第4話 夢と希望と、そして愛
「「「——……あ、あいど、るぅ……?」」」
それは、勇者
「「「……って、なに?」」」
オーリーから『あいどる』という兼業提案を聞いた僕は、疑問符を浮かべまくっている年長組をよそに、聞いたことのないその職業に思いを馳せる。
——オーリーさんの言う、あいどるってやつが、身体を使う職業だったらいいなぁ。
僕、イヴァンは勇者アレクさんの仲間となるべく養成機関で修行を積んだ戦士だ。
身体を動かすことが元から好きだった僕にとって、修行は苦行じゃなかった。だから『あいどる』とやらも、身体を使う仕事なら大歓迎だ。
「いいですか、皆さん。『アイドル』というのは古代文明で崇め奉られていた存在です」
「……信仰の対象かなにかか? 神にでもなれっちゅーことか? それとも神官か?」
ウルスラさんが顎をさすりながら首を傾げる。
あいどる、という職業が古代文明から存在したことには驚きだけれど、僕たちは勇者
民と平和に無償の奉仕はしても、崇められるような存在じゃない。
「いいえ、違います。神や神官などより、もっと身近で応援したなるような尊い存在のことです」
「えっ、えー? ふわっとしすぎ……それが『あいどる』? 全然イメージが湧かないんですが」
「……なんじゃ、儂らの神性を高めるってことか? 神官でもないのに無理じゃろ、無理」
僕はウルスラさんの言葉に同意するようにコクコクと何度も頷いた。
神聖な力を扱える職業は、神官や僧侶、巫女だけだ。
神様の祝福を受けて勇者として洗礼されたアレクさんでさえ、できやしない。
——神性がどうだとか、そういう話じゃないんだろうな。切羽詰まったこの状況での提案だから、そういうことじゃないんだ。
僕は机の上でぎゅうっと手を組んで指が白くなってしまっているオーリーさんに問いかけた。
「あの、オーリーさん。『あいどる』ってのになると、お金を稼げるんですか? 『あいどる』って、なにを売るんですか?」
僕たちはお金がなくて困っているのだ。
なにか価値のあるものを売るから、対価としてお金をもらえるのだ。
僕は静かにオーリーさんの答えを待った。握り込んだ手のひらが、少しだけしっとりと汗で湿る。
対するオーリーさんは、やけに堂々としていた。元からいい姿勢をさらに良く伸ばし、多分、フードの奥でニコリと笑った。
「夢と希望と、そして愛です」
その答えに、僕らはしばしの沈黙を共有した。
「夢と……」
「希望と」
「愛……。ですか」
——えっ、えー? それって売り物? どうやって売買するんだろう。世間は僕らの知らないことで満ち溢れているんだなあ。
だなんて、若干引き気味にオーリーさんを見ていると、オーリーさんはなにかのスイッチが入ったかのように拳を握って力強く訴えはじめた。
「そう、夢と希望と愛です。明日への生きる希望と活力、豊かな人生、夢見のいい朝……そういうものを提供するのが『アイドル』です! 皆さんの勇者活動にも通ずる部分があるかと思います。ですから、決して無駄にはなりません!」
「オーリーさん。真面目に言ってます?」
僕らの気持ちを代弁したのはアレクさんだ。
白けた視線を送る僕らに気づいたオーリーさんは、恥ずかしそうに咳払いをすると、
「真面目に言っています。すべてこの歴史的史料価値の高い古文書に書かれていることです」
そう言って、散らばる銅貨を腕でひとまとめにして端に寄せ、綺麗になった机の上に一冊の本を置いた。
古文書というわりにはピカピカで汚れはない。フルカラー箔押しホロPP製本でタイトルは『アイドルのすべて』という本だった。
「こ、古文書? これが? 僕、古文書ってもっとこう……古びた紙とか巻物だとか石板だとか……そういうものだと思ってました」
「いや、これこそが古文書だ。儂も一度だけ見たことがある。今の技術では作れない高度な製本技術を要した本……それが古文書だ」
ウルスラさんが、やたらと神妙な顔つきで古文書『アイドルのすべて』を眺めていた。
その真剣な様子に、この本が本物の古文書であるのだ、という実感が湧き上がる。
「それで、俺たちはなにをすればいいんですか?」
同じことをアレクさんも思ったのだろう。今度は真面目で真剣な顔でオーリーさんに問いかけた。
「いいですか、皆さん。『アイドル』は素晴らしいパフォーマンスと愛嬌を披露してこそです! ……まずは、
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