ずっと思い続けていてくれて。
「ロキもありがとう……ずっと会いに来てくれていたのは知っているわ」
リリュシーヌは弟に笑顔を向ける。
「知っていたのか。俺様にもレナン王女のような力があればもっと早くに話せただろうに。リリュシーヌ、ディエス殿、すまない。俺様も結局は何も出来なかった」
自信家のロキが珍しく落ち込んだ表情になる。
「何を言うんですか。ロキ様はいつも僕達の墓前でアドガルムの事や世界の話をしてくれた。あの場から動けない僕達は、言った事もない、見た事もない話を聞けて本当に楽しかった。生前と変わらず接してくれてありがとう」
ディエスもまた笑顔を向ける。
遠くでその様子を見つめるレナンは会話は聞こえないが、泣きそうだ。
「良かった、家族で話せて本当に良かったわ」
幸せで笑顔にあふれているのを見て、嬉しい反面胸が痛む。
(でもわたくしがあの人たちを引き離さなくてはいけないのよね)
いつまでも一緒には居られないので、レナンはリリュシーヌとディエスの魂を体から離して欲しいと頼まれていた。
死者である二人がこの世にいつまでもいることは良くない。
そして一つの体に二つの魂があることは精神に異常をきたし、おかしくなるとも言われた。
「バルトロスもそうだったのかな……」
最期のバルトロスは明らかにおかしかった。
捕らえたヴァージルの話では二十年近くあの体を共有していたそうだ。
「いつからか本当の自分が分からなくなっていったのかしら」
自分の体なのに自分で動かせないというのは、かなりストレスがかかる。
しかもその相手が全くバルトロスを気遣うことなく傍若無人な動きをしていたら、いい気はしないだろう。
「やっぱり共生というのは難しいわよね」
兄弟、家族とはいえ、他人だ。
自分もヘルガと体を共有することになったら、エリックの取り合いで気が狂いそうになるし。
「レナン様、お待たせしました」
難しい顔で唸っているレナンに向けて、遠慮がちに声を掛けられる。
「すみません遅くなってしまって」
「いえいえ、全く待ってなどいないですから。少し考え事をしてしまっただけで」
レナンは申し訳ない思いで頭を下げる。
「それならいいのですが。そろそろレナン様にお願いしたいと思いまして」
そっとリリュシーヌが魔石を渡す。
「この中に私たちの魂を入れてください。そうすればミューズ達に連れて行ってもらいますから。その後は自分達で出来ます」
「……」
別れの時が来たのだと察すると、なかなか手に取ることが出来ない。
「大丈夫です。十分に話は出来ましたし、消えるわけではないですから」
思いを察したリリュシーヌはレナンの手に魔石が乗せる。
「こうしてまた家族で話が出来たのもレナン様のお陰です。ありがとうございます」
「僕からもお礼を言わせてください。レナン様、本当にありがとうございました」
リリュシーヌの手の上からディエスも手を乗せる。
「あなたのお陰で、娘も助かり、こうしてお義父さんとも話せた。もう悔いはありません」
二人の穏やかな顔を見て、レナンは涙を堪えつつ、力を使う。
リリュシーヌとディエスは目を瞑り、抵抗なくレナンの力を受け入れた。
魔石の光が落ち着き、二人は目を開ける。
「ありがとうございました、レナン様」
そう声を掛けるのは、ミューズだ。
笑顔ながらも涙を流している。
「レナン様、後は俺達に任せてください」
口調も堂々たる態度もティタンのものだ。
レナンもまた涙を流し、魔石をミューズに渡す。
「ミューズ様、ごめんなさい」
謝るレナンにミューズは首を横に振る。
「いいえ、レナン様のお陰でまたこうしてお母さま達と会えて、そして消えることなくまた安らかな眠りにつくことが出来るのです。本当に感謝しています」
ミューズは魔石を大事に愛おし気に抱きしめ、必ずセラフィム国へと連れて行くことを決意する。
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