第6話 勇者パーティとアイドルについての考察

 アレクとイヴァンの発声練習が元でノクタリア草原で起こりかけた魔物暴走スタンピードは、イヴァンによる全力の威圧発声プレッシャーによって事前鎮圧された。


 魔物モンスターの大半はイヴァンの声に怯えて正気に戻り、興奮が解けなかった残りものを勇者一行パーティで殲滅した。


 ——少しは素材が取れるよう加減したが……駄目だったな。基本的に儂らの加減は加減の意味をなさないのか。


 そういうわけで儂らは日が沈みきる前に商業都市プラナの宿屋へ戻った。

 そして、『アイドル』修練のために思い切り身体を動かし魔力を放った身体を癒すために、早めに床へ着いていた。


 アレクやイヴァンは、すでに夢の中。行儀よく並んでベッドで眠っている。


 天才魔法使いである儂は、眠る二人の横で目を瞑り、頭だけを動かしている。


 ——考えることが山のようにある。まあ、退屈しなくていいんだが。


 儂らは、世界平和維持機構によって勇者一行パーティとして認定された。


 機構は永世中立国ロンドアルド王国の王都ゼランにあり、勇者一行パーティ養成機関も同じく王都にある。


 なぜ、そんなものがあるのか。

 というと、この世界には魔物モンスターだけじゃなく、魔物を統べる魔王が数十年から百数年単位で誕生するからだ。


 魔王が生まれると、勇者も生まれる。


 そして、何度も何度も繰り返される絶望と希望の中で、世界は、国家は、勇者が魔王を倒せるようになるまで待つことを、拒絶した。


 勇者とその仲間たち、になりそうな若い芽を囲い込み、厳しい鍛錬と学習の場を与える——勇者一行パーティ養成機関の誕生である。


 ——儂もアレクもイヴァンのヤツも、誰ひとりとして親兄弟の顔なんざ覚えていない。


 金欲しさに売ったのか、それとも使命に駆られて泣く泣く送り出したのか。

 どちらなのかは定かではないけれど、恨みや寂しさを抱く以前の問題だ。


 ——顔も覚えていない親族など気にしてられるか!


 少なくとも儂は、そういう無関心さで今まで生きてきた。


 それに、元よりこの身に宿った魔力は強大で、養成機関に預けられなくても家族とやらに嫌厭されたであろうことは予測ができている。


 ——にしても、オーリーはあんな貴重な古文書と古代魔道具アーティファクトを、いったいどこで手に入れたんじゃ……?


 寝落ちる前に湧いた疑問が、儂の目をうっすらと開けさせた。


 視界に差し込んできたのはランプの灯。

 その灯の下で布仕事をしているオーリーの背中だった。


「……絶対に皆さんをアイドルに……誰からにも愛され、好かれる……味方になってもらえるような、そんなアイドルに……」


 ブツブツと呪文を唱えるように呟く背中は、どこか鬼気迫るものがあった。


 どうしてオーリーがそこまでアイドルにこだわるのか。


 ——オーリーはアイドルにこだわっている、わけじゃない? 儂らをアイドルにしたがっている……? なんでじゃ?


 真剣に考えようと寝返りを打った儂は、けれど考えがまとまる前に寝落ちてしまい、そして、朝が来た。





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