第147話 状況把握
皇宮に向かう途中、ウィグルが急に真っ青な顔をする。
「リオン様、大変です」
「どうしたの?」
ウィグルの焦った様子に、ただ事ではないというのがわかる。
「アドガルムに戻った仲間たちから連絡が来たんです。ティタン様が帝国の者に操られたそうで」
「ホントに?」
信じられないのと同時に、もしかしたら勝てないかもと思ってしまった。敵になんて回したくなかったのに。
「ミューズ様を人質に取られてしまったそうです。それでルド様も操られているティタン様の前では成す術もなく……セシル様が決死の覚悟で帝国の結界を破り、数名のものを帰還させたようです。ただ、ルド様、ライカ様、セシル様の安否は不明、と……」
ウィグルがわたわたと説明し、後ろでサミュエルが息を飲むのが聞こえた。
「サミュエル、気をしっかり持て」
「……はい」
義弟セシルを案じ、サミュエルが拳を握り、震えていた。
リオンは頭が痛くなる。ティタンに本気で力が振るわれたらリオン達では絶対に勝てない。
ダミアンに対してもあれだけ苦戦したのだから、それ以上に強いティタンと戦うというのは、ただ殺されるだけだ。
何より兄弟で刃を交えたくない。
「ティタン兄様と対面しただけで瞬殺されるかもしれないね。ここで引き返したいものはいる? いるなら送るよ」
皇宮内では結界の影響で転移や通信石が使えないようだから、引き返すなら今だ。皆冷や汗をたらしながらも首を横に振る。
「そういえばエリック兄様とは連絡は取れた?」
カミュが首を横に振る。
「残念ながら、全く応答がありませんでした」
さすがにもう中に入っているだろう。思いのほか時間がかかり、出遅れた事に後悔が募る。
大丈夫だと思うけれどと考えつつも、どこかで心配する心があった。不安が拭えないのだ。
(ティタン兄様がこうも簡単に操られるのだもの。エリック兄様に対しての用意もしてるだろうな)
あの兄の裏をかくとしたら、どうするだろうか。
そんな事を考えていると、ようやく皇宮の正門に着く。死屍累々のこの状況にリオンは眉を顰めた。
「兄様達がいない。もう中に入っていたって事かな」
屍人達の死体、そしてセシルやルド達の魔法が使われた痕跡が残っている。
だが、ティタンやミューズの姿をしたルビアはいない。会わずに済んだ事にホッとしたが、ルド達の姿もないのは心配だ。
(彼らも操られてしまったか?)
ルビアの死体を見つけ、不快気に顔を歪める。両断されて痛かっただろうに、その表情は笑っているように見えた。
(最初から仕組んでいたんだろうな。捨て身でとは言え、目的を達成させられてさぞ満足だろうよ)
「ルビア、絶対に許さないです。ミューズ様の体を乗っ取るだなんて」
懐いていたミューズを思い、マオがイライラしながら死体を蹴る。
砕けた魔石もまた地面に転がる、ティタンの力で粉々にされただろうかけらがキラキラと宙を舞った。
マオのそのような行動を諫める気はない、リオンも許せない気持ちでいっぱいだ。
大好きな兄と、優しい義姉を奪われた。何としても取り戻さなくては。
(それにしてもここに来てから寒気が止まらない。ぞわぞわするっていうか)
悪寒が消えないのだ。嫌な感じしかしないし、入る必要がなければ入りたくない。
「ミューズ様達を元に戻すことは出来るですか?」
「ルビアを倒せれば正気に戻れるのだろうけど、体を取られているとなるとどうしたらいいか。それにミューズ義姉様の側にはティタン兄様がいる。兄様を避けて狙うには難しいだろう。レナン義姉様の力を借りるのが最善策だと思うんだけど」
(仮にレナン義姉様の力で戻せたとして、ティタン兄様は正気を保てるだろうか)
ミューズを見殺しにしたと思っているなら、心が無事なのか心配である。
普段は何でもはねのける程の強さをもつ兄だけど、ことミューズの事に関するととても脆い。
(僕もそうだけど、厄介だよね)
人を好きになる事で弱くなったとは思えないけれど、どうしても弱点となってしまう。
「さてそろそろ行こう。これ以上手遅れにならないように」
エリック達とも連絡はとれていない。向こうも今どのような状況かわからないが
乗り込むしかないだろう。
「こちらの疲弊も激しいし、戦力もあまりない。戦いをなるべく避け、まずはエリック兄様達を見つけよう」
敵に遭遇している可能性もあるし慎重に進まなくては。
(これ以上自体が悪い方向へ向かわねばいいけれど)
来る者を拒むことなく開かれたままの正門、誘いこまれているとしか考えられない。そこを見つめ、リオンは祈る。
どうか皆で無事に祖国へと戻れますように、と。
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