第64話 同盟国
「人払い、ご苦労様」
リオンはサミュエルとウィグルに労いの言葉を掛ける。
「どうなったのですか?」
フードの奥からサミュエルはそわそわした声を出した。主の側にいられなかったのだ、心配して当然だ。
「刺客は来たよ、やはりマオを攫おうとしたから帝国の者だね。でもマオのおかげで助かった」
リオンは二人に向かって何かを投げる。サミュエルは顔を顰め、ウィグルは何の気なしに受け止めた。
「何です? これ」
「刺客の指だよ」
ウィグルは閉じた手を開いたが、現物を見て血の気を失った。
「うわぁ!」
思わず放り出したものをカミュが受け止める。
「大事な証拠だ、ぞんざいに扱うな」
「す、すみません」
カミュに叱咤され、ウィグルは小さくなる、子犬のような男だ。
「魔力はあまり感じられませんが、いや……」
指輪のついたものにサミュエルは興味を示す。
「このクラブの指輪。ただならぬ魔力を感じます」
一つだけあるこの指輪だが、確か他の指にもついていた。
「落とせたのはそこだけなのです。あとは多分男の本体にあるのです」
「これ、マオ様がやったの?!」
卒倒しそうな顔色でウィグルはびっくりしている。実践経験が少ないウィグルに心配になるものの、マオは頷いた。
「ウィグルも負けていられないよ、頑張ってね」
リオンは苦笑するものの、期待していると声を掛ける。
「はい!」
憧れの存在にウィグルは元気よく返事をした。
(ウィグルもしかして……まぁいいか)
心に飛来した考えはどこかに追いやり、マオはため息をつく。
「さて疲れたのです。早く休みたいのです」
着慣れないドレスで疲れてて、更にそれで戦ったのだ。
もう休みたい。
「いいよ、部屋でお休み。ウィグルも付き添ってあげてね」
フラフラな二人を見送り、リオンはこの国の王のところに向かう。
帝国の襲撃の様子を映像で取れたのだ。王城内で刺客に襲われたとあらば、国王を少し脅して協力を得られるように出来るかもしれない。
リオンは内心でほくそ笑んでいた。
「マオには助けてもらえたし、こんな美味しい証拠は取れるし、嬉しい限りだよ」
笑顔のリオンにカミュはもしかして掴まったのもわざとなのでは? と疑問を抱かざるを得なかった。
「という事で国王様。これで帝国の手口はわかって頂けましたか?」
リオンが魔石に撮った映像を流しながら、ここシシル国の国王に問いていく。
まさかリオンが城内で襲撃されていたとは知らず、冷や汗をかきながら困った顔をしていた。
「いやはやリオン様が無事でよかった。それにしても帝国の手の者とは。ここシシルも他人事ではないですな」
国王マックスは恐ろしいと言わんばかりの表情だ。
「娘のルナベルも美しい。帝国にかどわかされないように気をつけなくては」
「……そうですね」
リオンは特にいう事もなく相槌を交わす。
「リオン殿もそう思いますか」
ずいっと身を乗り出すマックスに、リオンはめんどくさそうな雰囲気を感じる。
「僕のマオが一番美しいですけどね」
本心からの言葉を述べた。
「しかしリオン様の今の配偶者は平民とお聞きしました。聡明なリオン様にはやや不釣り合いのような気もしますが」
ちらちらと探るように見てくるマックスに、リオンは静かに怒りを溜めていく。
「寧ろ素晴らしすぎて僕には勿体ない妻ですよ。けして手放すことはありません」
きっぱりと断るとリオンは交渉に移る。
「では帝国の脅威も見たわけですし。どうでしょう、同盟の話は」
「そうですね、リオン殿からの話なら一考したい。それで、ルナベルの事なんだが」
娘をリオンに嫁がせたい国王と、同盟国の話を済ませて一刻も早くマオの元に戻りたいリオンの攻防が始まる
「ルナベル王女はどうぞ僕以外に嫁がれることをお勧めします。僕は離縁もしないし、アドガルムには側室制度はない。それに兄二人も妻以外の女性を侍らせたりはしない、僕もそれに倣います」
リオンはずいっと同盟についての誓約書を持ち出した。
「帝国の脅威を皆で跳ねのけようというものです。シシル国以外もこれから回るわけです、ぜひ一つ目の協力国になって欲しいのですが」
マックスは誓約書を見ながら唸っている。
「確かに重要だ。だがルナベルの幸せも大事だし」
「王女は要りません」
きっぱりはっきりとリオンはそう言った。
「断るのならば僕はすぐに次の国に向かいます。申し訳ないが時間もない、兄に先程の襲撃について報告書も書かなければいけない。帝国が軍事を整えて攻めてくるか、それともこちらが先に打って出るか、猶予はあまりないのです。そして僕は既に妻がいるんだ、結婚しているのに婚姻話なんて不毛ですよ」
リオンはカミュとサミュエルに目配せをした。
「いつでも出立出来るようにしていてくれ。これ以上マックス様とする話はなさそうだ」
「お待ちを、リオン様!」
ようやくマックスがまともに話を聞いてくれるようになった。
(余計な話さえなければもっと早くマオの元に戻れるのに)
リオンはため息をついて、形ばかりの非礼を詫び、話の席についた。
一応対等な立場だ。アドガルムの代表としてしっかりと仕事をこなさなくてはならない。
今度は努めて冷静に話が出来た。
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