第159話 合流
リオン達は追いつめられていた。
さすが皇宮内、手ごわい敵が多く、苦しい戦いを強いられている。
魔石を用い、魔力を補充しても数の暴力に圧され、思ったように行かない。
「なのに、これはどういう事?」
他の者を巻き込みやすいリオンの魔法は、このような建物内では扱いが難しく、思ったようにふるえなかったのだが、ルド達が現れてから戦況は劇的に変わった。
いや、正しくはレナンだ。
「リオン殿下、あなたの魔法は広範囲の及ぶと聞いております。私が防御壁を味方にかけますので、遠慮なくぶっ放してください!」
「えっ? あ、はい」
普段と違う様子と言葉遣いに戸惑いつつも、ルド達が頷くものだから、容赦なくリオンは魔法を放つ。
レナンの魔力がアドガルムの兵達を包む中、魔力の霧が辺りに充満し、容赦なく生命力を吸い取っていった。
「凄い、レナン様のは何て繊細な魔法なんだ」
一人ひとりを守るために張られたそれは、薄い膜のようなものなのにリオンの魔法を完璧に遮断していて、中の者に傷一つつかない。
今までのレナンからは想像もできない事だ。
「これはどういう事です?」
敵兵を退けることが出来、落ち着くとリオンが説明を求める視線を送る。
レナンが口を開く前にキュアがレナンに抱き着いた。
「無事で良かったです、レナン様! あたしもう心配で心配で」
ここぞとばかりに頬ずりをされた。
(キュアも皆も無事で良かったわ)
別れた時の凄惨な光景を思い出し、無事であった事に安堵する。
「お嬢さん、少しだけ待っていてね。今はこちらのリオン王子と話をするから」
リリュシーヌは苦笑をし、その言葉と反応でキュアはようやく気付く。
「いつものレナン様ではない?!」
「いや、もっと早い段階で気づくよね?」
リオンの突っ込みをものともせず、キュアはレナンにくっついたまま離れない。
「ですが、嫌な感じはいたしません。あなたは一体どなたですか?」
「私はミューズの母親です。今は魂だけの存在で、こうしてレナン様の体をお借りして、命を助けてもらったのですよ」
かいつまんでの事情説明をされ、リオン達もまたイシスに聞いたエリックの処遇についてを話す。
(エリック様はそのような事の為に攫われたの?)
レナンは真っ青な顔で呻く、余りの事に信じられない。
「皇帝ー私の父は、ヴァージル伯父様と離れるために、ずっと新しい体を探していたの。健康でそして魔力が高いものを。エリック様は間違いなく逸材だわ。王族だし、一国を墜とせる力があるのだもの、狙わないわけがないでしょ?」
イシスは何とも言えない表情をする。
「許せるわけがないわ」
レナンがリリュシーヌを押しのけ、つい前面に出てしまう。
「わたくしのエリック様を、そんな理由で渡すはずがありません。絶対に取り戻してみせます」
瞳を潤ませ、泣くのを堪える。
「あなたも皇帝達に狙われている一人なのよ。気をつけてね」
イシスはレナンを指差すした。
「ルビアに対抗できる唯一の力を持っているあなたは、厄介だけど貴重なものなのよ。万が一ルビアに何かあった時の代わりにされてしまうわ。エリック様を人質にしてきっとあなたを捕らえようとするはず」
「そこを何とか逆手に取れないかしら?」
敵の手に落ちれば、戦う事なくエリック達に近づける。
そうしたところでなんとかルビアの魔法から皆を解放すれば、犠牲が少なくてすむのでは?
「それは自らを囮にする、ということでしょうか? 僕は反対です」
ニコラは流石に心配だ。
レナンに何かあれば、例えエリックが助かったとしても、生きていけないのではないか。
「でもそれが一番確実に近づける方法だわ。ニコラはエリック様の体で命令されたら、動けなくなるし」
「うぐっ」
使えないと言われたようで、胸が痛い。
「ですが、危険ですわ。こうして抜け出した事が知られれば、もっと酷い扱いをされるかもしれませんよ」
オスカーも折角逃げ出したのに再び捕まることを良しとしなかった。
次も逃げられるとは限らない。
「私も一緒だから、大丈夫よ。絶対に王女様を殺させたりはしないわ」
リリュシーヌは胸を張って答える。
「それにロキにも連絡したのよ、あの子ならきっといい働きをしてくれるわ」
ルド達を助けた際に連絡をつけて貰ったのだ。
リリュシーヌ達の魔力で結界なども物ともせず、無事に通信することが出来たのだ。
「この結界の中で連絡が取れたですか……凄いです」
規格外の魔力量の話を聞き、マオも驚嘆する。
「うん、ビックリし過ぎて言葉が出ないよ」
アハハと笑いつつ頼もしさを感じていた。
バルトロスが二人分の魔力を持つというが、レナンは今三人以上の魔力を保有している。
「だから、そこのあなた」
リリュシーヌが指を指したのはカミュに後方でこっそり隠れるサミュエルだ。
仮面がない為にひっそりと隠れていたのである。
「ぼ、俺ですか……?」
急に呼ばれ、明らかに動揺している。
「そうよ。その怪我を治してあげるからこちらにいらっしゃい」
皆の視線が集まり、委縮する。サミュエルの顔を見てもルドやライカも特に何も言わないから、こうして注目を浴びるなど思っていなかった。
「大丈夫だよ」
セシルもカミュもサミュエルに寄り添ってくれる。恐る恐る側まで歩いていくと、そっと顔に触れられる。
びくりと体を震わせれば、リリュシーヌは安心させるように微笑んだ。
「酷いものね。もう大丈夫だから」
リリュシーヌが手を翳せば、瞬く間にサミュエルの顔が元に戻っていく。
「凄い……」
イシスもキュアも驚いていた。
こんなに早く、しかも古傷なのに治ったのだ。
自分達の魔法とは次元が違う。魔力も技術も桁違いだ。
「戦う前に憂いは失くした方がいいじゃない。ちなみにそちらの彼はどうする?」
声を掛けられたギルナスは自身の義手を見て、少しだけ逡巡し、首を横に振る。
「いや、遠慮しておく。あなた方にそこまでされる義理はない」
今後生きていられるかもわからないし、本来敵だ。
サミュエルは自分の顔を触りつつ、驚愕で声も出ない。
髪も目も揃っている。
視界が急激に戻ってきたことで、見え方が変わり、くらくらした。
「ありがとう、ございます」
長年の悩みがこんなにもあっさりと解消され、まだ気持ちが追い付いておらず、実感がわかない。
だが、セシルもカミュも喜んでくれてるし、ウィグルに至っては涙まで流してくれている。
「よかったね」
短い言葉ながらも主から言われた事でようやっと実感が湧いてくる。
「式には必ず呼ぶですよ」
マオも嬉しそうだ。
「本当にありがとうございます……」
ついにサミュエルは涙を零す。
「これで攻め入りやすくなったわね。では最後の仕上げよ」
リリュシーヌはキュアとリオンを呼び寄せる。
「二人にぜひ頼みたいことがあるの」
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