第11話 おっぱい好きなのに?

 女の買い物は長いって言うけど……


「う~ん、あれもこれも可愛くて、迷っちゃう!」


「おい、朝宮」


「えっ、なに?」


「かれこれ、1時間も悩んでいるのだが?」


「ああ、まだそれしか経っていないんだ」


 俺はゾッとした。


 時間感覚どうなっていやがる。


「お前は将来、売れっ子グラドルになるんだから。遅刻しないように、ちゃんと時間管理術を身に着けておけよ」


「うるさいです~、エロマネージャー」


「嫌らしい響きだな……」


 俺はため息をこぼす。


「じゃあ、もうイッチーが決めてよ」


「えっと、そっちの方で」


「却下」


「おい」


「だって今、適当に選んだんでしょ?」


「だって、上がらないんだよ」


「上がらないって?」


「お前の水着を選ぶのなら、テンション上がるのに」


「ほえっ!?……って、将来グラドルやらせるから?」


「ピンポーン」


「このドクズ」


「とりあえず、その元気ボディはちゃんと隠すような服を選んどけ」


「分かったよ~。あたしが谷間を見せるのは、イッチーだけにする」


「いや、俺は結構なんで」


「ちょい、マジで殴るよ?」


 朝宮がまたバイオレンス発言をするので、適当になだめて服を買ってやる。


「イッチー、ありがとう♪」


 何だかんだ、すぐご機嫌になる朝宮さん。


 全く、チョロい女だぜ。


「ねえ、いま何か失礼なこと思わなかった?」


「いや、朝宮はやっぱり、可愛いなって」


「……ふ、ふぅ~ん?」


「ていうか、腹へったな」


「うん、そうだね~」


「何が食いたい?」


「クレープ」


「だから、もう甘いのはいいって。普通にメシ食いたいわ」


「イッチー、何が食べたいの?」


「えっ? うーん……ラーメン」


「デートでそのチョイスは引くわ~」


「お前、ラーメン嫌いなの?」


「いや、好きだけど……でも、臭いがついちゃうから」


「大丈夫だよ、朝宮は臭くても可愛いし」


「……この男、殴りたい」


 そう言いつつ、朝宮は握った拳をパッと開く。


「良いよ、ラーメンで」


「えっ、マジで? お前みたいなリア充女子が好みそうな、オシャレなとこでも良いぞ?」


「別に、そんなオシャレなとこばかり行っている訳じゃないし……」


「じゃあ、行くか」




      ◇




 ニンニクの香りがすごい。


「ねえ、ラーメン屋にしても、もっとあっさり系というか、臭いがあまり気にならないところの方が……」


「安心しろ、朝宮。俺もついている」


「きゃんっ、頼もしい……って、ならないよ!」


「ていうか、2人そろって臭くなれば、気にならないだろ」


「いや、周りの目が……」


「じゃあ、2人だけの世界に入るか」


「……イッチーって、意味不明だよね」


「いやいや、俺は分かりやすくクズのつもりだけど?」


「だから……はぁ~、もう良いや。お腹すいたし、入ろ」


「オッケ」


 入店すると、テーブル席に案内される。


 メニューを開く。


「わぁ、美味しそう~」


 さっきまで文句を言っていた朝宮さんも、何だかんだ目をキラキラとさせる。


「トンコツ醤油か……最近のメジャーだな」


「臭いがすごそうだね」


「やめとくか?」


「ううん、ここまで来たら……」


「ていうか、最近の女子って辛いモノすきだろ? 朝宮、この激辛いっとけよ」


「やだ、あたし辛いの苦手」


「ああ、だからクレープが良かったのか?」


「それだけじゃないけど……」


「おっ、ミルクラーメンってのがあるぞ」


「マジ、どれ?」


 あれこれ言いつつ、俺たちは注文を済ませる。


「で、イッチー、どうかな?」


「何が?」


「ここまでの感想は」


「それは俺の方が聞きたいくらいだけど」


「あたしは……まあ、楽しいよ。イッチーがいじめてくるけど」


「いや、いじめてないし」


「てか、アッキーの時と比べてどう?」


「えっ? お前、他の女の話はするなって言ったじゃん」


「そうだけど、気になるから……」


 朝宮は口をとがらせる。


「とりあえず、朝宮はうるさいかな」


「はっ?」


「あ、ごめん、にぎやかだな」


「言い直しても遅いよ」


「あと、周りの男どもがお前のこと、チラチラ見ていたから。何だかんだ、モテるんだなぁ~って」


「へっ? そ、そう……」


 朝宮は途端にモジモジとし、髪をイジイジとする。


「あ、あたしがモテることに対して、イッチーはどう思う?」


「嬉しいな、将来が楽しみだよ」


「うん、絶対にそう言うと思った」


 朝宮はジト目を向けた直後、苦笑する。


「おまたせしました~」


 注文の品が来た。


 朝宮がミルクラーメン、俺が醤油トンコツだ。


「「いただきます」」


 ずる、ずるる、と。


「う~ん、おいしい~♪」


「良かったな」


「イッチーはどう?」


「まあ、美味いな」


「ねえ、ちょっと交換しようよ」


「断る」


「何で? ケチ」


「俺は牛乳が嫌いなんだ」


「えっ、そうなの? おっぱいは好きなくせに」


「ああ、おっぱいは好きだな。特にデカいのは」


「ちょっ、何て堂々としたスケベ発言……」


「使えるからな」


「……それって、どっちの意味で?」


「さあな」


 俺はラーメンをすする。


 朝宮は、またジトっとした目を向けて来るけど……


「……まあ、それがイッチーだもんね」


 と、何だか意味深なつぶやきをするけど。


 俺は気にすることなく、ラーメンをすすり続けた。




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