第13話 真面目王女

 ティタンは二度目のセラフィム国に来てウキウキしていた。


 女性と話す機会もなく過ごしてきた中で、単純にあのような可愛らしい子が妻になるのは嬉しい。


 政略とはいえ、少しずつでも距離を詰められればいいなと期待してしまう。


 たとえ冷遇されようが、彼女が側にいて、その顔さえ見れればいい。


 セラフィムに何かしようなど、思いもしていなかった。







「お待ちしていました、ティタン様」

 ティタン達一行は優雅なもてなしを受ける。


 華やかに彩られた部屋で、見た事のないお茶やお菓子が振舞われた。


「セラフィムでは薬草づくりが盛んです。お茶にしたりこうして焼き菓子にしたりなど、日常的に取り入れております。健康にもいいですよ」

 ミューズはとても可愛らしい格好で、にこやかな笑顔をしていた。


「どういった風の吹き回しだ?」

 嬉しくもあるが、警戒心が強くなる。


「この前は色々と失礼な事をしてしまい、反省しました。ですのでせめて少しでも償おうと思いこのような催しを。お嫌でしょうか?」

 ミューズの懇願するような視線に嫌とは言いたくない。


 ティタンはちらりとセシルを見ると渋々頷いてもらえた。


 主の恋心は応援したい。


「すまないが毒見はさせてもらう、それでもいいか?」

 セシルならば大概の薬草は知っているし、毒物もわかる。


「勿論です。こちらもそれくらいはわかりますから」

 ティタンの言葉は当然と受け止めた。


 警戒して当り前だし、寧ろ断られることだってあり得た。


 それなのにこのように承諾してくれるという事で、ミューズは確信する。


 ティタンは良い人だと。


 捕虜の話を聞いてから、噂に聞いていた武人としてのギャップに悩んでいたが、優しい人柄なのだと考えが至った。


 それが良い事なのか悪い事なのかはわからないが、深い事まで考える性格ではないように見受けられ、逆にミューズはこの人の人となりが心配になる。


 第二王子という立場なら、上に何かあれば代わりを務めなけらばいけないだろう。


 何だか放ってはいけない人柄に、ちょっとだけ惹かれ始めていた。








 薬草に詳しいセシルの毒見で、お茶会は特に何もなく進む。


 ミューズもホッとしていた。


 国を離れる姉への最後の孝行だと、弟妹達が開いてくれたものである。


 本心からの贈り物にミューズも嬉しかったし、ティタンも弟妹達に優しい、終始和やかな雰囲気だ。


「こちらもお勧めですよ、ミューズ姉様が手塩にかけて育てた薬草によるお茶です」


「まぁ、あれがもう収穫できるくらいになっていたの?」

 ミューズは自分がいるうちは飲むのは無理だと諦めていた。


「少々早くに収穫してしまったため数は少ないのですが、最後にと思いまして」

 茶葉が少なく二人分しか煎れられなかったらしい。


 セシルが毒見で飲もうとしたのをミューズは提案する。


「良ければ私が。少ししかないですからね」

 仮に毒が入っていたとしても、これならミューズも毒を飲むことになる。


「ミューズ王女が大事に育てたものか、味わって飲むよ」

 頭の中で間接キスである事実に仄かに照れながら飲み込む。


 甘い香りが口の中に広がった。


「姉様、蜂蜜も合いますよ」

 ミューズのカップにセーラが蜂蜜を入れる。


「ありがとう」

 仲良し姉妹にティタンも破顔した。


 定期的に里帰りを許していいかもしれないと思った時に、突然視界が揺れた。










「何を、入れた?」

 朦朧とする意識に、ティタンはミューズの弟妹を睨みつけた。


 毒見は全てセシルが行なったし、最後に勧められたお茶もミューズが毒見していて、完全に油断した。


(何の毒だ?)

 多少のものなら耐性はある。


 だが、この感覚は味わったことがない。


 頭がくらくらして考えが纏まらない、体にも力が入らず膝をつく。


「あなた達、ティタン様に何を飲ませたの?!」

 自分も一緒にお茶を飲んでるのに彼だけこのような症状が出るのはおかしい。


 ティタンに近づこうとするミューズをルドが手で制し、剣を抜いた。


「我々では判断がつきません。あなたが安全な人かも」

 冷めた口調に自分も疑われているのだと、ミューズはようやっと気づいた。


「やめろ、ルド。ミューズはそんな事しない」

 セシルがすぐさま症状を診、解毒も試みる。


 セシルに渡された薬を飲むが、症状は治まらない。


「ライカ、先刻の茶葉を取り上げろ!何の葉か見たい」

 ライカも剣を抜いており、近衛兵達を牽制する。


 セシルは渡されたポットを見て匂いも嗅ぐが、首を横に振る


「違う、この葉でこのような効能はない。何を飲ませたんだ?」

 セシルは知識を総動員し、とりあえず解毒の魔法をかける。


 葉っぱはブラフだし、水に溶けやすい毒は無味無臭だ。


 蜂蜜も関係ない。


 ミューズのカップに入れる際に、袖口に隠した解毒薬を入れただけだ。


「私たちに触れたら解毒薬はわからなくなるわよ!」

 セラフィムの王族を捕らえようとしたルド達を制する。


「このような事をして、ただですむと思わないでくださいよ」

 ルドの殺気とライカの怒りが満ちていく。


「そちらこそ。間もなくティタン様は僕らのいう事しか聞かなくなる。そうしたら君たちは終わりだ、ティタン様と戦う事が君たちに出来るのかい?」挑発めいた言葉が発せられた。

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