第15話 ぐーたら王女

「ついにこの日が来たのです!」

 マオは喜びを全身で体現し、飛び跳ねていた。


 夢のぐーたら生活を送るため、リオンが迎えに来るのだ。


 嬉しくて仕方ない。


 荷物など殆どなくついてきてくれる侍女もいない身軽なマオは、世話になった侍女頭のフランだけに最後の挨拶をした。


「良かったですね、マオ様。どうか幸せに」

 この城で唯一優しくしてくれた彼女は、こっそりとお菓子と刺繍のついたハンカチをくれた。


 マオの境遇に同情し、可愛がってくれた味方だ。


「ありがとです、必ず幸せなのんびり生活をゲットするです!」

 マオははちきれんばかりの笑顔だ。


 一応シェスタの体裁の為、ドレスと持参金が用意された。


 薄く化粧をしたマオは見た目だけは綺麗になった。








「今日は一段と可愛らしいですね」

 リオンが先日と同じく変わらぬ笑顔で褒めてくれる。


 針の筵のような重く息苦しい雰囲気の中、リオンの周囲だけは明るく感じた。


 事実こんなところから連れ出してくれるリオンはマオにとって光り輝く存在だ。


「大事にするよ、一緒に幸せになろう」


「お昼寝出来るなら喜んで!」

 思わずマオの口から本音が漏れた。


 その言葉にリオンは破顔した。


「いいね、お昼寝か。好きにしていいよ」

 声を出して笑うリオンはとても幼く見え、意外と可愛らしかった。


 マオもそんなリオンを見て安心する。


 良かった、きちんと連れて行ってくれそうだと安心した。


「さぁ姫君、僕と一緒に行こう。道中は長いから、君のしたい事をもっと聞かせて」


「はい!」

 昼寝の他には猫を飼いたいとねだってみるか。


 久しくもふもふに触っていないので、許されるならばぜひ触りたい。


 第一王子であるエリックはグリフォンを操るというし、そのもふもふにも触れてみたいなと思っていた。


「お待ちください」

 アドガルムの一行の行く手を阻んだのは、選ばれなかった王女達だ。


「何でしょう? 祝福の言葉なら先程両陛下とグウィエン様から頂きました、他にも何かありますか?」

 とても祝いの言葉を貰えそうな雰囲気ではないのに、リオンはわざとはぐらかす。


 しっかりとマオの手は握ったままだ。


「この婚姻はシェスタとアドガルムを繋ぐもの。つまりリオン様の相手はシェスタの王女が条件ですよね? ですがそのマオは王女とは呼べない身分。婚姻相手にはなりえませんわ」

 どよめきが走る。


 国王でさえ目を剥いた。


 この婚姻は国のトップ同士が了承したものだ、それを勝手に反対するとはどういう了見だ。


 シェスタ国の王太子であるグウィエンだけが、この後の展開をわくわくしながら見ている。


 リオンがどう反応するか、楽しみなのだ。


「つまりマオ様は王女じゃないから結婚は無効と?」

 リオンは肩をすくめた。


「これは国王同士の取り決めでなされたもの、あなた方の言葉ではなくなりませんが」

 リオンの言葉にも動じない。


「そもそもマオは回復魔法が使えません。それはこの国の女性として致命的なものです」

 シェスタは騎士と聖女の国だ、女性であれば誰でも大なり小なり回復魔法を使用できる。


「今回の戦でも我が国の女性は大いに活躍をしていました。今後、万が一にも同じことが起きたら、マオでは役に立たないどころかお荷物です」

 実際に昼寝とかぐーたらしたいとしか考えてない。


「人質としての価値もマオにはありません。絆を深めるならば、私たちの方がふさわしいですわ」

 胸を張って言う王女達に、リオンはため息をついた。



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