第141話 ルビアの計画
皇宮の入口ではいまだ激しい攻防が続いている。
「やはり強いわよね、ティタン様は」
ルビアは怯むことないティタンの圧倒的強さに恐怖を覚えつつ、様子を見ている。
生身の人間なのに痛みに負けず、寧ろ笑顔で嬉々として戦っていた。
粘っているが、ルビアの手駒の中でも特に力の強いあの者でも、ティタンを止められるとは思えない。
赤髪の護衛騎士も着々と屍人を減らしており、ルビアの軍勢は確実に減っていた。
アドガルムの兵も後方のセシルが全体を見て指揮を出しているので、けが人はいても死人までは出ていない為、手駒を増やせない。
(少しはこちらに引き込めるかと期待したのに)
恐怖心を煽ろうとも、ティタンの猛攻と、ミューズの治癒で、そこまで取り乱す者はいない。
「もうそろそろいいわよね」
奥の手を出そう。
戦況は少しずつアドガルムへと傾いていて、ミューズはホッとした。
早くティタンの回復をしたいが、あの者との戦いが終わらないと近づくことは出来なさそうだ。
下手な事をして邪魔をしてはならないと思いつつも、はらはらしながら様子を見ていた。
『ミューズ』
「誰?」
ミューズは不意に声を掛けられ周囲を見回す。
聞き覚えのある様なないようなその声は、どこか懐かしさがあった。
「どうかされましたか?」
セシルが訝し気に問うと、ミューズは声が聞こえたのだと正直に伝える。
「声、ですか?」
「どこかで私を呼ぶ声がしたの」
この喧騒の中では聞こえそうにもないような、か細い女性の声だ。
この喧騒の中では聞こえそうにない程小さい声なのに、やけにはっきりとミューズの耳に届いた。
『こっちよ』
ミューズはその声に振り向いた。
ぼんやりと透けたその姿は明らかに生きている者の姿ではない。
だがミューズはその人を知っている。
「お母様?」
ミューズは振るえながらも、その女性を見つめた。
『えぇそうよ。会えてうれしいわ』
金の髪に金の目、ミューズにとても雰囲気が似ている女性がそこに佇んでいた。
女性はすっと人込みに紛れて行ってしまう。
「ま、待って!」
戦いの最中で、絶対に会えることなんてない人だが、確かめたい気持ちは抑えられない。
あの顔や声、紛れもなくミューズの母親であるリリュシーヌだからだ。
「いけません、ミューズ様!」
セシルがミューズの腕を掴んで止めた、このような屍人の中を単身で行くのは危険すぎる。
「離して!」
ミューズはセシルの腕を捻り、拘束を解いた。
奇しくもシグルド達の教わった護身術が役に立ったのだ。
「ミューズ様駄目です! ティタン様!!」
自分では止められないとあらん限りの声で主に向かって叫ぶ。
ティタンもようやく気付いた。ミューズの様子がおかしい。
「おおおおおっ!!」
目前の大男が力の限り戦斧を振り下ろした。
「っ、邪魔をするな!!」
気をとられたティタンは避けることが出来ず、その攻撃をまともに受け止める。
だが、その凄まじい力に、さすがのティタンも膝が地に着いてしまった。
「ぐうぅぅぅっ!」
ティタンを叩き切ろうと大男も力を込める。
「ルド、ライカ!」
二人にも呼びかけながら、セシルもミューズを追いかけようとするが、屍人達に行く手を阻まれ、進めない。
「ミューズ様、止まってください!」
そんな呼びかけにもミューズは応えない。
それどころかどんどんと敵地の中を進んでしまう。
屍人も誘導するように道を開けているため、ミューズの進行を邪魔するものは誰もいない。
「お母様、お父様!」
リリュシーヌの隣には青い髪をした男性もいる。ミューズよりも少し年上の、気弱そうな男性だ。
会ったことはないが、父親だろうというのが感覚でわかった。
『ずっと会いたかった』
そう言うものの、二人にはまだたどり着けない。
「私も、ずっと二人に会いたかった」
ミューズは嬉しそうな顔で二人に向かって走る。敵地である事を忘れてしまいそうな程の笑顔だ。
「感動の対面で良かったわ」
(わざわざセラフィムまで足を伸ばした甲斐があったわ)
二人の墓を暴き、魂を捕えてきた。
リリュシーヌは生前の魔力の強さからか抵抗が激しかったけれど、何とかいう事を聞かせることが出来、こうして役に立っている。
「後はミューズを使って第二王子を操れば……ふふ、アドガルムも困るでしょうね」
もうすぐミューズはルビアの元へとたどり着く。
「そうは行かない……」
肩から血を流し、荒い息をついたティタンはルビアを背中に剣を突き刺した。
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