第88話 作戦会議

 作戦会議の時間。


 ロキは国の結界、並びに転移術についての説明をし、鉄の箱のようなものを出した。


「フェンとも話し合い、結界を張る魔道具を作りました。簡易的なものはガードナー家にて使用していたため、それをもとに大規模なものを作製、量産しています。動力源は魔石を使用し、時折魔術師による魔力の補充を行なっていただきたいのです」

 魔術師達をに目を向ける。


「そして転移魔法の使用者を集おう。サミュエル、お前が信頼できる魔術師を選出しろ。転移魔法は便利だが、危険性が高い。教えるものは厳選する」


「俺が、ですか……わかりました」

 フードの中から小さな返事が聞こえる。


「転移魔法は触れているものが対象になる為そこそこの人数が必要となります。また多大な魔力を使う為、十分な魔力回復薬も必要になるでしょう。これについてはセシルを筆頭に薬師達に頑張ってもらいたい。シュナイ医師にも協力を仰いでくれ」


「僕の力が役に立てるならば頑張ります」

 セシルは頭を垂れる。


「魔法の座標は行った事のある場所になるので、使用するものは一度俺様と共に帝国の側まで行くぞ。昔あの辺りまで行ったことがあるから心配するな。アドガルムで迎え撃つか帝国に攻め入るかは今後の向こうの動向次第だから、どちらになってもいいように戦略は練っておこう。采配についてはアルフレッド王に任せます。俺様は国のトップの言う事に従うからな」

 信用度の低い言葉ではあるが、そう言い切った。


 ロキはここで言葉を区切り、視線を向ける。


 交代という事らしい。


「では、次は僕が報告をさせて頂きたいです」

 リオンが手を上げる。


「諸外国に約束を取り付けてきました。さすがに味方になれ、とまでは言いませんでしたが、もしも帝国が味方になれと言ってもしばらくは躱していて欲しいと頼みました。国が滅ぶような危機でない限りはそれを維持して欲しいと。同盟国でもない、友好国にそこまでの事は無理強い出来ませんからね。ただ報酬としては、もし何もなければ交易品の税を二年は下げると。そして帝国からの打診が来て断った際は、更にその期間を延長とすることを約束してきました。そして属国からの特産品の贈答、これにはパルス国の貴金属、そしてセラフィムの薬、シェスタの珍しい魔道具などが求められてますね」


「俺の国の物か!」

 静かに参加するよう言われていたグウィエンがつい口を挟み、セトに止められていた。


「そう、人気です。諸外国とその三国はあまり積極的な交流をしていないので、今回アドガルムを通して交易の糸口にしたいと考えているようです。これがきっかけで、今後もしかしたら直接打診がいくかもしれませんね」

 リオンはにこりと微笑む。


「そして転移魔法は僕は独学で習得したので、サミュエルの補佐をしましょう。口下手な彼にこの仕事は少々酷でしょうから」

 リオンの気遣いにサミュエルは安堵した。


「ならばシフをつければいい。あいつも器用だし、物怖じしない性格だからな。魔道具師として王城に出入りもしているし、魔術師達とも親しいだろう。リオン王子には戦の対策に回ってもらった方が効率いい」

 シフはロキの末の娘で、フェンの補佐をしている。


 魔法にも詳しいから魔術師達とも仲は良い。


「ですが、ご迷惑ではないでしょうか? 結界の魔道具つくりで忙しいだろうし」

 サミュエルはもごもごと言うが、ロキは意に介していない。


「リオン王子よりは忙しくないさ。では解決だ、次はエリック王太子か?」

 サミュエルが戸惑っているのを無視し、次の話に移る。


 リオンもシフならまぁいいかと思って、口を閉ざした。


 まだまだ話は続くし、マオが既に眠そうにしているので無為に話を長引かせるものではないなと判断したのだ。


 リオンは一礼し、エリックに話を引き継いだ。


「帝国の一部の戦力については適宜報告書は回していましたが、変わった力を持つ者が多く、また転移魔法という危険な魔法が厄介ですね。それ故にこうして城に結界を張り籠城のような形をとっていました。それが今回ロキ殿の活躍により、アドガルム国全体に結界を張れることになった。これはとても大きな功績でしょう」

 ロキは褒められ、嬉しそうだ。


「今帝国側で転移術を使用できると確認したのは三名。ですが皇子達も恐らく転移魔法にてここに来ています。誰が使えるかはわかりませんが、来た時も帰る時もパルス国の領地を通った形跡はないので、魔法を使用した可能性は高いですね」


「どこかに潜んでいる、というのはないのでしょうか?」

 ティタンの疑問にエリックは否定する。


「ヴァルファルに忍ばせている者によれば、皇子たちは今皇宮にいるらしい。潜伏はないようだな」

 近くに隠れ潜み、裏をかくというのはなさそうだ。


「俺達に襲い掛かってきた四人のうちルビアという女は、不本意だがレナンを中心に撃退する予定です。ロキ殿が言うにはあの女は死霊を操る、それを浄化出来るのはレナンしかいないらしいので」

 苦々し気にエリックが呻いた。


「レナンは有象無象を止めてくれればいい。その間に俺達でルビアを仕留める。そうしたらすぐに転移魔法でアドガルムに戻ってきてくれ、ここで帰りを待っていて欲しいんだ」


「いえ、わたくしも最後まで残り、皆の役に立ちたいです」

 レナンはエリックの言葉を拒否する。


「わたくし、最後まで見届けたいと思っているのです。それに、エリック様と離れるのは嫌」

 ぎゅっとエリックの服を掴む。


「我儘だし足手纏いなのはわかります。でも一緒にいたい」


「レナン……」

 情に流されてはいけないとは思うのだが、葛藤はある。


 危険な戦場と、結界の張られた王城であればどちらが安全かは比べる事もないくらいはっきりしている。


 今回はシグルドやキールは王城の守りについてもらう。


 転移術を使うようなもの達が来ても、二人がいるならば大分凌げるからだ。


 そこにロキもいてくれるというから、頼もしい。

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